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白きドレスは赤い色
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「……この式は、これ以上続けられません」
司会者の声が、会場全体に重く響いた。
歓声も笑顔も消え、残ったのは憤りと嫌悪。
壇上で拘束されたままのベリッシマを、複数の男たちが取り囲んでいる。
「警察に引き渡せ。公の場での調査が必要だ」
「証拠は山ほどある。逃げ道はない」
その言葉に、観客席から賛同の声が上がる。
ベリッシマは肩で荒く息をしながらも、必死に反論しようと口を開く。
「俺は……俺はやっていない! これは罠だ!」
だが、その叫びは誰の耳にも届かない。
男たちの手が腕を引き、会場出口へと引き立てていく。
――だが、そこで終わらなかった。
会場を出る直前、ベリッシマは最後の力を振り絞った。
「離せェ!」
肩を揺さぶり、肘で護衛の脇腹を突く。
不意を突かれた護衛が呻いた一瞬の隙に、ベリッシマは全力で駆け出した。
怒号が背後で飛び交う。
「追え! 逃がすな!」
絨毯を蹴り、廊下を走り抜け、非常口の扉を蹴破る。
夜風が肌を刺し、外の闇が彼を呑み込んでいった。
――その夜。
港町の片隅、人目の少ない石造りの路地。
ランタンの灯りに照らされ、二つの影が向かい合っていた。
一人は黒い外套に手袋をはめたコスタ。
もう一人は絹のショールを羽織り、金髪を風に揺らすエルヴィナ。
「……約束は守ってもらうわよ。協力したんだから」
彼女は艶めいた微笑を浮かべながらも、その目は金銭の輝きしか映していない。
「ええ、もちろん」
コスタは穏やかな声で答えると、内ポケットから一枚の紙を取り出した。
手袋をしたまま、その紙――長い名前のリスト――を彼女の手に滑らせる。
「これが報酬だ。君が欲しかった“取引先”の情報もすべて入っている」
「ふふ、やっぱり仕事が早いわね」
紙を懐にしまい、くるりと背を向けるエルヴィナ。
石畳を軽やかに歩き、夜の闇へ消えていく――その瞬間。
「動くな!」
鋭い声が響き、複数の足音が路地を埋め尽くす。
闇から現れたのは、警察の制服を着た男たちだった。
「エルヴィナ・グラース、貴女を詐欺および情報取引の容疑で逮捕する!」
「……は?」
振り返ったエルヴィナの表情が、初めて狼狽に染まる。
「ちょっと待って、何かの間違いよ!」
手を伸ばすが、警官たちは容赦なく彼女の腕を捻り上げ、手錠をかけた。
混乱する彼女の耳に、冷たい声が届く。
「……匿名で通報があった。“貴族の情報を路地裏で取引する女”がいると」
エルヴィナの視線がコスタを探すが、そこに彼の姿はもうなかった。
彼女の懐にあったリストは、今や押収品として封筒に収められ、証拠品タグが付けられる。
こうして、彼女の悪事は瞬く間に公になり、社交界から完全に消え去った。
ではベリッシマはどうなったのか――
その答えは数日後、朝刊の一面に載ることとなる。
《元貴族ベリッシマ、変死体で発見》
港の倉庫街。朽ちた木箱の影に、冷たく横たわる彼の姿があった。
警察の発表によれば、容疑者は孤児院のシスター。
動機は――公表されなかったが、その瞳に宿る影が全てを物語っていた。
こうして、かつて社交界を賑わせた二人の悪は、異なる形で幕を下ろした。
その裏に誰の仕掛けがあったのか、知る者はごくわずか――そして、彼らは口を閉ざし続けた。
司会者の声が、会場全体に重く響いた。
歓声も笑顔も消え、残ったのは憤りと嫌悪。
壇上で拘束されたままのベリッシマを、複数の男たちが取り囲んでいる。
「警察に引き渡せ。公の場での調査が必要だ」
「証拠は山ほどある。逃げ道はない」
その言葉に、観客席から賛同の声が上がる。
ベリッシマは肩で荒く息をしながらも、必死に反論しようと口を開く。
「俺は……俺はやっていない! これは罠だ!」
だが、その叫びは誰の耳にも届かない。
男たちの手が腕を引き、会場出口へと引き立てていく。
――だが、そこで終わらなかった。
会場を出る直前、ベリッシマは最後の力を振り絞った。
「離せェ!」
肩を揺さぶり、肘で護衛の脇腹を突く。
不意を突かれた護衛が呻いた一瞬の隙に、ベリッシマは全力で駆け出した。
怒号が背後で飛び交う。
「追え! 逃がすな!」
絨毯を蹴り、廊下を走り抜け、非常口の扉を蹴破る。
夜風が肌を刺し、外の闇が彼を呑み込んでいった。
――その夜。
港町の片隅、人目の少ない石造りの路地。
ランタンの灯りに照らされ、二つの影が向かい合っていた。
一人は黒い外套に手袋をはめたコスタ。
もう一人は絹のショールを羽織り、金髪を風に揺らすエルヴィナ。
「……約束は守ってもらうわよ。協力したんだから」
彼女は艶めいた微笑を浮かべながらも、その目は金銭の輝きしか映していない。
「ええ、もちろん」
コスタは穏やかな声で答えると、内ポケットから一枚の紙を取り出した。
手袋をしたまま、その紙――長い名前のリスト――を彼女の手に滑らせる。
「これが報酬だ。君が欲しかった“取引先”の情報もすべて入っている」
「ふふ、やっぱり仕事が早いわね」
紙を懐にしまい、くるりと背を向けるエルヴィナ。
石畳を軽やかに歩き、夜の闇へ消えていく――その瞬間。
「動くな!」
鋭い声が響き、複数の足音が路地を埋め尽くす。
闇から現れたのは、警察の制服を着た男たちだった。
「エルヴィナ・グラース、貴女を詐欺および情報取引の容疑で逮捕する!」
「……は?」
振り返ったエルヴィナの表情が、初めて狼狽に染まる。
「ちょっと待って、何かの間違いよ!」
手を伸ばすが、警官たちは容赦なく彼女の腕を捻り上げ、手錠をかけた。
混乱する彼女の耳に、冷たい声が届く。
「……匿名で通報があった。“貴族の情報を路地裏で取引する女”がいると」
エルヴィナの視線がコスタを探すが、そこに彼の姿はもうなかった。
彼女の懐にあったリストは、今や押収品として封筒に収められ、証拠品タグが付けられる。
こうして、彼女の悪事は瞬く間に公になり、社交界から完全に消え去った。
ではベリッシマはどうなったのか――
その答えは数日後、朝刊の一面に載ることとなる。
《元貴族ベリッシマ、変死体で発見》
港の倉庫街。朽ちた木箱の影に、冷たく横たわる彼の姿があった。
警察の発表によれば、容疑者は孤児院のシスター。
動機は――公表されなかったが、その瞳に宿る影が全てを物語っていた。
こうして、かつて社交界を賑わせた二人の悪は、異なる形で幕を下ろした。
その裏に誰の仕掛けがあったのか、知る者はごくわずか――そして、彼らは口を閉ざし続けた。
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