時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは

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118.蓑虫

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「はぁ…」
「ため息吐く幸せが逃げるらしいよ」
「仕方ないだろ憂鬱なのだから」
 
今シュナイダー公爵領から王都の町屋敷に戻る馬車の中。私を足の間に座らせ後ろから抱きかかえるミハイル。そして私の頭の上に顎を乗せ頭上で大きなため息を何度も吐いている。
何故なら明日はアレックスの元に行く日で、アレックスが町屋敷まで迎えに来る。
昨日からミハイルの後追いが始まり1人になる時間が全く無い。
昨晩は何度も挑んでくるミハイルを宥め、屋敷では事なきを得た。まだ行為に慣れていないのと屋敷ここには父様母様もいるので嫌だ。

領地あっちでは良い子で我慢しただろう? だから今晩はするから」
「えっと…多分疲れていて寝ちゃうから…ムリカモ…」

一応拒んでみるがミハイルの目が怖くてそれ以上言えなかった。そして夕刻にやっと町屋敷に戻り部屋で一息つくと、クリスさんが明日の予定を伝えに部屋に来た。

「明日は昼過ぎにアレックス様がお迎えにお見えになられます」
「分かりました。じゃあ荷物を…」
「侍女が用意をし今朝オリタ伯爵家の屋敷に送ってございます」
「あ…ありがとう」

自分で身の回りの事はすると言ってあるけど、気がつくと全て終わっている事が最近多い。私がとろいのか?
報告の後、クリスさんと雑談していたらミハイルが夕食の時間になり迎え来た。そしてクリスさんが退室しダイニングへ向かう。

「…」

もう言葉も出ない。食事からして今晩致すのが分かる。だって私の食事もミハイルの食事も肉肉パラダイスだ。使用人の皆さんの笑顔が恐怖だよ!
こうして抵抗も虚しく致す事になり夜は更けていった。
 
そして翌朝。ミハイルが甲斐甲斐しく私の身の回りの世話をし、ダイニングまで私を抱いて運ぶ。
確かに腰が痛くて助かるけど、使用人達の温かい目でバレているのが分かり、恥ずかしくて顔を上げれない。
こうして午前中はミハイルの部屋に拉致られ、ずっと抱き枕と化していた。
そしてお昼が近づくと部屋にクリスさんが来て

「ちっ!」
「!」

アレックスの訪問の知らせに露骨に嫌な顔をしたミハイルに、苦笑いし自分から口付けをして

「アレクの所に行ってもミハイルはちゃんと私の心の中にいるよ。それに寂しくなったら会いに来てね」
「ハル…」

ミハイルの瞳に熱が籠って来たので、慌てて起き上がり両手を上げてミハイルに抱っこをせがむ。
破顔したミハイルは私を抱っこして、アレックスが待つエントランスへ向かった。

階段を降りるとそこには騎士服のアレックスがクリスさんと話していた。

『騎士服って事は夜勤明けかなぁ?』

そう思いながら隊服姿がかっこいい夫に見惚れていた。すると私の視線に気付いたアレックスは破顔したが、すぐにミハイルに抱っこされているのを見てレベル3になった。アレックスの眉間の皺を見て苦笑いしていると、クリスさんが駆け寄り

「若奥様。体調の悪いところでも…」
「あ…全然元気だけど…」

そう言いミハイルを見上げたら、クリスさんは察した様で苦笑いする。
こうして町屋敷を出発しようとしたが、別れ難くなかなか離れないミハイルにアレックスがキレ、馬車に私を押し込み町屋敷を後にした。
馬車の車内ではアレックスが私を抱っこして離してくれない。久しぶりだから仕方ないと諦め、アレックスの愛を受けていた。

アレックスが新たに構えた伯爵家の屋敷は王都端のコールマン侯爵家の町屋敷に近い。

『アレクが登城している時は、コールマン家の町屋敷に遊びに行こう』

そんな事を考えているうちに屋敷に着いた。馬車を降りると執事さんと使用人達が迎えてくれた。
コールマン侯爵家から独立したアレックスは、オリタ伯爵家の家長となっている。騎士かと思うほど大きな体の中年男性が執事の様で、一歩前にでて丁寧なご挨拶いただく。彼はキリトさんと言い、声は大きく体育会系だ。

「奥様にお仕えするケリーです。ケリーご挨拶を」

一歩前に出た侍女のケリーさんにご挨拶いただき、部屋に案内してもらう。アレックスはキリトさんから報告を受けている。
部屋に案内されると町屋敷よりは少し狭いが、日本のマンションの2LDK程あり1人で過ごすには広い。
婚姻後初めてこちらの屋敷に来たので、ケリーさんから部屋と屋敷内を案内してもらい、屋敷内を見て周る。屋敷の内装や調度品はマニュラ母様が用意してくれた。

『オリタ伯爵家の女主人は春香さんなんだから好きにしていいのよ』

と言って下さったが、婚姻前も婚姻後もこちらに来る時間が無くマニュラ母様にお願いをしていた。マニュラ母様は裁縫が得意でセンスが良くて任せても安心できる。案外見た目と反してアビー母様の方が少女趣味でピンクやフリルが大好き。恐らく任せると私の寝室はロリータ系になってしまう。
こうしてマニュラ母様のセンスで統一された屋敷内はナチュラルな装飾で心落ちつく。そして次に庭に出ると…

“ばぁう”

「?」

犬の鳴き声がして辺りを見渡すと犬を連れたアレックスが歩いてくる。その犬は中型犬で柴犬の成犬くらいの大きさで毛足の長い白い犬だった。

「アレク?」
「番犬を兼ねて春香の遊び相手に飼う事にした。シュナイダー家でもあの犬と遊んでいただろう?」
「カワイイ!触ってもいい?」

アレックスがリードを外すと戸惑った犬は、お座りをして私を真っ直ぐ見据える。驚かさない様に前に屈み手をゆっくり差し出すと、指先を嗅いでから私の手に擦り寄って来た。もふりたい気持ちを抑えゆっくり撫でる。柔らかく触り心地がいい毛並みに癒されていると

「まだ名を付けていないから春香が付けるといい」
「えっ!いいの⁈」

嬉しいけど名づけは結構プレッシャーだ、撫でながら考えに考え…

大福だいふく!」
「えっ?もう一度言ってくれるか⁈」
「だ・い・ふ・く だよ」
「「?」」

アレックスもケリーさんも困惑した表情をしている。おそらく大福が何か分からず、いいとも良くないとも言えず困っているのだろう。困り顔の2人に大福がどんなものか説明したら、2人は大福を見て笑いながら同意してくれた。
こうして家族が1匹増えて楽しい生活が始まる。

この後遅めに昼食を食べてアレックスが部屋まで送ってくれ、何故かそのまま私の部屋に入ってきた。

「?」

何か話があるのかと思ったら、もじもじしだすアレックス。そして前ぶりなく私を抱き上げて寝室に向かう。

「ちょっ!」
「3週間は長かったよ…愛しい妻は夫の乾いたを癒してはくれないのか⁈」
「来て早々に!」

縋る様な目で求められ拒めない私。溜息を吐きながら受ける条件として、必ず部屋を暗くする事と長くならない事を約束させ…

はい…アレックスの濃厚な愛を受けました。

事後は他の夫と同じで湯に入れてくれ、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

「アレクは夜勤明けで疲れてるんじゃないの?」
「春香を抱いたから反対に元気だよ」

また無意識の甘い発言に私が恥ずかしくなってくる。そしてアレックスの部屋へ移動し夕食まで部屋で過す事になった。アレックスのベッドでも抱き枕になった私は疲れからうとうとしていた。
すると執事のキリトさんが部屋に来たようで、アレックスがベッドから下りて部屋の方へ行ってしまった。暖かいお布団を体に巻き付け蓑虫春香の完成。アレックスの香りがするお布団に睡魔がやって来た。

「春香」
「ふぁぃ…」

ベッドに戻って来たアレックスが、蓑虫布団の私ごと抱き上げて膝の上に乗せ、額に口付けを落とし

「大切な話があるんだが、今大丈夫か?」

大切な話ならちゃんとしなければと布団からの脱出を試みるが、アレックスの腕は緩まない。仕方なくそのままの体勢で話を聞くと

「先日陛下から領地を与えられて、5日にその領地に行く事になった」
「そうなの?聞いてはいたけど何処?」

そう、アレックスはコールマン家から独立し叙爵して伯爵となったが、割り当てられる領地が決まらず婚姻式に間に合わなかったのだ。この国では爵位を与えられると領地も与えられる。しかし急なのとアレックスの爵位は新たにできた為に領地の調整が必要になった。

「っでどこなの?」
「まだ公表されていないが、南レイシャルのイーダン子爵が爵位を返上し隠居されるそうだ。そこを引き継ぐ事になった」
「そこって…」

イーダン子爵領はインクの産地で豊かな領地。それに南に位置し気温は王都より高く海も近い。

「でもアレクはローランドの護衛があるし、私は他の夫達の元に3週ごとに移動するから領地にずっと居れないよ。そんな私達では管理は難しいのでは?」
「あぁ…分かっている。だから…」

そう領主はアレックスだが実質の運営は、アレックスの遠縁の男爵家の次男の男性に任せる事になったそうだ。その男性はヘルマンさんと言い、5日後に領地で会う事が決まった。ミハイルの所に行っている間に話が決まったそうだ。

「イーダン子爵領は片道3日かかり、行き道にコールマン領も通るから、コールマン領にも立ち寄れるぞ」
「本当に⁈嬉しい」

テンションが上がり浮かれている私を優しく抱き寄せ、チューをしたアレックスが片眉を上げて

「今回の旅は前に春香に聞いた【新婚旅行ハネムーン】になるか?」
「うん。正に新婚旅行だ!」

こうしてアレックスと2人で領地訪問と言う名目の旅行が決まった。するとアレックスが破顔しベッドに蓑虫の私を寝かせて添い寝をして

「やっと春香が来てくれたが5日後にまとめて休暇をもらう為に、明日から出発前日まで勤務が続き寝に帰るだけになる。慣れていないのに屋敷に一人にするが我慢して欲しい。夜勤は入れていないから、就寝前には必ずに帰ってくるよ」

髪を撫でながら1人にする事を気にしているアレックス。本当に気遣いの人だ。そんな夫を安心させたくて

「分かった。大福もいるし旅行の準備と、キリトさんに屋敷の事を教わるから退屈しないと思う。だから屋敷の事は気にせずお仕事頑張ってね」
「はぁ…我が妻はしっかり者で俺は幸せだ」

そう言ったアレックスから、また激しい愛を受ける事になった。
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