農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

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第2章  氾濫

第10話  円域

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 北門の上で迫りくるモンスターに俺が気合を入れていると。

 肩に座っていたモルトが動き出す。


 ――んっ? ……どうしたモルト。

 そのモルトが門の前の地面に降り立った。

 200m先にモンスターが迫る中、モルトは右手を上げると指をはじく仕草をした。


 ――すると

 100m先のレンガで舗装された道の中心がモコっと盛り上がり、そのまま楕円を描く様に左右に広がっていく。

 それは凄まじい速度でモコモコと進む。幅は20mで遠くにある城壁の端まで瞬く間に届いた。

 ……モルト?

 ――何してんの?

 モルトが作りだした楕円に魔物が入る。


 ――入った魔物はピタリと動きを止めた。

 俺の頭に響くアラーム。

 アイテムボックスを見ると。

 『開墾支配領域展開中』(点滅表示)
 代行者:モルト・カリノ
 時間軸:0
 対象物:動植物

 迫りくる植物系のモンスターが動きを止めたのはこれが理由?


 ……動植物の解釈が間違ってね?

 俺には動く植物って送り仮名がうっすら見える気分?

 何しろモルトは畑の妖精だ。だから、その特性上、たぶん動物には影響を及ぼせない筈だ。

 そういえば、俺の畑は現地産の野菜も時間軸いじれたからな。……いじった事無いけど。

 それに、目の前のアレを植物と言い切る力業――あいつ臭が酷い。

 前線が急に動きを止めたのでそれにぶつかり、押しつぶされる後続のモンスター達。

 先頭に立っていた為にいち早く領域に入り、その時間を止めてられていた数体のエルダーオノドリムが動き出す。


 ――楕円の領域内を。

 ――他のモンスターを薙ぎ払うように。

 鳴りやまない轟音と共に吹き飛び霧散するモンスター達。

 ボウリングのピンさながらの勢いで無作為に体を崩しながら黒い煙へと変わっていく。

 この場でも一際大きなエルダーオノドリムの身体が、それを引き起こすので破壊力が甚大だ。

 ――全部で8体か?

 ……もはやエルダーオノドリムが大きなこん棒変わりだ。

 ――この動きも見た事あるな。

 謎野菜の真祖をモルトが畑の中で移動させてたときのあの滑らかな動きだ。

 エルダーオノドリムが腕の様に伸びていた枝は吹き飛び、あっという間に本当の丸太のようになった。

 強度も他のオノドリムより高いのか、それでも丸太だけは霧散しない。

 騒然とする城壁の冒険者達。

 勿論。俺もびっくりしている。

 さっきまで一緒にのんびりやっていこうと言っていた相棒が、実はあっち側だったとは!

 そうだよな! モルト! お前は畑じゃ無敵だもんな!

(モルト! ここは任せて大丈夫か?)

 俺が問いかけると、モルトは背中越しに親指を立てた。

 かっこ可愛いな! ――モルト。

 まさか最後をお前が持っていくとは思わなかった。

 もう直ぐチャムの殲滅戦が片付きそうだから、終わったらフォローに来てもらおう。

 カロはワラワラと現れる魔物のおかわり戦闘を継続中だ。いくつかのダンジョンのモンスターが集中したらしい。

 やることも無くなったし、俺はウロチョロしてる奴らを捕まえにいくか。

 俺の感知魔法に反応する奴らがいる。

 ――コソコソと鬱陶しいことだよ。


§


 ――――数刻まえ。

 北の城壁を目指すノアを見ている人物がいる。

 ノアの頭上を風颶鳥が2羽旋回し近くの建物の屋根に留まった。

 ノアはそれを静かにジッと見ている。

 その周りの冒険者が珍しい風颶鳥の登場に騒然としていた。誰かが声を上げる。

「――風颶鳥の番が現れた! 吉兆だ! そうに違いない」

 ノアは騒ぎたてる冒険者を見回して、もう一度風颶鳥を見る。

 2羽の風颶鳥はノアへ別れの挨拶をするように再び頭上を旋回すると何処ともなく飛び去った。

(……まさか。風颶鳥をテイムしているのか? もしそうならば祖国にとって危険な人物になる。スタンピードに巻き込むなんて運任せでは無く。きっちり始末をつけないといけなくなったか)

 その人物にとってノアの重要度が増した。

 ――観察は続けられる。
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