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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第12話 身の丈にあった戦い方

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 治療と休憩。移動時間を合わせておおよそ一時間ぶりだろうか。
 二回目の迷宮探索いってみよう! しかしこの静けさはいつまで経っても慣れない。
 いやあれか? むしろ慣れた方が危険だな。慣れなくて正解なんだ。
 前まではもう少し夜目が効いていたような気がするが、これもまたレベルドレインの影響だろうか。
 入り口近くで横たわっている二匹のネズミの死骸を尻目に十メートル程直進すると視界がだいぶ鮮明になってきた。
 さっきは目が闇に慣れていなかっただけだったみたいだ。まだ色々自分の能力に探り探りでどうにも落ち着かないな。

「十メートルも探索できた! 新記録達成だ! やったな!」
「ああ……ワシらついに……ついにやり遂げたんじゃなって……うう」
「泣くなギフン。俺も……俺も泣いちゃうから!」
「あんたらしょうもないこと言ってないで真面目にやりなさい!」
「む……この先に……いるね。二足歩行……数は三体……いや四体か……すまない数は絞れないな。三か四だ」

 玄室前にたどり着くとオスカーが這いつくばり床に耳を当てる。
 うーむ。昔は中にいるモンスターまでビシッと言い当ててすごい便利だったんだけどなあオスカーの索敵
 やはりレベル1になった影響は大きいな。

「三、四の二足歩行ね。オッケィ」
「ってことはネズミじゃないわね」
「ネズミじゃないのう」

 二足歩行で三、四体。恐らくゴブリンだろう。
 コボルトならもう少し数がいるはずだ。小さな体に臆病さと狡猾さを内包した緑肌のモンスターだ。
 知能は低く相手のリーチの差を考えず棍棒を振り回す低級のモンスター。
 迷宮の構造が変わったといっても上層でいきなりワイバーンや吸血鬼が出たりはしなさそうでひとまず安心だ。
 だが何よりもありがたいのはネズミじゃないってことだ! 
 値千金の情報だ! 二つあった懸念を同時に確かめることができる!

「部屋に突っ込んだら俺とギフンが二人がかりで一匹を倒す。一番俺たちに近い奴だ。ベルティーナは他を火矢でやってくれ。オスカーはベルティーナが近づかれた時に割って入ってくれ。それまでは待機で構わない」
「おうさ」
「わかったわ」
「了解」

 全員が頷く。準備は万端だ。
 扉を蹴り飛ばしてギフンと共に部屋を突入する。
 モンスターはやはりゴブリンだった。数は三体。
 部屋の中央で座っていた小鬼達は休憩していたのだろうか、
 俺達の姿に驚き対応が遅れる。部屋の入口に最も近いゴブリンに俺とギフンは突撃を仕掛ける

「ハアッ!」
「チェストォ!」

 今度こそしっかり手応えありだ
 ゴブリンの左肩に俺の袈裟斬りが。胴にギフンの横薙ぎが入る。
 大丈夫だ。俺もギフンもしっかり武器が振れている。

「ギッ!」

 反撃する余地も与えずにゴブリンは床に倒れる。
 臨戦態勢を整えた残りのゴブリン二体が棍棒を持って襲いかかってくる。

火矢ファイアボルト!」

 ベルティーナの放った火矢は俺の真横を通り過ぎ、ゴブリンを焦がす。
 叫び声を上げる暇もなくゴブリンは炎に包まれ絶命する。今回は俺の腕も燃えてないし調子いいんじゃないの~?

「キイッ!」

 仲間の敵討ちかそれとも本能か。
 顔を真っ赤にしたゴブリンが俺に向かって棍棒を振り下ろしてくる。
 遅く、ヌルい攻撃だった。盾で攻撃を斜めに逸らして抜け駆けに胴を払えば決着がつくのではないか? 
 俺の頭にかっこいいムーブがチラつく。

「ヌウッ!」

 ガイン!
 ヒーターシールドが棍棒を受け止めた音だ。ダメダメダメ! かっこつけないかっこつけない!
 今の俺はレベル1ファイターだ! 泥臭く戦おうじゃあないか!
 若干腕が痺れたがノーダメージだ。

「頼むギフン!」
「あいよ!」

 俺のシールドに攻撃が阻まれ隙だらけになったゴブリン。
 その頭上にギフンの刀が振り下ろされる。

「ギャイッ!」

 断末魔と血しぶきを上げてゴブリンはその場に倒れ伏す。
 いくらナマクラと言っても脳天に叩き降ろされればそりゃ死ぬわな。うん。

「ふぃー」

 溜まった緊張を吐き出す息が漏れる。
 ゴブリン三体を不意打ちとは言えひとまず危なげなく討伐することができた。
 疲れではなく緊張感から肩で息をしている俺とギフンにオスカーが駆け寄ってくる。

「腕は大丈夫かいアイザック。傷薬を使うかい?」
「いや、大丈夫だ。うまいこと芯で受けることが出来たんでな。ダメージはない。それで宝箱だが……」

 ゴブリン達の死骸。その先に視線を向けると隠し持っていたであろう宝箱を見つけた。
 宝箱を見るだけでなんだか鼻と口がムズムズしてきた。
 石つぶて……痛かったなあ~。
 ってことはオスカーは内蔵がムズムズしているのかな?
 やめた方がいいんじゃないかなあ。痛い目また見ちゃうんじゃないかなあ。そんな顔をしているのがオスカーに読まれていたのだろう。

「もちろん。君たちだけ活躍して僕だけまだ何もしていないからね。ここからは僕の出番だよ。みんな休んでてくれ」

 そう言いながらオスカーは宝箱の前にしゃがみこみ、解錠作業に入る。あー怖え~。怖えよ~。

「ねえアイザック。確かめたいことってのはわかったわけ? ああ、火系の呪文って杖が汚れるから使いたくないのよね」

 ベルティーナは杖についたすすを手で払いのける。

「ああ。ゴブリンと戦ってわかったことがいくつかある。まずは地に足ついて戦うべきってことだな」

 今回ゴブリンと戦った時、俺は難しい技術を一切使わないことを意識していた。
 突撃、袈裟斬り、防御。それだけだ。
 どれも新米ファイターが真っ先に覚えるシンプルな技術。レベル1だろうと20だろうと動きの仕組みは変わらない。
 基本技術を用いて戦えばレベル1なりに、それなりに戦うことは出来るだろうことを確信したよ。

「そうじゃのう。ワシも今回は”居合”とか狙わずに面と胴しか使わなかったけどそっちの方がしっくりきたわい」

 刀についた血を拭いながらギフンが口を開く。そうなんだ。ネズミの時は
 先の先せんのせんを使おうとしたが全く体がついてこなかった。
 先の先、相手の動き出したその瞬間を狙う。
 レベル20ファイターだけがたどり着くことのできる境地。究極の先制攻撃だ。
 昔はこれでブイブイ言わしてたもんだ。吸血鬼の始祖すら先手必勝のワンパンだったからな。俺の最強ムーブよ。
 それが全く機能していなかった。カウンターも失敗だった。
 やはり身の丈にあった戦い方で俺たちは迷宮を潜っていくべきなのだろう。

「それともう一つは……もう数回モンスターと戦わないと確証が得られないんだけどさ」
「ああ……アイザックの……言いたい……こと、は……わかる、よ……」

 オスカーが解錠しながら話に割って入る。こいつは作業中に喋っている方が集中できる男なのだ。

「アイザック……君は……こう言いたいん……だろ? ……つまり、は。よし、開いた。なんだただのメイスだ」

 解錠作業に成功したオスカーは戦利品であるメイスを袋にしまうとこちらに顔を向ける。

「僕も今のゴブリンとの戦いで感じたよ。”ネズミだけが強くなっている”と」

 そう! そうなんだ。オスカーの言う通りなんだ。
 最初に迷宮に潜った時、俺たちは大ネズミに大苦戦した。
 しかし元々大ネズミはそれほど強いモンスターじゃないはずなんだ。
 確かにかっこつけて舐めた戦い方を俺はしていたが、それを考慮してもあのネズミの強さは異常だった。
 十年以上前、それこそ本当に冒険者駆け出しの頃にも大ネズミとは戦ったことがある。しかしあれほど凶暴で素早く動いてはいなかった。
 ”ネズミだけが強くなる事象が発生している”
 その疑念は、先程のゴブリンとの戦いを経て増々俺の中で強くなっていた。

「でしょうねえ。」

「ん~。やっぱりそう思ってたのはワシだけじゃなかったか」

 ギフンとベルティーナも納得の面持ちだった。やはり俺だけじゃなかったか。

「とにかく他のモンスターとも戦ってみよう。ネズミだけじゃないって可能性もあるからな」

 玄室を後にし、探索を続けてすぐに俺たちは二体の大ムカデと四体の蝙蝠と出くわした。
 大ムカデの攻撃を盾で受け、そこをギフンが唐竹割りで一体を撃破。
 もう一体をベルティーナが火矢で丸焦げにした。
 蝙蝠が俺の左手に噛み付くがすぐに振り払い胴体ごと切り裂く。
 残りの三体のうち一体はオスカーがダガーで。二体はギフンが翼ごと切り落とした。
 蝙蝠に噛まれた腕は軽傷で、オスカーの持ってきた傷薬ですぐに痛みが引いていった。
 ムカデと蝙蝠の死骸を前に確信した。この迷宮ではネズミだけが強くなっている。
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