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64.街ぶら

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陛下の手紙を読み出す。文頭は丁寧な挨拶文から始まり私の身を案じる内容。そしてヴェルディアの経緯が説明してある。
ジャン王太子が帰国前に帰国後10日ほどで今回の事件に関与した現王と家臣を断罪し処分する事。そして混乱を避けるために王は急病の後に亡くなった事にし、それを機に現王直属の配下の者は勇退とし、各家を代替りさせ残すかわりに各家で責任を持って幽閉し今後世間に出てこない様にする。恐らくジャン王太子は優しいのと死罪にすると私が気にするからという理由だそうだ。
そしてジャン王太子は現王の葬儀の後、すぐ王位を継ぐ事になる。帰国前に私に戴冠式の招待状をすると言葉を残し帰国された。ヴェルディア迄は船で2日かかるそうで、国王代行のローランド殿下と護衛にアレックスさんとジョシュさんが付いてくれる。ヴェルディアでの滞在は約5日でローランド殿下が光石の取引契約を結ばれるそうだ。ローランド殿下が公務の間、私はリリアン様の案内でヴェルディアに観光するらしい。

「ここから王都に戻り休む暇なく今度はヴェルディアなの? それに船で2日って…私船酔い酷いから行きたくない…」

船で2日に気分テンションはダダ下がりだ。それに直ぐヴェルディアではミハイルさんと向き合う時間がない。ミハイルさんはヴェルディアには行かないもん。もしローランド殿下とミハイルさん2人に何かあったら完全に王家の血筋が途絶える。だからミハイルさんは居残りになるらしく、ちょっと寂しいな…

陛下の手紙を封筒になおして次の手紙を手に取る。次はやっぱりミハイルさんにし、開封し手紙に目を通す。
私の体を気遣った内容が初め書かれ、私は怖がらせた事への謝罪が書かれている。そして他愛もない日常を綴られているが文面から不安がみて取れる。私がミハイルさんを拒絶するかもしれないと恐れているのだろう。早く帰って話がしたい。護ってくれたありがとうって言いたい。多分前よりは怖く無くなっていると思う。きっと真面目なミハイルさんは自分を責めているはず。今は只会いたいと思うばかりだ。

「春香。いいか?」
「はい」

ケイン様との話が終わった様でアレックスさんが部屋に来た。向かいのソファーに座ったアレックスさん

「陛下の手紙は読んだか?」
「はい」
「ならば王都に帰って直ぐにヴェルディアに行くのも理解しているな」
「・・・ぅ・・・ん」
「何か不安事か?」
「私…船酔いするんです。2日も船なんて多分瀕死になります」
「大丈夫だ。王家の船は転覆するほどの大嵐が無い限り全く揺れを感じない。馬車より快適だ」
「本当に⁈」
「俺は嘘はつかん」

アレックスさんの言葉に安心する。何だろうヴェルディア行に何かある訳では無いのに胸騒ぎがする。正直行きたくない。町屋敷で籠って2週間ほどのんびりしたい。

「どうした?他にも何かあるのか?」
「うん。町屋敷でのんびりしたい…」
「悪いな…お前に無理ばかりさせている。これが終われば特に何も無い。もうひと頑張りしてくれ。そうだ!夕食に迎えに来たんだ。行くぞ」
「はぁ~い」

アレックスさんと食堂に向かい久しぶりに家族そろっての夕食となった。明日は街に行くから早めに就寝準備をして残りの手紙を読む。
レイモンド父様も、アビー母様、ジョシュさんも私を心配した文面で胸が温かくなった。早く会いたいし話したいことが沢山ある。
あと2日で王都に戻る。楽しみの様で寂しくもある。正直情緒不安定だ。こんな時は頭を空にして早く寝るに限る。ベッドに潜り込み無理矢理眠った。

翌朝は早く起きて身支度し食堂に行く。結構早く行ったのに皆さんもうお揃いだ。着席し食事をしていたらケイン様が綺麗なワインレッドの皮袋を渡してくれる。

「ケイン様これは何ですか?」
「お小遣いだよ。今日アレクと街にいくんだろ?これで好きなものを買うといい。春香は謙虚だからアレクが買うと言うと遠慮するだろう⁈」

中を見ると沢山の金貨が入っていてびっくりして

「こんなにいただけません!」
「なら。バザーのお手伝いしたお給金だと思って頂戴。少ないかもしれないからもっと渡しましょうか⁈」
「とんでもない!多くて困ります」
「春香。ならばシュナイダー家のお土産を買えばいい」

ケイン様もマニュラ様も引きそうにない。これ以上断るのは失礼なので素直にいただく。

「ケイン様。マニュラ様。ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」

本当に皮袋にいっぱい金貨が入っていて恐縮する。どのくらいの価値があるか分からないけど金貨だから高額なのはわかる。怖い絶対落とす。皮袋を持ち挙動不審な私にマニュラ様がポシェットみたいなショルダーを渡してくれた。これもマニュラ様の手作りらしい。

「ここに入れた肩にかければ落とさないわ。まぁ領主の息子が一緒で手を出す愚か者はいないわ。安心していってらっしゃい」
「はい!いってきます」

街に向かう馬車の中、穏やかな時間にリラックスしていたら

「春香は何が欲しいんだ?」
「特にありません。買うと言うより見て周りたいです」
「ならばすべての店を見て周ろう」
「はい」

街の馬車停泊場についた。そしてここから歩く。今日はアレックスさんはラフな平民の装いで私も目立たない様に地味目のワンピースだ。
中心の広場に行くとつい先日の騒動を思い出し身震いする。その様子に気付いたアレックスさんが手をつないで微笑んでくれる。
大丈夫と言い、広場の露店を見て周る。
アレックスさんは領主子息だからか注目を浴びている。美丈夫だし目立つよね…
広場に甘いフルーツの匂いがして探すとフルーツを売っている屋台があった、あの果物何だろう…見た目イチゴに似ている。ポシェットから皮袋を出し買い食いにチャレンジする。
屋台におばさんに「ひとつ下さいと」と金貨を出したらおばさんに

「お嬢ちゃん!こんな屋台に金貨出しても釣りが出ないよ!銅貨は持って無いのかぃ⁈」

困ってアレックスさんを見たらポケットから銅貨?を出して買ってくれた。するとおばさんが

「若様じゃないですか?お会いできて光栄です。もしかしてそのお嬢ちゃんは噂の人ですか?今日はツイてるわ!おまけにもう一つあげるよ!」
「噂ってなんだ」

アレックスさんはレベル2になる。

「若様!白々しい!若様に恋人が出来たと領地で専ら噂になってますよ!そのお嬢ちゃんがお相手でしょう⁈若様にお似合いで愛らしい嬢ちゃんだよ」
「「えっ!!」」

アレックスさんと顔を見合わせフリーズする。
気が付いたら周りに人集りが出来ていて口々にお祝いされる。汗をかきながら必死で否定していたら、
再起動したアレックスさんが優しく微笑んだ。嫌な予感がする。

「皆んなに誤解させた」
『そうだよ!』
「今口説いているところだ。彼女はモテるから中々いい返事を貰えない」
「アレックスさん?」

今何ほざいた⁈口パクパクさせパニくる私に1人おじさんが話しかけてきた。そのおじさんは前に来た時に殿下がカチューシャを買ってくれた露天のおじさんだった。

「嬢ちゃん!確かに前の兄ちゃんは若様に負けず劣らず男前だったがあの兄ちゃん平民だろう?悪い事は言わねぇ!若様にしな」
『いゃ…おじさん平民じゃなく王子ですから』

居た堪れずアレックスさんの手を引きその場を離れた。少し歩いて街の外れベンチに座りアレックスさんを責める

「あんな嘘ついたら後々大変じゃないですか!」
「あながち嘘では無い」
「…」

熱を持った視線に目を逸らしていた事実を見てしまった気がした。
アレックスさんは手を握り静かに話し出した。

「後で話すつもりだったが、昨晩父上からある人物の手記を渡された。それは2人目の迷い人の”テクルスの遣い”を務めた男だ。彼は迷い人を元に世界に帰している」
「その方の手記に何が書かれていたんですか?」

その男性はサーシスさんと言い、今のアレックスさんと同じでコールマン侯爵家嫡男で加護持ちの王子の護衛騎士だった。

『アレックスさんと同じだ…』

迷い人は”シオリ”さんと言う名で”ニッポン”から来たと記録されている。
サーシスさんはずっと彼女を見守り最後は彼女に執着した王子から彼女をコールマン領に匿い、ここから彼女をニッポンに帰したそうだ。

「結果から話すとサーシスはシオリを愛していた。しかしシオリには元の世界に恋人が居て、彼女は初めからずっと元の世界に帰る事を望んでいた。サーシスはエスカレートする王子の束縛から心身ともに彼女を守っていた。そうする内に彼女を愛する様になる」
「…」

しかし彼は想いを告げずシオリさんは帰す決断をする。

「別れ際、彼は想いを告げるか悩んだ。思いを告げれば彼女が帰りずらくなるのかもしない。それに彼女も彼を愛していて残っても加護を受ける王子から逃げれる訳なく二人が結ばれる事は無い。そう思った彼は想いを告げれなかった。別れ際、お礼を言うシオリが何か言いたげで彼女の瞳に熱を感じたそうだ。だが彼はあえて見なかった。寂しそうに帰るシオリと別れ後悔をしたそうだ」

サーシスさんはシオリが帰って直ぐ彼女を忘れる為にお見合いをし即妻を迎えている。そしてそこからは平凡な人生を送った。

「手記の最後にこう書かれていたよ。

『今この手記を読んでいるのは私と同じテクルスの遣いだろう。君に忠告する。迷い人を愛しているなら想いを告げろ。
私はそれをしなかったせいで私の残りの人生は何も感じない生きた屍になった。猛烈に後悔している。彼女が私の想いを受け入れてくれなくても、愛している事実を知ってくれただけで私の想いは報われ、彼女が帰って後も彼女を愛した想いが残りの人生の糧になったはずだった。
本来迷い人は加護を受けた者の花嫁。他の者が横恋慕するものではないが、人を想う気持ちは自由でそれは神にも縛る事は出来ない。
私の様に後悔しない為に迷い人が帰るまでに告白した方がいい。先人の助言だ。きっと君の横にいる迷い人はシオリの様に、華奢で愛らしく素晴らしい人だろう。後悔しない選択をしてくれ』

と記されていた」

アレックスさんの目は真剣だ。っという事は…アレックスさんは私が好きって事⁈
そう思った途端に顔が赤くなって来た。恥ずかしくて目を逸らそうとしたらアレックスさんの両手が私の頬を包む。逃げれない!

「春香。テクルスの遣いとか関係なく、一人の男としてお前を愛している。お前は危なっかしくて目が離せなくてこの世界の誰よりも愛らしい…
くっそ!今まで女性に愛を囁いた事がないから、言葉が見つからない!春香に対する気持ちはこんな陳腐な言葉じゃないのに!」

いつものアレックスさんと違い情熱的でまるで殿下みたいだ。恥ずかしくて全身から汗が噴き出る。
アレックスさんは腕組みをして考え込んでいる。
これって告られている?

「春香。俺の全てをお前に捧げる。俺はお前意外は何もいらない!」

あぁ…やっぱり告られてる‼︎
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