農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

文字の大きさ
108 / 403
第3章  進窟

第13話  利益

しおりを挟む
 ギルド長室で書類に目を通していると『エレオノーラ』がどうだとか外が騒がしい。

 ギルドマスターは立ち上がり外を眺める。

 がなり立てている冒険者へノアという小僧が宥めるように話しかけていた。

(いや――あれは……静かに煽っているのか?)

 ノアの言葉のチョイスが静めるというよりも小バカにしているように聞こえる。

 どうやらノアがエレンをめぐって愛憎交じりの因縁をつけられているようだ。

(昨日着いたばかりの小僧に好いた惚れたもないだろうに、何をトチ狂って噛みついてんだ?)

 だが、決闘は冒険者の決着の付け方としては良くあることだ。


 ――強い方が正しい。

 暴論だが、彼らの間では立場が違えば見方も変わる。

 獲物を横取りされたという奴と危なそうだから助けたという奴。

 攻撃されたという奴と手が滑ったという奴。

 分け前が少ないという奴とお前の仕事相応だという奴。

 どちらも当人同士が正論だと言い張るなんて良くある。

 自分が正しいという理屈を押し通すために、決闘でさっぱりと決着をつけるのだ。

(せっかくの機会じゃねぇか。あいつが認めた小僧の格を見せてもらおう)

 決闘はギルド内の闘技場で行われる。当初の希望通り自分の目で闘う姿を見ることが出来る。

 ノアが囃し立てながら距離を取った。このまま隙を見て逃げだす算段のようだ。

 その時間を与えずギルドマスターは窓を開けて横槍を入れる。

「うるせぇぞ! 手前ら! お前らの騒ぎの内容は聞かせてもらった」
 
 続けざまに言い放つ。

「小僧。決闘を受けてやれ!」

「えっ? ――嫌ですけど」

 シュバインが隙を見て赤い布を拾い、再度ノアに投げつける。

 ノアはひらりと交わして澄まし顔だ。

 ギルド長は声を掛ける。

「小僧。決闘は冒険者同士のプライドをかけた審判の儀式だ。何故嫌がる?」

「この人は私と戦いたい。でも、私は別に戦いたくないし、それで得る物もないので」

「――お前の主張が正しいと証明される」

「私に証明したい主張なんてありませんよ。私をぶちのめしたいという彼の意見が通る方が問題です」

 ノアは思う。ぶちのめしたいと思ったら決闘を申し込めば良いという前例にならないようにきっちり拒否しようと。

(あいつも変な拘りがあったな。師匠が師匠なら弟子も弟子か……)

「メリットがあればいいのか?」

「んっ? ――そうですね。条件にもよりますが」

「金でどうだ?」

「金銭には興味を引かれません。それより――この決闘を受けて私が勝ったら、この都市で今後の決闘の禁止をギルドが保障してください」

「ぐっっ! ――長年の慣習だ。さすがにそれは難しい。たかだか駆け出しの決闘で求められていいもんじゃないな」

「一般市民がケンカをして相手をケガさせたら拘束されます。暴力行為ですからね。冒険者が一般市民に狼藉を働けば、これもまた拘束されます。冒険者同士が喧嘩をすれば、同じように捕まります。それが法です。決闘の名のもとにギルド内で私刑を働いても罰せられないのは何故ですか?」

「モンスターの最前線で活躍する冒険者とギルドに認められた権利だからだ。冒険者の管理責任を全うするギルドの特権だ」

 ノアはふわりと笑った。

「ギルドの特権ですか。その行使の権利はギルドマスターあなたにあると?」

「あぁ。そうだ! 文句があるか!」

「今回の決闘はほとんど因縁まがいの嫌がらせです。それをギルドマスターが受けろと言われる。被害者の私を守るでもなく。ただぶちのめしたいという人間の主張で決闘をしろという」

「……決闘は冒険者の権利だ」

(――俺の興味の為に無理強いしすぎたか? ……ここは引くべきか?)

「あなたの裁量で保護された特権だと?」

「あぁ。そうだ! ――なんの話がしたいんだ!」

「ギルドマスターが戦えというのなら、メリットがあれば受けても良いと言いましたね?」

「あぁ。だがノルトライブで今後は冒険者同士の決闘を禁止する。なんて要求は通らないぞ!」

「えぇ。もっと簡単でギルドマスターの裁量の範疇です。私の希望は――決闘権の放棄です」

「んっ? なんだそりゃ。……そんなのでいいのか?」

(冒険者しか持っていない権利の放棄だと? むしろデメリットじゃねぇか?)

「はい。たったそれだけです」

「決闘を仕掛けないということだよな?」

「はい。私の希望は『この理不尽な決闘を受けて勝てたら、今後は冒険者へ私は決闘を申し込まない。そして誰も私に決闘を申し込まない』です。ギルドは私を守ってくれないと分かりましたから、冒険者にお願いをすることにします」

「まぁ。いいだろう。ただし、揉めたときお前からも決闘を申し込めなくなるんだぞ?」

 ギルド長は念を押す。

「私から申し込むつもりはありませんので、もし決闘を吹っ掛けて来た冒険者がいたら、ギルドと話し合いで罰則を決めさせてください。刑罰の無い口約束では困ります。最高刑はギルドからの除籍まで用意してください。もちろん話し合いでギルドの立場と意見は尊重します」

「そうか。こちらも少し無理を言った。この決闘に付き合ってくれたら、勝敗に関係なくその要望は通るようにする」

 ノアはにっこりと微笑んだ。

「分かった。決闘の結果をもって詳細を決めよう。決闘の時間はどうする? 申し込む方が準備が出来て有利だから日時は受け手が決められる」

「いえ。直ぐにで構いませんよ」

「じゃあ。闘技場へ移動しろ」

 真っ赤な顔のシュバインを置いてけぼりに話は進む。
しおりを挟む
感想 331

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界チートレイザー

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別名義で『小説家になろう』にも投稿しています。 これは【サトリ】と呼ばれ忌み嫌われた少女と、異世界に召喚されチート能力を無効化する【チートレイザー】の力を与えられた少年の、捻じ曲げられた運命を切り開く物語である。 ※今後も各種名称・設定の一部などを、諸事情により予告なく変更する可能性があります。なにとぞご了承ください。

処理中です...