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44.昔話

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ゆったりした時間はあっという間に終わり、エリックさんは騎士団の元に帰っていた。
私は特にすることも無く部屋でミサンガを編む。

明日ミハイルさんが来る。嬉しくて鼻歌を歌いながミハイルさんにあげるミサンガを編む。ミサンガにその人の色を1色入れる事にし、ミハイルさんのには赤色を入れてある。

『やっぱりミハイルさんは赤よね♪』

明日会えると思うと気がはやり編むスピードも上がる。半分以上編み上がった時にふとミハイルさんはミサンガにどんな願掛けをするのか考えた。ミハイルさんの願いは恐らく私がここに残る事。でももしかしたらこのミサンガが切れる事は無いかもしれない。
思わず手がとまり一気にテンションが下がる。

「私…ズルいなぁ…」

帰りたいと思いながらミハイルさんの想いは嬉しいと思い、会えないと寂しいと感じる。
愛するってどうゆう事なんだろ⁈
元の世界でも恋に恋する子供で、まだ真剣な恋愛なんてした事ない。

暫く固まっていたら誰かが部屋に来た。返事をするとマニュラ夫人が籠を持って入って来た。暗い顔の私を見てにこやかに微笑み私の横に座った。夫人が持ってきた籠にはカラフルな刺繍糸が山盛り入っている。

「追加で取り寄せたのよ。ここにある刺繍糸は好きなだけ使っていいわよ。あっ!でもミサンガ作りを急がせている訳ではないからね!」
「はい。ありがとうございます」

私の手元の編みかけのミサンガを見て、編む所を見せて欲しいと言われ続きを編みだす。
見るいる様に私の手元を見る夫人。何も考えず編み進めたら直ぐ完成した。
出来上がりを見て夫人が

「この間のとはデザインが違うけど色々あるの?」
「はい。私が知っているのは5通り程です」

じっとミサンガを見ていたマニュラ夫人は意地悪そうな顔をし

「このミサンガ気に入ったわ。私にくれない?」
「だっだめ! ごめんなさい」

夫人は私の手を取りミサンガを返してそっと私を抱きしめて

「ごめんなさいね。ワザと意地悪したわ。このミサンガはミハイル様に渡すものでしょ⁈」
「なっなんで?」
「この赤色はシュナイダー公爵家特有の赤だからすぐ分かるわ。ミサンガを編む春香さんを見ていたら悩んでるのが分かってね。もしかしてミハイル様の求婚で悩んでるのかと思ってね。かまをかけたの」

優しく頭を撫ででくれるマニュラ夫人はアビー様と同じ様に母を思い出す。

「私はねケインとは付き合わせで初めて会い、私の意志無視で婚約が決まりこのコールマン家にきたわ。ケインは無口で自分の事は話してくれず、つまらない男だと思ったの。
私は恋愛小説に出てくる愛を囁いてくれる男性を理想としていたわ。なのにグリフは懐かないし、暇だし婚約者は心を許してくれないし、この婚姻に幸せな未来は無いと思ったの。だからね私家出したのよ」
「えっ!家出ですか?」

凄い行動力だ。パワフルなのは昔からなんだ。

「王都の伯爵家に嫁いだ姉が居てね。そこで数日お世話になり婚約破棄してゴラスに帰るつもりだった。帰るまでの間は王都では色んなお茶会や夜会に参加して夢見ていた男性達と逢瀬を楽しんだわ。
今は膨よかになったけど昔はスリムで自分で言うのも何だけど美人でモテたわ。お茶会や夜会でエスコートしてくれる男性達は皆スマートで素敵だけど何か違うの。
皆さん美しくて甘い言葉も頂いたけど違和感を感じていた時にケインが来たの。姉が連絡して話し合いする事になり、言いたい事全部話したわ。
そうしたらケイン『僕は口下手だからそこは努力する。僕にはない貴女の明るさが必要なんだ。もう少し僕を見てくれないか⁈』と言われ、姉にも説得され侯爵家に戻ったわ。

それからはケインは話す様に努力してくれそして気付いたの。ケインと過ごすのが一番気が楽なのを。彼は私の事をよく見ていてさり気ない気遣いをしてくれる。それが居心地良くて安心できたわ。そして正式プロポーズされ妻となったの」
「素敵な話ですね」

マニュラ夫人は座り直して微笑み。

「話が長くなったけど”頭”で考えても答えは出ないわ。必要な時に”心”でわかる時が来る。無理に答えを出しちゃだめ。それは間違いやすいから。
私が見るに春香さんは無理に答えを出そうとしてる様に見えるわ。でもきっと今ではないのでは?
ミハイル様も殿下も狭量なお方では無いわ。ちゃんと春香さんの想いが定まるまで愛して下さるわ」

マニュラ様の言葉は今の私の心に響いた。固まった心が解けていくようだ。

「ありがとうございます。少し気が楽になりました」

マニュラ夫人は頬に手を当てて

「そう!こんな感じで娘と話したかったのよ!」

と興奮気味でまた独演会が始まりそうだ。
少し覚悟をしていたら

「ここからは独り言だから聞き流してね」
「はい」

少し表情を引き締めたマニュラ様は

「アレクは恐らく春香さんを愛しているわ。あの子はケインと同じで口下手で分かりにくい子なの。しかし貴女の事をよく見ているわ。思い当たる節があると思うけど⁈
無理は言わないけどアルクの傍にいる事が違和感く、気持ちがアレクに少しでもあったならばアレクを夫の一人にして欲しいの。
これは親としての願望。侯爵家の為に婚姻は必要だけど、想う方として欲しいから…」
「……」

いつもの私なら

『私なんかより素敵な方がいますよ』

って笑って流せるのに、なぜか今日はそのセリフは出てこなかった。

少しの沈黙の後マニュラ夫人はミサンガの作り方を教えて欲しいと話を変えてくれた。
夕食まで半時間程あるからポピュラーな4本編みを教えた。流石刺繍や裁縫が得意なだけあってのみ込みが早いし上手い。バザーの品私が作るより夫人が作った方が良くなぃ?

雑談しながら2人でミサンガを編んでいたらあっという間に夕食の時間になっていた様で、アレックスさんが迎えに来てくれた。
部屋に夫人がいて一瞬眉間の皺レベル3になったのを私は見逃さなかったぞ!
夫人は一旦部屋に戻ってから食堂に行くらしく先に部屋を出た。

「母上に変な事を言われなかったか?」
「いいえ。素敵な昔話をしていただきました」
「春香が楽しかったのならいい…」

ふとアレックスさんの左手のミサンガが目に入る。やっぱりキツそうだ。

「アレックスさん。昨日渡したミサンガ。女性サイズで小さいから作りの直しますから返して下さい」
「必要ない。これでいい」
「見るからに小さいですよ」
「これで問題ない」
「でも…」

アレックスさんの手を取ったら振り払われ

「お前が初めて作ったこれがいいのだ。他のでは意味ない!」
「へ?」

アレックスさんは狼狽え顔が赤い。 

《アレクは恐らく春香さんを愛しているわ》

マニュラ夫人の言葉を何故か思い出す。
つられて赤面する私。

「後から作り直せって言っても作りませんよ」 
「大丈夫だ。近い内に切れるだろうから…」

叶うと言いながら寂しそうな顔をするアレックスさん。今は触れない方がいいと思いあえてスルーする。

するとまた誰か部屋に来た。今度はエリックさんだ。

「ハルカ!兄貴に変な事をされてないか? 遅いから心配したよ。兄貴もハルカも早く行こう。明日は忙しいから早く済ませて皆んな明日に備えようぜ!」

そうだ明日ミハイルさんが来るけどジャン王太子も来るんだった。
この後夕食は張り切り沢山食べて鋭気を養うつもりが、胃をやられ薬湯のお世話になり唸りながら眠りにつく事になった。
頑張れ私の胃腸!
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