書籍化は検証後になります

いろは

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5.パートナー

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私の前に座る宇賀さんと玉川さんは真面目な顔をしていて巫山戯ている感じはしないが…

「あの…今の指摘は自分でも分かっている事ですが、その…その後の【疑似恋愛】の意味が分かりません。説明を求めます」

そう愬えると玉川さんがテーブルに置いたスマホを確認し、宇賀さんに耳打ちして

「あちらも粗方説明を終えた様です。こちらに来てもらいますか?」

頷く宇賀さん。誰がくるの?
その後もタブレットを見ながら私が書いた小説の誤字などの指摘を受けていたら誰か来た。玉川さんが席を立ち扉に向かい開けると

綺麗な女性と?

『新幹線の学生さん?』

そう朝の電車で一緒だったあの大学生が入ってきた。入るなり私を見てあちらも驚いた顔をしている。そして宇賀さんがご紹介してくれる。

「今回の貴女のパートナーになる乾君と、乾君の担当に付く駒田です」

すると駒田さんが歩み寄り名刺を差し出しご挨拶いただく。挨拶をいただいている間に隣で同じく宇賀さんが乾君に名刺を渡して挨拶している。

そして宇賀さんと駒田さんに促されパートナー?の乾君に挨拶する事に。

『やっぱり年上の私からした方が…』

そう思って息を吸ったら

「乾蒼司そうじです。まだ状況が分かりませんが、よろしくお願いします」
「あっご丁寧にご挨拶ありがとうございます。はた…違った!星野小夜です。こちらこそよろしくお願いします」

形だけの挨拶を終え、ここから本格的にこの企画の説明に入ります。

「これから話す《かくぞうくん》は我が社が開発したシステムで、現在特許取得中です。外部に漏れると膨大な損失が生じます。さっき疑問に思いながらサインいただいた誓約書はこの為のものです」

そして宇賀さんに促され玉川さんがシステムの説明を始めた。この《かくぞうくん》は所謂の睡眠学習の様な物で、寝ている間に私の書いた小説を夢で擬似体験し、矛盾点や作中の登場人物の台詞など検証する。
そして小説の修正を行い仕上げ、編集部の会議にかけられ出版となる。

「このシステムで修正した作品はほぼ出版となっています」
「「…」」

私もパートナーの乾君も口を開けて唖然とする。ツッコミ所が多く言葉が出ない。口を開けて固まる私を横目にメモを取っている乾君。案外真面目なのかもしれない。

「そこで毎週金曜の夜にこちらに来ていただき、その夜に《かくぞうくん》を受け、よく土曜に打合せとなります」
「まっ毎週ですか⁉︎」

毎週末こっちに来たら休む間もないじゃん!夢の書籍化とは言え、かなりハードなスケジュールに怯んでいたら、横に座る乾君はそんな私を見て

「書籍化ですよ。それくらい当然でしょう」

と冷やかに言い狼狽える私を冷たい目で見る。いや彼は学生だから時間の余裕が有るだろうが、私は社会人で平日は朝から晩まで忙しい。それにまだ完結していない話もあるのに…

私の様子に気付いた宇賀さんが

「会社勤めの星野先生はスケジュール的にキツイかも知れませんが、無理のない様相談させていただきますからご安心ください」
「はぁ…ありがとうございます」 

スケジュール調整出来ると分かり少し安心すると、今度は乾君が

「あの…俺関西方面で毎週こっちに来るとなると…交通費が…」

私も結構な出費ではあるが、会社勤めの私は交通費は何とかなるし、出版になればその交通費も経費で落とせるからあまり心配していなかった。しかし彼は学生で余裕がないのだろう。すると駒田さんが紙を出し

「その辺も含めて契約書を確認し、納得いただけたらサイン下さい」
「またサインですか⁈」

面倒臭さそうに駒田さんから紙を受け取る乾君。そして宇賀さんが私の前にも紙を出した。仕事で契約書類はよく読むので慣れている。後々もめない様にしっかり読み込んでいたら、隣に座る乾君はすぐサインしようとする。慌てて

「乾君。ちゃんと読んでサインしないと、後で不利になる事もあるんだよ」
「交通費と宿泊代を出してくれるからOKっす」
「いやいや、それでも一通り…」
「はい。駒田さんこれでいい?」

乾君には私の忠告はおばさんの小言にしか聞こえない様なので、これ以上は口を閉じた。
そして私は最後までしっかり読み、2、3箇所質問してからサインした。

「では今からお昼まで各自部屋でお互いの小説を読んでいただき、そして昼食の後は小説の感想をお聞きし、打ち解ける為にコミニケーションを取っていただきます。そして最後に始めにどちらの小説で体験するか決めいただき本日は解散となります」

『私のベタな恋愛小説をこの子に読まれるの?』

途端に嫌な汗が出てくる。今までネットで掲載しその上ペンネームで書いていているからこそ、あんな妄想満載の恋愛モノを書けたし、顔も分からない不特定多数が相手だから出来た事だ。
それを書いたのが私と分かって読まれると思うと居た堪れない。
きっと乾くんのジャンルは推理モノか歴史モノ…もしかしたら純文学かもしれない。そんな相手にベタな恋愛小説を読ませるなんて…

半泣きになっていたら顔を赤らめた乾君は駒田さんに

「自分の小説だけを体験すればいいでしょう。お互いの話を体験までする必要を感じません」

思わぬ助け舟に大きく頷き彼に同意した。すると

「いえ。欠点を自ら気付けているなら、こんな残念な事になっていません。気付けないからパートナーが必要なんです」 

宇賀さんが強い口調でそう言い

「あなた方は頭デッカチな恋愛観で現実味がなく、よく似ています。似たもの通しの方が気付きやすいので、この組み合わせにしたのです」
「「…」」

結局契約書にサインもし抗えない私と乾君は受け入れるしかなく、私はこの部屋で乾君の小説を1人で読み、乾君は元いた会議室に戻って行った。
そして部屋のドアまで行き振り返った乾君は

「イメージ違うからって穿った目で読まず、真面目に読んで思うところはちゃんと伝えて欲しい。俺も星野さんの作品はちゃんと真っ直ぐな目で読むから」
「あ?はい。分かりました」

この発言の意味を知るのは、この後20分後になる。そして宇賀さんと玉川さんも退室し1人になった。お茶を飲みスマホを見ると後少しで10時半だ。お昼まで1時間半ある。早速乾君の小説を読む事にし、借りたタブレットを開きダウンロードされた乾君の作品を開けると…

「…意外でした。やられた気分だ」

そう乾君の小説は異世界恋愛ものだった。読む前から躓いた私は作品名から本文に入るまで時間を要し、今になってロビーで誓約書にサインした事を後悔し、タブレットと暫く睨めっこ。

“ぴら~ん”

「ん?」

『本文に移って下さい』
「げっ!」

こうして《かくぞうくん》に急かされやっと読み始める事になった。



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