書籍化は検証後になります

いろは

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4.誓約書

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「まずはしっかりと内容をお読みいただき、了承いただけましたらサインして下さい」
「何故誓約書なんて…」

目の前の宇賀さんは微笑んだままそれ以上何も言わない。パニくって来た私は落ち着くために目の前の宇賀さんを改めて見る。電話で話した感じ低音イケボで勝手に男前イケメンを想像していたがそれは合っていて、30代前半だろうか?切れ長の一重に鼻筋の通った高い鼻に薄く形のいい唇で、モテ人生を約束されている勝ち組さんだ。
目が合うと視線で”早く読め”と言われ、慌てて誓約書に目を通す。 

『なになに…』
「はぁ!これマジですか⁈」
「はい。人気作家から貴女のような新人までこの誓約の元で当社から出版となります。例外はありません」

そう言いまた微笑み黙ってしまった宇賀さん。何に対してもはあるのは分かる。しかし違反した時の賠償金がエグい。

出版社ここは調べたら限り優良ホワイト企業。ここ数年売上も右肩上がりで注目されている。会社のシステムを使い与信も調べたけど怪しい所は無く寧ろクリーン過ぎる。もしかして闇な部分が…』

私の危機察知能力が危険を知らせている。何故なら契約不履行の時の賠償金がエグいのだ。今サインを求めされているのは、出版にあたりこの出版社で得た技術の守秘義務を約束するものだ。なかなかサインしない私に宇賀さんは

「本来。作家さんが誓約書にサインし別室で正式に内容を開示するまでは、私達は口を噤む様に言われています。が!貴女はかなり用心深くこのままでは話が先に進まない。ですから一言だけ」
「はい。怪し過ぎて私の警戒レベルを振り切りました」

そう答えると宇賀さんは笑い

「当社の業績がここ数年で最高なのはご存知…ふふ…ですね。それはひとえに当社で取り入れたシステムのお陰なのです。ここまで言えば貴女にもある程度の重要性が分かるかと」
「…」
「いや…久しぶりに面白い人材に当たりましたね。殆どの新人さんは書籍化したくて、この誓約書は直ぐサインし別室行きになるのです。まぁ…お声をこ掛けた時点で見込みがあると判断しているので、賠償を請求された人はいません。一応事前調査はしてありますし」

さっきと雰囲気をガラッと変えた宇賀さんだけど、こっちが本来の宇賀さんのようだ。さっきまでの爽やかイケメンから腹黒な悪役ヒールにキャラ変したみたいだ。でも彼は嘘を言っている感じはない。

「もし書籍化されなくても、守秘義務さえ守れば私に不利は無いという事ですか?」

宇賀さんは言葉を発せず頷き返事をした。それを見て再度誓約書を見ると目につく賠償金1兆円。
嘘みたいに金額に手が震えるけど…

『貝になればいいのよね!それに書籍化される…のよね…』

“趣味の域”と言ってはいるが書籍化されれば正直嬉しいに決まっている。すこし躊躇したがサインした。するといい笑顔で誓約書を宇賀さんが手に取り、反対の手で握手を求めてきた。

「これから長い付き合いになります。改めてよろしくお願いします」
「えっと…はい」

デビューに向けて一歩前進したが、とても複雑な気持ちで素直に喜べない。

そして荷物を持ちに移動する。EVに乗ると操作盤に違和感を持ち凝視すると、4~7階が無い。怪しさ満載に身構えると宇賀さんは社員証を操作盤にかざした。すると操作盤にさっきは無かった7階が表示された。

「!」

驚く私の顔を見て楽しそうに微笑む宇賀さん。絶対この人私をおもちゃ認定している。今になってサインした事を少し後悔していたら

“ポーン”

秘密の7階に着いた。扉が開き身構えるが至って普通で拍子抜けする。そして宇賀さんの案内で会議室の様な部屋に通される。部屋は20畳程で長テーブル4卓と椅子が8脚あり、部屋の隅にはソファーセットもある。宇賀さんは貴重品をロッカーに入れる様に言い退室して行った。

スマホとハンカチに筆記用具だけ出し、他の荷物はロッカーに入れロックし部屋の中を確認する。

「窓が無いところが不気味よね…」

何も無い部屋の探索は早々に終わり、ぼんやり椅子に座っていた。どのくらい待っただろうやっと誰か来た様だ。

“コンコン”
「はい」
「失礼します」

入ってきたのは宇賀さんと凄い美人だ。宇賀さんのアシスタントかしら? するとその美人は名刺を差し出し名乗られる。

「三聖出版社技術部の玉川です。羽多野さんのサポートに付きます。何でも相談して下さい」
「はぁ…」

何で小説の出版に技術部の人が出てくるのが全く理解出来ない。すると宇賀さんが座る様に促し、向き合って話を始める。そしてダブレットを私に渡しノートPCを操作し始めると、ダブレットに【体験プログラム始動】の文字が映し出され暗証番号の入力が出る。

「あのこれ?」
「あ…初めは貴女の生年月日に設定していますから、入力してログインして下さい」

宇賀さんを見るが質問拒否状態で、取り敢えずこのサイトに入らないと話してくれない様だ。時間の無駄なので素直に生年月日を入力しログインすると

『星野先生。ようこそ三聖出版社特別プログラム《かくぞうくん》へ。貴女の作品をより良くするのが、このプログラムの役目です。貴女の力となります』
「なにこれ?」
『《かくぞうくん》て!出版社なのにネーミングのセンス疑うわ!言わないけど…』

目が点な私に宇賀さんが

「当社が開発した小説検証プログラムで、作家さんに自作もしくはパートナー小説の主人公になってもらい、作品の矛盾や登場人物の気持ちを体験していただき、よりクオリティーの高い作品にしてもらうモノです」
「あの…本気マジで言ってます?」

そう言うと真面目な顔をした宇賀さんは

「貴女の作品は他の作家さんに比べて着眼点が斜めで面白く、癖のあるセリフは妙に頭に残るいい作品です」

やっと編集者らしくなった宇賀さんに安堵するけど

「しかし完璧では無い」
「それは自分がよく分かってますよ。元々趣味で書いていて、他の方のように作家志望じゃ無い。自分の平凡な事くらい理解してますよ」

そう答えるとダブレットから音がして画面みると

【修正点
 ①作品名にセンスなし
 ②主人公の恋心が浅く共感できない
 ③恋愛対象との絡みに現実味がない】

と痛い指摘が画面にデカデカと書かれ凹む。だって恋愛もの書いているけど、実体験なく他の作品や人からの情報だけなんだもん!
ぐうの音も出ない私に宇賀さんが

「恋愛の経験少ない先生に疑似恋愛を体験してもらい、この作品を完璧な作品にしてもらいます」
「はぁ?誰と?」

異次元の話にもう頭がついていきません!




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