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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第11話 不屈

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 そうだった。昨日はそんなことがあったんだったな。
 色々濃い一日だった。
 そして今日の朝一で迷宮に挑んだその二分後に俺の右腕とオスカーの内臓に悲劇が起きた。
 ザルディンは俺に何の加護ももたらしてくれなかったことも判明した。何故だザルディン……

「ああちくしょう」

 腰掛けている椅子の背もたれに体重を預けると、自然と恨み節が吐き出されてしまう。
 確かに多少、楽観視していたことは認めるがそれにしたってお粗末な結果にも程がある。

「なあギフン、ベルティーナ」
「なんじゃいアイザック」
「何よ?」
「治療が終わったらもう一回潜ろう。確かめたいことがあるんだ」
「ああ。ワシもそれを提案しようと思っとったところじゃ」
「当たり前じゃない。”今日はもうやめとこう”なんて軟弱なこと言ってたらケツ蹴り飛ばしてたわよ」

 流石元レベル20のベテラン達だ。全く心が折れていない。
 二人がこの様子ならオスカーも大丈夫なことだろう。
 俺が確かめたいこと、それは二つ。まずは体の動かし方だ。
 レベル1にも関わらずレベル20の動きをしようとしてしまっていたのが苦戦の原因だったのではないか。
 八十歳の老人がまだ若いつもりで十代の少年と同じような動きをすれば、待ち構えているのはギックリ腰だ。
 先程の戦闘、俺はネズミ相手に”先の先”を取ろうとして失敗。更にカウンターを狙ってそれも失敗した。
 どちらも一手間違えれば大きな隙を作り出してしまう戦法だ。
 昨日盾を買ったときは落ち着いて戦うって決めてたのになあ~。いざ魔物を前にしたら欲を出しちまったよ!

 レベル1のファイターが気取って出せばお粗末な結果を招くのみ。
 改めて俺は自分が素人冒険者であることを認識しなければならなかった。
 次の戦闘では下手な動きはせずにシンプルに動いてみることにしよう。そうしよう。

「アイザックよ。確かめたいことの一つは体の動かし方かいのう?」
「当たり。かっこつけて動いたらひどい目にあったからな。次はかっこつけない」
「賢明じゃい、かっこつけて返り討ちにあってママ~は笑えない程かっこ悪いからのう」
「待て……なんか俺、実際にママ~って叫んだ系ファイターにされてない? 叫んでねえからな!? 心の中で思ってすらいねえからな!?」
「……」
「いやなんか言えよ」

 その時礼拝堂に大声が響く。

「アイザックくーん! ギリ生きてたオスカー君の治療終わったよ! はい次! こっち来て! 治すから!」

 トーマスさんの急かす声だった。
 まだ早朝だからか寺院に他の冒険者達の姿は一切見えない。
 にも関わらずこの回転率重視方針。流石トーマスさんだ。
 トーマスさん曰く”モタモタされるとロットが乱れる”とのことらしい。なんだよロットって……
 とにかくこの腕を治してもらおう。
 治療室に足を踏み入れるとすでに全快していたオスカーが軽いストレッチで体調を確かめていた。

「いやあひどい目にあったなオスカー」
「いやあまさか石つぶてで死にかけるとは。面目ない。次は気をつけるよ。それよりオスカー、もちろんまた潜るんだろう?」
「当たり前だ」

 パーティの見解は全員一致していた。
 全員の治療を終えた俺達はトーマスさんに礼を言い、再び迷宮へと足を向ける。

「思った以上に体が動かなかったわ。昔の私ってあんなもんだったかしら」

 道中ベルティーナがポツリと呟く。先の戦闘に思うところがあったのだろう。

「昔は取れる選択肢がなくて、だからこそ思考に無駄がなかったとも言えるよベルティーナ。今の僕らは元レベル20。なまじ色々なことが出来てたからこその迷いが生じやすいかもしれない」

 オスカーもどうやら俺と同じ結論に至っていたようだ。
 そうなんだよなあ。いくら体がレベル1でも脳がまだレベル20なんだよなあ。
 まずは体と心のズレを修正しないと何度も死にかけることになっちまう。

「とはいえ弱みだけじゃなく強みもあるだろうからそこを認識していかないとだな」

 どうすれば次はあんな無様な目に合わなくて済むか。
 そんなことを話し合いながら俺たちは再び迷宮の前に立っていた。

「さて、と。あまり元レベル20を舐めてくれるなよ迷宮さんよ」
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