来世はきっと。

たなか

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奪われた少年

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清々しい朝陽が窓から注ぎ込む。

窓の外は一面の青空で、僕の家の窓と空を遮る建造物はたった一つ。

父が開発に関わったイージスシステムだ。

父はF.C.Pの元エリートエンジニアで現在は役員となっている。

僕の家は日本一高い高層マンションの最上階だ。マンションには住民専用のプールやスポーツジム、バーラウンジなどがあり日本でも3本の指に入るレベルの高級マンションだ。

「起きなさーい、ご飯よ!」

部屋の外からいい匂いが漂ってくる。

朝食は母の得意な料理。ハムエッグだろうか。

僕は部屋から出る。

今日は休日。大切な妹の誕生日祝いで、家族みんなで外出する日だ。

「ったく、うちのバカ息子はいつも起きるのが遅いな」

父が冗談を言いながらクスッと笑う。

「うるさいなぁ、休日は休むためにあるんだろ~」

「真奈のプレゼント買えなくなっちゃったらお兄ちゃん責任取れる?」

なかなか笑えない冗談を母が言ってくる。

「ったく、高校生のうちからブランドもの大好きになってどーすんのさ」

「お兄ちゃんだってこの前めちゃくちゃ高いスニーカー買ってたじゃん!パパのヘソクリパクって!」

「お、おい、、それは…」

「おいおまっ!!」

父がヘソクリを取られたことに怒りそうになる。

「あなた。ヘソクリってどういうことかしら?」

しかし、父の勢いを一瞬で鎮める存在がいた。

普段は温厚な母だが、怒るとめちゃくちゃ怖い。

妹の一言をきっかけ休日の朝は賑やかとなった。




朝食を終えると家族みんなでオシャレして、父の高級車でショッピングへ向かう。

妹は高校生とは思えないほどチャラい。

母も30代とは思えないくらい綺麗だ。

たまに金持ってそうなオジさんにナンパされることがある。

しかし、そんなオジさんを一瞬でドン引きさせるくらい父はキマっていた。

最高にカッコいい父だ。

「なぁ、親父!この車飽きたらちょうだい!」

「そういや、来年免許取れるもんな。いいぞ、あげるよ。ぶつけるんじゃないぞ。」

「よっしゃ!」

「ええ、お兄ちゃんズルい。パパ!私も車欲しい。専属ドライバー付きで!」

「もうあんたたち何言ってるのよ」

母がクスッと笑う。

ふと、車の窓から外を見ると拡声器と文字の書かれた段ボールを持ち演説をしている人たちがいる。

身なりは見窄らしく、どう見ても首都圏の住民とは思えない。

「いつか、あーいう人たちも恵まれるといいな。」

演説の内容に耳を傾ける訳ではないが父はボソリと呟く。

父は貧困層への多額の寄付を行なっている。
ここもまた父の尊敬できるところである。

「格差社会反対!平等な労働と賃金を!」

貧困層の人々はひたすらに訴える。

だが、僕は知っている。

そもそも貧困層の人々へ仕事を与えて賃金を払っているのは父の務めるような大企業であることを。

父のような人材がいなければそもそも仕事もクソもないのだ。

それを格差というのは少し傲慢ではないだろうか。

僕には理解が追いつかなかった。

必死に考えを巡らせているときだった。

凄まじい爆音が鼓膜を振動させた。

「うわっ!なんだ!」

父が慌ててハンドルを切る。しかし、どうにもならず僕たち家族の乗る車は横転してしまった。

それと同時に僕は気を失った。




どれくらい気を失っていただろうか。

パンッ、パパンッと爆竹のような音が聴こえる。

横転した車の運転席では父が頭から血を流しながらも必死に母に声を掛ける。

どうやら母も気を失っているようだ。

「お、親父!一体何が!」

「おう、無事か!、動けるか!?」

バチュンッ

見慣れない音と同時に何かが気を失っている母を貫いた。

もう何が何だかわからない。

「真奈を連れて逃げろ!」

「親父は!?」

「俺はダメみたいだ。足が抜けねえ。いいか、絶対2人で生き延びろ!すぐに国家保安省が来る!俺の名前を出せばすぐに保護されるはずだ!わかったな!?」

車のドアを蹴破り、気を失っている真奈を連れ出した。

そして親父も助けようと運転席のドアを開けた瞬間だった。

バチュンバチュンッ

と見慣れない音同時に父の胸部から血が噴き出る。

「お、親父?!」

父から返事はない。

「おい、親父!しっかりしろよ!」

どんなに父の肩を叩いても返答はない。

頭の中ではもう父が死んでいることはわかっているはずなのに無駄なことを繰り返してしまう。

そんなことを繰り返していると、真っ白な戦闘服にボディアーマーをつけた覆面の男たちがやってきた。

国家保安省だ。

「君!大丈夫かい?!」

国家保安省の職員は僕をおんぶした。

「逃げるよ!、しっかり捕まって!」

「ま、まだ妹が!!」

「おい!そこの気失ってる白雪姫を誰か担いでくれ!そのまま後退する!」

「了解。白馬の王子様は俺でいいかい隊長?」

「ああ、問題ない!民間人の救助が最優先。テロリストの始末はドローンと戦闘ヘリに任せろ!」

パパパンッ!

乾いた音が響く。爆竹のような音が銃声であることに僕は今気がついた。

目の前で国家保安省の職員が撃たれる。

「ぐあっ!」

「ばかな!なんで貧困層の奴らがAKなんかもってんだ!?」

「HQ、テロリストはロシア製のアサルトライフルで武装している!我々のアーマーを貫ける装備を持っている!
隊員では危険だ!ドローンを送ってくれ!」

バシュゥゥゥ!

空気の抜けるような音がした。

「あ、RPG!!」

そして次の瞬間。

爆音が耳をつん裂く。

その瞬間僕の身体は宙に舞った。

僕はそのままアスファルトに叩きつけられる。

「お、おい…兄ちゃん…これ被っとけ。」

さっきまで僕をおんぶしてくれていた職員は血を流して倒れている。

そして僕の頭にヘルメットを被せてきた。

「いいか、このヘルメットを被ってればドローンから味方扱いされて万が一でも誤射はない。絶対脱ぐなよ。」

「そ、それと、すまん、妹さんは俺が回収してから行く。先に行け…」

どう考えても身動きが取れないレベルの怪我だ。職員の右足は膝から下がない。

僕はその場でただ頭を抱えて踞ることしかできなかった。

しばらくすると、聴き慣れない機会音と共に巨大な四足歩行の戦車のようなものがやってきた。

国家保安省のドローンだろう。

ドローンは凄まじい勢いでガトリングガンを撃ち続ける。

ガトリングガンの銃声はあまりにも騒音で表現の仕様がない。

次々とテロリストが大量の血液と肉片を撒き散らして木っ端微塵になる。

ドローンはそのまま僕を通り過ぎていった。

そして今度こそ僕はドローンの後ろからやってきた国家保安省の職員に保護された。
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