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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第15話 デュランスとソニア

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「本当に助かりました! 恩に着ります!」
「い、いや大したことじゃない。気にするな」

 クレリックの男がこちらに深々と頭を下げてくる、
  が、そうされるとまるでデカいナスビを喉元に突きつけられてるみたいで落ち着かないぞ。

「いーや! ケジメってやつだ! ほらソニア! お前も頭下げろ!」
「ム~。あのままやれば勝ってたんスよお~」

 男がエルフの頭を掴み無理やり礼をさせる。
 見た目や言動はアレだが結構常識的な奴らしい。反面エルフの女の子はどうにもマイナスイメージが拭えない。
 エルフの格闘家。それもスライムに関節技かけてる女の子なんてお兄さん生まれて初めてみたよ。
 もうびっくりしちゃって今でも軽く手が震えちゃってるよ。

「僕はオスカー。こっちがアイザック。こっちのドワーフがギフンでダークエルフのベルティーナだ」

 面食らっている俺へオスカーが助け舟を差し出してくれた。

「ああ、自己紹介もまだでしたね。俺はデュランス。クレリックです。そんでこっちのアホがソニア。一応格闘家です」
「”総合”格闘家っス!! 総合格闘家! そこらの格闘家とはレベルが違うんス! 訂正を求めるっス!」

 エルフの女の子が口を尖らせて不満を募らせた。

「レベルが違うって……お前レベル1だろが!」
「痛いっスよ!」

 デュランスと名乗る男にゲンコツを落とされソニアが涙を浮かべる。
 どうやらこのデュランス君、普段から相当苦労しているように見えた。

「そ、それでデュランス。二つ聞きたいことがあるんだがいいか?」
「ん? なんですか? なんでも聞いてくださいよ命の恩人なんですから」

 デュランスが髪を両手でキュッと揃えながらこちらに振り向く。
 あれだけ動いても全く乱れないのかその髪の毛は。

「それじゃ遠慮なく聞かせてもらうがなんで……なんであんな状況になってたんだ……? ほら……スライムに……その……なあ?」
「ああ。それはソニアが、このアホがな……スライム見つけてすぐに”先手必勝!”とか言い出して自分から囚われにいったんですわ……」
「それは語弊があるっス! 囚われにいったんじゃないっスよ! めにいったんス! あの構造なら三角絞めが入るはずだったんス!」

 なんだよ極めって。ほらソニアちゃん、隣のデュランス君が目頭抑えちゃってるよもう。

「極め?」
「そうっス! 私ら総合格闘家は相手の骨、関節、血管を抑えてダメージを与えることが出来るんス!」
「それは……すごいな。うんすげえわ」

 スライムには骨も関節も血管もないけどな……

「まあ……こんな感じの奴なんで目が離せないんです。重ね重ねだけど本当に助かりましたよ。俺だけじゃお手上げだったんで……」

 なるほど。つまりはこの格闘家エルフの暴走ってのが真相のようだな。
 デュランスはクレリック。それも見た所ソニアと同じくレベル1。
 攻撃魔法も使えず、獲物はスライムに相性の悪いメイスのみ。打つ手なしだったわけだ。

「それともう一つ聞きたいんだがな、たった二人で迷宮探索だなんて自殺行為も同然だぞ。どうしてこんな真似を?」

 俺が一番気になったのはそこだ。四人の探索ですらリスクが高い行為なんだ。
 なのに二人きりで、それもソニアのしでかしとデュランスの慌てっぷりを見るにこいつらはレベルドレイン被害者ではなくただのレベル1新米冒険者だ。

「まあその。ちょいととある事情で……金が必要になりまして。なりふり構えなくなって駄目元で潜ったんですよ。」
「そうか。答えにくいことを聞いてしまったな。事情は言わなくていい」
「どうもです。それよりもアイザック…さん。あなたがたにも聞きたいんですけど」
「さんはいらんよデュランス。アイザックでいい」
「ああ。どうもですアイザックの旦那。聞きたいんですけど、皆さんそどうして四人で潜っているんです? 俺ら程じゃないにしても四人だって十分危険ですよ?」
「俺たち全員ここの迷宮を潜らなければいけない理由がそれぞれあってな。だが他にレベル1の冒険者も見つからなくてな。苦渋の決断だ」
「レベル1なんスか!? なんだかすごい落ち着いててまるでレベル20の風格っスよ!」

 ソニアが目を輝かせながら俺に詰め寄ってくる 
 このエルフはアホなのか鋭いのか。両方かもしれない。

「い、いやハハハ。そんなことはないって。ハハ」
「そっちもだいぶ苦労してるみたいですね。俺達も街のギルドで仲間を探したんだが、レベル1の冒険者が全然見当たらねえんだ。そりゃ誰だって今更レベル1の足手まといとは組みたくねえわな」

 そうなんだよなあ。街の冒険者は一番レベルが低くて8程度。迷宮で言うなら地下五階へ潜れる程の実力だ。
 そんなパーティにレベル1が入った所で何も出来ることはない。敬遠されるに決まってる。不良物件だ。
 お互い苦労してるみたいだな。俺とデュランスの目が同じことを言っていた。
 その瞬間、エルフの少女。ソニアがパアッと明るい表情をいきなり浮かべた。

「あ! いいこと考えたっス! だったら私達と組んだらどうっスか!? 私達もレベル1なんスよ! そっちは四人! こっちは二人! 二と四を足したら六っすよ! 六!」
「ああ…! ソニアそりゃいいな! アイザックの旦那! どうですか!? 俺達と組みませんか!?」

 デュランスは”その手があったか!”と言わんばかりにこちらに詰め寄ってくる。

「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ!」

 いくらなんでも申し出が唐突すぎる! 俺はオスカーに視線を移して助けを乞う。

「デュランス。お誘いはとても嬉しいけど大切なことなんだ。一度皆で相談させてもらうよ」

 オスカーが割り込みデュランスをたしなめる。

「ああ、ああそうですよね。おいそれと簡単に決めていいことじゃねえですよね。んじゃ待ってますんで!」

 ひとまずデュランスとソニアから離れた俺たちは部屋の隅っこで緊急ミーティングを開催する。

「面白い奴らじゃし入れてやってもいいんじゃないか? ワシは賛成じゃ」
「僕は……どちらでも構わないかな。彼らはクレリックと格闘……家? 僕らに足りない前衛と後衛だ。慣れてないから下手したら戦力ダウンの可能性もあるかもしれないけどね」
「そうねえ。これから最下層を目指すって私達に誰かを育てる余裕なんてあるとは思えないわ。いい子たちなのは見てわかるけど」

 ギフンは賛成。オスカーはどちらでも構わない。ベルティーナは反対、か。
 となると反対二の賛成一の保留一。だな。俺は彼らを仲間に加えるのに反対だ。
 何か事情があるみたいだが、はっきり言ってこの階層であんな目にあう程の冒険者なら早々に諦めて地に足ついた生活をするべきだ。
 ただでさえ今は上層ですらあのネズミが出る魔窟と化しているのだ。
 気のいい奴らだからこそ、傷ついてほしくない。取り返しのつかないことになる前に諦めてもらうのもまた優しさだ。

「俺とベルティーナで反対二票だな。断ってくるよ」
「ま、それも定めじゃの」

 ギフンは少し残念そうではあるが、パーティで決めたことに異議を挟むことはしなかった。
 流石侍だ。もしも俺がギフンの立場なら相当グズっていたよ。

「待たせたな。結論が出たよ」
「ああ! で、どうですかね? アイザックの旦那。パーティ参加の件は?」

 デュランスが笑顔をこちらに向ける。
 昔からパーティに誰かを入れる入れない。追い出す。そんな類の話が気持ちのいい結果で終わったことがない。

「ああ、それでだな……パーティ参入に関してなんだがな……」

 俺はデュランスの目を逸らしながら話を続ける
 長年冒険者をやっているがいつまで経ってもこの瞬間は慣れることがない。

「ん!? なあアイザックの旦那! その腰にぶら下げてるのってデュエル&ドラゴンズのデッキじゃないですか? お守り代わりですかね? 俺も少しやってるんですけどそれ結構面白いですよね。暇な時に対戦してくださいよ!」

 俺はデュランスの手を両手でしっかりと握り、目を見据えてこういい切った

「ようこそ。オレたちのパーティへ」
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