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第1章  伏龍

第6話  朝餉

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 昨日はいつもよりも夜更かしをしたが、日の出と共に起きる。

 気怠さはあるが、ここ二週間で一番清々しい朝だ。

 なんだか香ばしい、良い匂いがする。

 タープテントから抜け出すと、安定のジョシュアさんが、朝食を用意してくれている。

 俺に気づいたジョシュアさん

「オハヨウ コドモ スコシマテ ゴハン デル」

 俺も挨拶をする。

「おはようございます。ジョシュアさん」

 今までなら、俺はこの後水溜りで水を集め。

 そのあと顔を洗う。

 そして、何日かに一度、裸で草原を転げ回る。

 何の為かって? ――――体を洗うためになっ! はっはっはっ!

 だが、昨日水だけは十分確保された。

 ……誠に遺憾ながら。。。

 なので、いつものように水溜りで顔を洗う。

 すると、ジョシュアさんが怪訝な顔で話掛けて来た。

「コドモ マホウハ ツカエ ナイ?」

「え? ――――魔法ですか?」

 俺も戸惑いながら答えた。

 すると、ジョシュアさんが手招きする。

 アメリカンな手のひらが上のヤツな。

 恐る恐る近づいてゆくと、おもむろに両肩に手を置き、共通語の呪文?を唱える。

 何か分からない力に体の表面を撫でられたような感覚。

 くすぐったくも不快でもない。

 すると、あーら不思議! 得も言われぬサッパリ感。

 しかも、服まで一緒にきれいに成っているでは、あーりませんか!

 なんかシャララランって感じ?

「ドウダ ――コドモ?」

 やばい、惚れるを通り越し、すでに骨抜きのグデングデンです。

 すぐにお礼を申し上げた。

「すごく気持ち良いです。ありがとうございます。ジョシュアさん」

 俺は、期待を込めてジョシュアさんに尋ねる。

「私も魔法が使えますか?」

 ジョシュアさんは、少し困ったような表情で言った。

「デキル スグ ムリ」

 え? ――俺も魔法が使えるの?

 ヤッター!! 小躍りしたい気分。

 すると、その時、俺の背後から、シェリルさんが視界に入ってきた。

 お寝坊さんとは思っていませんよ。

 女性は色々大変ですからね。

 まぁ、何もしなくても、シェリルさんは、お美人さんですけど。

 それに内緒ですが近づくと……いいパヒュームがっ。クラクラ。

 シェリルさんは、俺の目をみて、微笑み挨拶をした。

「ごきげんよう」と 

 ごっ! ……ごっ! ごきげんようだと!

 なんだ! そのハイソはあいさつは! 返し技が分からない。

 こんなときこそ、働け! 俺の小さな灰色の脳みそっ!

「ごきげんようございます」

 ……負けだ。

 それも……完膚なきまでに燃え尽きた。

 心の中で、両手を地面につけ、頭を垂れる。

 落ち込む俺を気にすることなく、シェリルさんはジョシュアさんと共通語で挨拶をする。

 魔道具のキャンプファイヤーの周りに椅子とテーブルが置かれており、着席を促される。

 テーブルの上にはランチョンマットが敷かれ、ナイフとフォークとスプーンがセットされている。

 野宿のクオリティーが、鬼高っけぇぇっ!

 食事の用意に動き回るジョシュアさんへ、手伝いを申し出ようか逡巡するうちに、テーブルに料理が運ばれてきた。

 用意された朝食は、細かく切ったパンをスープで煮込んだパン粥と白身の肉を香ばしく焼きサイコロ状にカットしたステーキだった。

「ノコス イイ タラナイ イエ」

 優しい眼差しで、言うジョシュアさん。

「はい。ありがとうございます。ジョシュアさん」

 ジョシュアさんは、俺の次にシェリルさんへ料理を運んだ。

 料理の内容は同じだが、ジョシュアさんは、俺への料理には手を加えてくれたらしい。

 シェリルさんの料理は、スープとパンに一枚肉のステーキだった。

 全員が席に着く、シェリルさんとジョシュアさんが、食膳の祈り?的なものを唱えている。

 俺は、一人ずつ目が合うのを待って、目礼をする。

 そして、声に力と感謝を込めて放つ。

「いただきますっ!!」

 荒野で食料を分けてくれた二人に心よりの感謝と尊敬をっ!

 謎の肉は、コッテリした鶏肉みたいな不思議だが、とんでもなくおいしい味で、パン粥を口に含むと、昨晩のように目頭が熱くなった。

 パン粥は飲み物です。

 隠し味は、ジョシュアさんの気遣い。

 ――――いや! 隠れてねぇか。ははは。

 昨晩は、パン半分でお腹一杯だったが、今日の料理は全部いました!

 いましたではない。

 満腹中枢が働くより前に、胃袋は限界を迎えたが、俺は勝利した。ウッップッッ。

 食器の片づけを申し出たが、ジョシュアさんが微笑みながら、目の前で魔法の呪文を唱えると。

 食器に付いた油やらなにやらが、きれいに無くなった。

 魔法ってすごいねっ! そして、オイラは役立たずっ!

 ジョシュアさんに休んでいろとお茶を渡される。

 それは、薄い黄色のオリエンタルな風味の落ち着くお茶でした。

 シェリルさんがおもむろに話しかける。

「貴方の今後について、ジョシュアと二人で話しあったのですが、提案させてもらっても良いですか?」

 もちろん否やはない。

「昨日も話した通り。最終的には一番大きな街、王都に行くのが宜しいと思いますが、その間、どうすれば良いか、食事も含めて、提案します。一つ目は、こちらです」

 そう言ってシェリルさんは、俺に折り畳まれた紙を渡してきた。

 俺はその紙を広げてみる。

 そこには作為的に読みづらい様に書き崩したカタカナと見知らぬ単文がびっしりと書かれていた。

 一番初めの文章は、こうだ。

 『ボク ハ ミミ ガ キコエマセン』

 他には『ドウカ ゴ マイ ホド デ トマレル ヤド ハ アリマセンカ』や『タベモノヤ ハ ドコデスカ』などが書かれている。

 これは旅の生活で必要に迫られる言葉が多岐にわたり丁寧に書かれていた。

 俺はバッと顔をあげシェリルさんを見る。

「耳が聞こえないと騙るのはお嫌かもしれません。また、貴方のような子供が、耳も聞こえないのに一人で旅をするのは、非常に奇異なことです」

「ですが、幸いこの辺りは、辺境です。野盗などが出るほど人の行き来があるわけでもありません。村を経由して、街へ行き。街から馬車で王都を目指してはどうでしょう?」

「その間に困ったら教会を頼ると良いでしょう。どの村にも、だいたい教会はあります。耳が聞こえないと言えば、一晩の宿は貸してくれるでしょう」

 そうシェリルさんは語る。

 なるほど、確かに耳が聞こえないていなら、言葉が通じなくても違和感がない。

 そうかっ! 言葉の分からない外国に来ていると思えばいいのか。

 このようなものを用意してくれるなんて、素敵すぎる。

 誰だ? お寝坊さんなんて言ったアホは? 俺だよ!

 そして、シェリルさんはもう一つの提案を俺に示してくれた。

「それともう一つ、手紙をしたためました。内容を要約すると、この少年は、共通語を話せませんが、神聖語を読み書きできます。身寄りがないので、住み込みで、神聖語の研究が、手伝えるように要望します。その判断が出来る方へお目通しをお願いします」

「衣食住の確保と共通語の習得を希望致します。という内容です。王都に到着して、神聖語の研究機関へ着いたら、渡して下さい。きっと、受諾されると思いますが、断られた場合は、念のためもう一通同じ内容の手紙をしたためましたので、教会へ渡して下さい」

 そう言って二通の手紙を手渡たされた。――――至れり尽くせりだな。

 ……この手紙――――きっといい匂いするんだろうなぁと思った俺は変態だろうか。

 ……後で本当に嗅がなければ、何の倫理モラルにも違反しない。

 妄想は正義ノットギルティーだっ!

 それとと前置きをしてシェリルさんが話しを続きた。

「貴方が、神聖語を読み書きできる事は吹聴しない方が良いでしょう。王都に着く前に、貴族や権力者に知られると、場合によっては、囲われる可能性もあります」

「それほど、神聖語を話せる者は、貴重なのです。王都の研究所にはエルフがいます。エルフは皆、神聖語を言語としていますので、貴方の希少性は薄れるでしょう。お渡しした文言集は、神聖語と分かりづらいよう、模様のようにしてあります。読みづらいでしょうが、許してくださいね」

 そう言ってシェリルさんは、にっこりと微笑んだ。
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