『時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜』《番外編》 愛情過多な父を持つと大変です!

いろは

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1.亡骸

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ソファーに深く腰掛け大きなため息を吐く。
目の前には疲れきった兄様達が座っている。

「はぁ…やっと落ち着いたなぁ」
「父様達は大丈夫かしら?」
「暫くは様子を見に行くようにしよう」

最愛の母を亡くし葬儀を終えたところだ。兄様達と王城の私の部屋に集まり一息つくといい香りがして来た。振り返ると侍女が母様が好きだったコーヒーを運んできた。
この侍女は長く母に仕えて居て、母の友のような存在で私達からしたら叔母様な存在だ。いつも明るい彼女も憔悴している。
長い沈黙の後に長子のショーン兄様が『くすっ』と笑い口元を緩ます。

「?」

兄様は私を見て優しい眼差しで

「アリサは本当に母様そっくりだなぁ…」
「あぁ…昔の母様みたいだ」
「母様は昔からよく私に『私に似てぶちゃいこでごめんね』ってよく言っていたわ。私は母様に似て嬉しいのに」
「それより父様達は大丈夫か?付き添っていた方がいいんじゃないか」
「今晩は一人で過ごしたいそうだ」

母様が好きすぎる父様達はそれぞれの母様の部屋で一人で過ごすそうだ。

母様は60歳の誕生日の前日に亡くなった。
一年前から体力が低下して緩やかに弱っていった。最後は自立も出来なくなっていった。そんな母様を父様達は仕事を調整し交代で世話をしていた。国王のローランド父様も進んで母様の世話をする。
私達兄妹は母様の誕生日会を準備していて、数日前から母様の元に集まっていたので、最後に立ち会える事が出来た。母様は最後まで優しく愛情深い女性ひとで、最後まで皆んなを心配していた。

「それより母様の亡骸は何処に行ったんだろう⁈」
「元の世界…日本だろうか⁈」
「テクルスの元かもなぁ」

そう…母様が息をひき取り亡くなった直後、母様の体は黄金の光に包まれ消えた。まるで初めからこの世界にいなかったように…
母様はレイラの加護を受けたローランド父様とミハイル父様の為に、神テクルスが異世界日本国から召喚した【迷い人】だ。
母様は初めは帰りたかったようだが、父様に捕まりレイシャルに残り私達を産み育ててくれた。父様達は母様を心から愛していて、その母様の亡骸が一瞬にして消え去り、父様達の落ち込み方は酷く子供である私達も声をかけれない程だ。

コーヒーを飲みながら母様を思い出していたら、アルバートがポツリと

「昔母様がアリサと家出しただろう⁉︎あれはアリサが幾つの時だった?」
「確か4歳?」
「合ってるよ。俺とミハイル父様がヴェルディアに迎えに行ったのを覚えているよ」
「幼かったが強烈に覚えているよ。今思えあれ以来激怒した母様は見た事ないよ」
「「「確かに!」」」

あの家出は王国中を巻き込んで大騒ぎになり、歴史に残る事件となった。

「私は楽しい記憶しかないわ」
「アリサはいいよ、ヴェルディアで遊びんできたんだから。俺らは父様達はパニックになるし、お祖父様やお祖母様は怒ってるしでレイシャルは無茶苦茶だったんだぞ」
「あの時は母様は何故家出までしたんだ?それまでもアリサを甘やかす父様達を怒っていたのに」
「俺も疑問に思いローランド父様に聞いたが詳しくは教えてくれないんだ」

兄様が私と母様の家出の話をしている。そう私が4歳の時に母様と一緒に家出をしたのだ。家出理由は父様達と兄様達が過剰反応し、私を甘やかす事を止めなかったからだ。
母様が何度も注意したが直らずある日母様が激昂した。きっかけはゴラスのジュジュ叔父様の息子つまり私の従兄弟にあたるエイジ殿下の誕生パーティーの招待状を父様達が隠していたのが判明。母様が追求すると色んな所からの招待を勝手に断っていたことが判明したのだ。父様達はアリサに求婚する者から護りたかったようだ。しかしその中には母様の親友の招待状もあり、とうとう母様がキレた。

「籠の中の鳥は外に出されると飛び方や餌の取り方を知らずにすぐ死んでしまう。ちゃんと外の世界を知り、自立し自分で考える人間にならないといけないのです!それなのにみんなで甘やかして!このような状況を続けるなら、アリサと私はヴェルディアかアフルガンの私の屋敷に移り別居します!」
「「春香!」」「ハル」
「「「母様!」」」

この時烈火の如く6人を叱り倒す母様の背中を今でも覚えている。小さい母様が大きく見えた瞬間だった。
この後反省を促すために母様は直ぐに荷造りをし、あっという間にレイモンドお祖父様とアビーお祖母様がいるシュナイダー公爵家に行き、船の手配をしてヴェルディアに向かった。初めて船旅が母様との家出だったのだ。小柄で可愛い母様だが結構意思が固く心が強い人だとこの時知る。

「母様。父様達と兄様達は?」
「いいのよ。レイモンドお祖父様がお船を出してくれたって事はOKって事よ」
「アビーお祖母様も遊んで来なさいって言って笑っていたね」
「アリサを雪は初めて見るね。雪だるまにそり滑り楽しい事を母様といっぱいしましょうね」
「うん!」

後でレイモンドお祖父様に聞いた話だが、この時本当は母様はアフルガンに行こうとしていたそうだ。ヴェルディアは寒すぎる為、私が風邪をひかないようにと思っていたが、アフルガンに向かう航路の一部が嵐になっていると情報が入りアフルガン行を断念してヴェルディアになった。
事前連絡もしていないのにヴェルディアの港に着くとひと際大きい馬車と大きいおじさんが3人立っていたのを覚えている。

「よく来られた。貴女一人は初めてだな。喧嘩でもしたのか」
「ジャン陛下におかれましては…」
「俺と妃殿下の仲だ堅苦しい挨拶はやめてくれ。おぁ!今最も注目を浴びているレディだなぁ⁈春香妃殿下。小さなレディを紹介いただけるかなぁ⁈」

すると母様は私の手を握り微笑んで挨拶を促す。船の中で挨拶の練習をいっぱいして、侍女のマリンに褒められた。練習通りに…

「初めまして。アリサ・レイシャルです。おみしりおきぉ?」

『あってる母様⁈』
すると母様はいつもみたいに微笑んでくれた。

「おぉ!ようこそ氷の国ヴェルディアへ。国王である私が歓迎しよう」

そう言うと大きい男の人は私を抱き上げた。このおじさん大きい。どの父様よりも大きくて母様がとても小さく見える。
大きいおじさんは近くても見ると大きい綺麗なおめめをしていて初めより怖く無い。ふと母様を見るとカッコいい方のおじさんに話しかけられている。
そのおじさんは嬉しそうだ。子供の私でもわかる。あのカッコいい方のおじさんは母様が好きなんだ。父様達が母様の事が好きな人が多くて困るって言っていたのを思い出した。

「春香様。いつお会いしても愛らしい…」
「ご無沙汰しておりますバルカン様。そしてお世辞ありがとうございます。でももうおばさんですわ」
「いえ、貴女は変わらず愛らしい…だから昔の想いが…」
「バルカン様。復活しては駄目ですからね!」

すると私を抱っこする大きいおじさんが

「アリサ嬢の母上の事が皆大好きなのだ。レディもしっかり遊び学び母上の様な素敵な女性になりなさい」
「はい」

こうしてヴェルディアの母様の別荘に行き、5日ほどヴェルディアで遊ぶ事になった。
王妃様と王子と母様が好きな騎士のおじさんの男の子が遊びに来てくれ、楽しい毎日を過ごした。母様もお友達といっぱいお話し出来て嬉しそうで横にいる私もとても嬉しい。
6日目。本当は母様はこの後ゴラスにも行きたかったようだが、ミハイル父様とフレッド兄様が迎えに来て母様との家出の旅は終わりとなった。
この家出を境に父様と兄様が変わった。優しく愛してくれたけど、兄様と同じ様に悪いことをしたら叱ってくれ今思えば他の親より厳しかったと思う。


「あの時の母様は怖かったなぁ…アビーお祖母様以上だったぞ」
「いつも威厳のある父様も固まっていたもんなぁ」
「アリサは知らないだろうが母様とアリサが出て行った後、大変だったんだぞ」

ショーン兄様曰くローランド父様は家臣が止めるのも聞かず、単身馬を出し王都を探し回った。アレックス父様は母様を捜したいのに、ローランド父様が勝手に動くからローランド父様を連れ戻しに行く事に。そしてミハイル父様はシュナイダー領地に母様を迎えに行き屋敷行くとアビーお祖母様がいらっしゃり説教され、やっと説教が終わり港に向かうと母様と私は出航した後。すぐに船を出そうとしたが、レイモンドお祖父様が許さなかったそうだ。

この日の出来事は『王太子妃の家出』として、レイシャル中に伝わり代々言い伝えられる事になった。

兄様達と昔を思い出し笑う。

父様達は母様を溺愛し甲斐甲斐しく母様の世話をしたがる。しかし母様は元は平民で何でも自分でする。王妃になっても帽子を被り庭いじりをして雑草も自分で運び、おやつの時間になると自ら料理をし、身の回りの事も私達の世話も全てこなした。
母様はこの世界の女性より小柄で私が10歳になると母様の背を超えた。小さく可愛い母様は私の自慢だった。
それに母様は異世界の知識をお持ちで他国の難題をいとも簡単に解決し、他国の王族からも信頼され友人も多い。
特にヴェルディアとアフルガンは国政に関わる問題解決に知恵を貸し二国では侯爵の爵位を(勝手に)叙爵され、(勝手に)屋敷まで用意されている。
普通そんな功績を上げれば高慢になるそうなものだが、母様はいつも謙虚で礼儀正しくそして優しい。身分に関わらず皆平等に接するから国民からも愛される王妃だ。そんな素晴らしい母様に見た目そっくりに生まれた私は父様が溺愛した。

目の前の兄様達は笑って父様達の話をしているが、兄様達も大概だ。母様が教えてくれたが兄様達みたいな人の事をシスコンと言うらしい。
今私は夫と子供がいて幸せに暮しているが、こんな愛情過多な父様と兄様がいる私は婚姻するまで大変だった。

兄様達を見ていたら色々思い出した。あれは初恋だったなぁ…と昔を思い出す。
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