キミの目に僕はもう映らない

あくあ

文字の大きさ
7 / 8

脆く儚い

しおりを挟む
次の日、侑也が目を覚ますとまだ昌美からLINEは来ていなかった。「おかしいな」と思いつつも侑也は普段通り「おはよ」とLINEを送った。そこから彼は準備を済ませると学校に行った。学校の3時間目も終わり、あと1時間でお昼休憩になるというのにまだ昌美からの返信は無い。



侑也は少し疑問に感じ、「何かあった?」とLINEを送った。その後も返信が無いまま時間は過ぎ、すでに放課後になっていた。侑也はバイトまでの道のりを歩きながら少しイライラしていた。



「何でなんにも返してくれないんだよ!」



そんなことを考えながら歩いていると後ろからマサシが声をかけてきた。



「オイ!侑也!」



侑也が振り返るとマサシは走ってきたのか息を切らしている。



「どうしたんだよ。」



侑也はマサシのほう少し冷たく見ながら言う。



「いや、最近ダブルデートもすること無くなったし、お前ら順調なのかなと思って」



そう言うマサシに侑也は少し笑みを浮かべて



「順調だよ」



そう言った。ただ、まさに今順調ではない状況を感じていた侑也はマサシから避けるように「俺バイトあるから急ぐわ!」とだけ言ってその場を足早に去った。マサシはそんな侑也に少し違和感を感じたものの声を掛けられないでいた。



その夜、バイトが終わった侑也はスマホを開いてすぐにLINEを確認する。



「まだ返事が無い・・・」



徐々に彼の不安は大きくなっていた。



「もしかして・・・」



そう思った侑也は昨日美奈子だと思って間違って昌美に送ったLINEを見た。



「もしかして・・・コレ?」



すぐに侑也は昌美にLINEを送った。そのLINEには「間違えてLINEを送った相手はオンラインゲームで知り合った女性」であること、「ただの友だち」であること、「会ったことが無い」ということ、「浮気ではない」ということなど、とにかく正直に謝った。



「怒ってるよな」



そう思い侑也は自分がしたことを悔いた。ただ、彼の中にはどこかで「たかがLINEを送る先を間違えただけ」、「言えばわかってもらえる」といった思いがあった。だが、それでも昌美からの返信は無い。



「会いに行って話を聞いてもらうか」



そう考えるも怒っている時に無理に「話を聞いてくれ」というのはどこか気が引けた。自分がバカなことをして怒らせたのだ。とりあえず彼は昌美からの反応を待つことにした。



ただ、次の日になっても、またその次の日になってもLINEは来ない。侑也はついに昌美の家まで足を運んだ。まだ、「話し合えばわかる」と希望を持って。



昌美の家の前に着いた侑也は昌美の自転車があることを確認して電話を掛けた。いくら鳴らしても出ない。その後も何度電話をかけ直しても出てくれない。彼はLINEを送ることにした。



「今家の前に居る。会って話がしたい。」



そうLINEを送った侑也は待ち続けたすでに辺りは夜になっていて、不審者だと思われても困るため侑也は帰ろうとした。すると侑也のスマホが鳴った。



「昌美だ」



そう思った侑也はすぐにLINEを開いた。



「もう信じられない」



そう一言だけLINEには書かれていた。侑也はすぐに昌美に電話をかけるが出てもらえない。



「会って話がしたいんだ。お願いだから外に出てきてよ」



侑也はLINEを送るが一向に返信はない。



ここで彼は初めて気付いた。





赤い糸が切れてしまったことに





彼にとっては「友達にLINEしただけ」のこと。ただそれだけのことだがそんなことは昌美には関係なかった。彼女にとっては侑也だけがすべてだった。



「正直男の人あんま信用できないんだよね。」



侑也は昌美が言った言葉を思い出していた。彼女は前の彼氏に浮気をされて傷ついていた。それでも侑也のことを信じて連絡を取り合い、告白を受け入れてくれた。彼女は侑也のことだけを見ていた。



だが、侑也は自らの手で彼女をさらに深く傷つけた。たとえ自分にとっては大したことでなくてもそれで傷つく相手はいる。取り返しがつかないこともある。



侑也は自分がしたことを心から悔いた。でももう遅かった。悔いなんていうものは何の役にも立たない。それよりも悔いが無いように彼女と接することのほうがよっぽど大切だということが身に染みた。



彼は昌美の家からトボトボと帰る。これまでの思い出がよみがえり、彼はそっと涙を流した。冬の冷たい風がいつも以上に体を冷やした。夢のような時間はとても脆く、儚く終わった。



次の日から侑也はあらゆることに対してヤル気を失っていた。学校やバイト先でも終始空元気を見せるが、彼の心はもうすべてのことがどうでもよくなっていた。



そして、3年生の卒業式の日。この日も侑也は空元気を見せながらマサシと話をしていた。



「ちょっとトイレ行ってくるわ」



そう言い、侑也はトイレへ向かう。すると、3年生がぞろぞろと卒業式が行われる体育館へと向かっていた。



「!?」



何かに気付いた侑也は3年生のほうを見る。そこには普段と何も変わらない昌美の姿があった。彼女は友達と楽しそうに話をしながら体育館へ向かっていた。そんな彼女が侑也の目の前を通り過ぎる。まるで侑也が見えないかのように。





彼女の目に侑也はもう映らなかった。





侑也は通り過ぎた昌美の背中を見つめたまま立ち尽くしている。



彼は昌美の目に自分が映らないことに耐えられなかった。卒業式が終わると1人ですぐに下駄箱へと向かい学校をあとにする。帰り道には綺麗な桜が咲いていた。ただ、その桜の美しさは侑也にとってはなぜか辛かった。それは卒業式とともに春の訪れを告げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

処理中です...