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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第16話 パーティの条件

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「アイザック、ちょっとこっち、こっち来て。うん。いい子よアイザック」

 ベルティーナが部屋の隅で俺を手招きしていた。
 何故だろうか。何かぎこちない笑顔を浮かべているぞ。とりあえず話を聞くとするか。

「どうしたベルティーナ?」
「いえね、あんたとデュランス君を遠目で見ててね。ちょっと疑問に思ったの。なんでパーティ参加をお断りしている相手とフレンドリーに握手してるのかなあ~って」
「ああ、デュランスとソニアをパーティに加えることにしたんだ。だから握手。親愛の握手だ。やっぱ大事だろ? そういうのって」
「へ? あんた反対してた……反対してたわよね? ”断ってくるよ……”とかなんとか言ってたわよね!? どういうこと~ん!?」
「ああ、僕も見てて思ったけど何か心変わりするような判断材料が見つかったのかい?」
「そうじゃのう。ワシは賛成じゃったから嬉しいんじゃが、ちと腑に落ちんぞい」

 どうやら我らがベテラン冒険者様達は突然のパーティ参入に戸惑いの色を隠せないみたいだ。
 だが俺はどうしてもデュランス(と、ソニア)をパーティに入れなければならないんだ。
 パーティに俺以外のデュエル&ドラゴンズプレイヤーがいる。なんて素晴らしいんだ……考えただけで脳から変な汁が出てきそうだ。いや実際に出てるよこれ。
 なんとかして彼らを説得しなくては。ここは踏ん張りどころだ!

「なあみんな聞いてくれ。まず前提として俺たちは前衛と後衛をそれぞれ一人ずつ欲しかったわけだよな?」
「それはまあ、そうね。」
「彼らはクレリックと格闘家だ。まるでパズルのピースがピッタシハマるような構成だと思わないか?」
「まあ、確かに。特に治癒呪文を使えるメンバーがいるのはありがたいね。ある程度の無理もできるし戦術も広がる。けれど素人同然だよ彼らはアイザック」
「何言ってるんだ。才能なんてのは突然開花するもんだ! レベル1で何がわかるってんだ! ベルティーナだって確かレベル10くらいまではクソザコだったぞ!」
「アイザック!あんた言い方ぁ!」

 実際の所、昔のベルティーナは使う魔法のチョイス、タイミング、何もかもお粗末だった。
 炎の精霊ファイアーエレメンタルグリースの魔法を掛けて死にかけたこともあったくらいだ。
 あの時はビビる通り越して痺れたね
 しかし何度も俺たちの足を引っ張りながら失敗を繰り返し、そして大陸随一の魔法使いにまで育つことができたのだ。
 だとするならば彼らにだって目があるかもしれない。

「みんなに聞きたい。パーティを組むにあたって一番重要視すべき要素はなんだと思う?」
「うーん……実力かしら。面子で実力に開きがあるのはどちらにとってもいいことではないわね」
「ベルティーナが重要視するのは実力か。なるほど一理ある」

 実力の劣る仲間に足を引っ張られて倒れていく実力者。よくある話だ。怖いよね。うん。

「ベルティーナと似ているけど経験、かな。レベルじゃなくて経験ね。ベテランパーティは意思が揃えやすい。経験者だけのパーティは窮地でも咄嗟の反応と最適な選択が出来るからね」
「そうだなオスカー。経験。大事だな経験は」

 経験は本当に大事だ。簡単に手に入れられるものじゃないからだ。
 様々な冒険を乗り越えて気長に積み重ねるしかない。だからこそそれを持っている冒険者は強い。仰る通り!

「覚悟じゃな。パーティ内でそれぞれ覚悟に差はない方がいいのう。いざって時に命取りじゃ」
「ギフン今いいこと言った! いいこと言った!」
「でへへ……ワシいいこと言っちゃった?」

 そうなんだ。ギフンの言う通り覚悟のある奴とない奴が組むとロクなことにならない。
 これは冒険者に限らず全てに通じる話でもあるな。

「で、アイザック。そろそろあんたの見解を教えて欲しいんだけど?」

 特に二人の参入を反対していたベルティーナだ。生半可な言葉では言いくるめることはできないだろう。

「まずオスカー。パーティメンバーにはそれ相応の経験が求められる。そう言ったな?」
「ああそうだね。僕はそこが一番大事だと思うよ」
「だがな、現状この街で”レベル20の経験を持つレベル1”なんて俺たち以外に存在しないんだよ」
「む、確かにそうだね。そうなると無いものねだりになっちゃってたわけだね」

 そう。レベルドレインなんて特殊な事例を除けばそれ相応に冒険の経験を積んでいるレベル1なんて存在しないのだ。

「俺たちは経験皆無な新米冒険者以外としかパーティを組めない。それが現実だ。次にベルティーナは実力が大事と言っていたな?」
「まあ、そうね。実力あってこその冒険者なわけだし」
「デュランスとソニア。彼らは確かに経験は浅いが、しっかりと実力を発揮すればそれなりの活躍はできるはずだ」
「スライム相手に右往左往してたのにぃ?」
「彼らの体つきを間近で見たがすでにある程度の筋肉は出来上がっている。足りない経験を補ってやればきっと実力もついてくるだろう。それは俺たちにとってもメリットになるはずだ」
「まあ、あんたの見立てが間違っていたことはないからね。ヒヨコの間だけ我慢してやれってことね」

 ベルティーナもなんとか納得してくれた。あとはギフンだ。

「そして覚悟だったなギフン。この若さで迷宮を二人で探索するだなんて生半可な覚悟じゃないぞ。むしろ俺たち以上かもしれない」
「うむ。確かにそうじゃな。実力も経験も大事じゃが、背中を任せるのは覚悟のある仲間だけじゃ」

 ギフンは元々賛成の意思を示していたわけだしあっさりと納得してくれた。
 ワチャワチャしたコンビだが言葉を交わしてすぐにわかった。命を掛けているのが。

「彼らを入れることは俺たちに大きなメリットをもたらすはず。ギリギリで思ったんだよ! それじゃ彼らをパーティに加えるってことでいいよな?」
「そうねえ。四人じゃいつかは壁に当たってたかもしれないわね」
「ワシは元々賛成じゃった!」
「僕も賛成だよ」
「あ~よかった。それじゃデュランスとソニアを呼んでくるよ!」

 よかった! 半分口からでまかせではあるものの納得してくれた!


ファイター サムライ 格闘家
盗賊/錬金術士 ウィザード クレリック

これで六人パーティ結成! しかもクレリックはデュエル&ドラゴンズプレイヤーだ!
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