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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ
第22話 再戦
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「二日酔いってさ……アルコールという毒が体に回ってるわけで……だからデュランス……」
「せっかく覚えた解毒魔法をそんなしょうもないことに使うわけないですよ!」
デュランスの小言が頭にガンガン響く。
うう……昨日の深酒がまだ抜けない。調子に乗って飲みすぎるんじゃなかった。
「いいじゃんかよお~レベル上がったんだろ? 余裕あるんだろ~? 使ってくれよお~」
「デュランス君。回数が勿体ないならこのバカファイターじゃなくて私にだけでいいからお願ぁい」
「生命線なんスから旦那にも姉さんにも回復は使えないですよ! 我慢してください!」
「うう……神はいないのか」
昨日の迷宮探索を経て俺たちは全員レベル2へと成長していた。
ベルティーナはめでたく魔法の矢と油を取得。
デュランスは金縛りと解毒を
オスカーはめでたく火炎瓶を調合、投擲できるようになっていた。
昔はこれのお世話になったもんだ。つえーんだこれが。
俺は鈍かった体のキレが幾分戻ってきた感覚を覚えていた。
レベル20の頃とは比べ物にはならないが
それでも昨日より体が動かせるようになっているはずだ。ギフンも。ソニアも前衛として成長しているはずだ。
相変わらずクソ雑魚パーティではあるが、それでも少しはマシになったはずだ。
揺れる頭で俺は皆にドレンさんからの依頼の顛末を伝えていた。
「街のネズミまでが……ドレンさんの話を聞くに地下二階が非常に臭いね。アイザック。今日はやはり二階に潜るのかい?」
「潜る……ことになるだろうな。ネズミとの接敵は避けられないと思ってくれ」
「わかったよ」
「ただ今日一日でどうこうしようとは思わずに数回に分けて探索しよう」
「その方がええのう」
「なんにせよ無理は禁物だ。デュランス。信仰の盾を前衛の俺たちに頼む。それと全員にまとめて祝福だ」
「ああ。わかったぜ」
デュランスが目を閉じ呪文を唱える。
祝福はこちらの攻撃が敵に当たりやすくなり、信仰の盾は敵の攻撃がこちらに当たりにくくなる。
気休め程度だが、あるとないとでは全然違う。
うーん。気持ち、ほんの気持ち程度だが攻撃が敵に当たるような感覚がしてきたような……気がしないこともない!
「それじゃ潜るっスよ! 待ってろっス! ネズミ共!」
息巻くソニアを連れて俺たちは迷宮の入り口を進む。
すぐに闇が広がる。目が慣れていないこともあってどうにもこの瞬間が一番緊張する。
俺が冒険者を迎え撃つモンスターなら絶対にこの瞬間を不意打ちするだろうなあ。
「ドレンさんから地下二階への階段の場所は聞いている。北東に向かおう」
道中に蝙蝠が三体襲ってきたが祝福の効果もあってか特に苦戦せずに階段にたどり着くことができた。
「ここから地下二階っスか……」
「ビ、ビビってんのかソニア。お、俺はなんてことねえけどな」
階段は北東の突き当りで俺たちを待ち構えていた。
ポッカリと口を開けたその先には闇が広がり、まるで深淵にまで誘い込むような錯覚を覚える。
湿った階段を滑らないよう慎重に降っているとギフンの声が響く。
「ここからが奴らの縄張り……用心せんとなあ」
「見かけ次第ベルティーナは魔法の矢を撃ち込んでくれ。油は温存だ」
「はいはい」
「そろそろ地下二階だ……ん? うお!」
地下二階に降り立った俺たちの前に姿を現したのは大蛇の死骸だった。
体の大部分が食い尽くされ辛うじて残った頭部でそれが大蛇だと判明できた。
「これ……やっぱりアレかのう?」
「アレだなアレ」
「ネズミでしょうねえ」
「ネズミが蛇を食べちゃうなんて。普通反対っスよ!」
皮と骨だけが粗末に食べ残された死骸。
ネズミが凶暴化している事実を裏付ける証拠を目印に俺たちはそこからまず南を探索することにした。
するとすぐ近くに三階への階段を見つけることが出来た。
なるほど確かにこんな異様な階層はスルーして降りたほうが正解だ。
階段右手にしばらく直進すると十字路が視界に入った。
その時だ。アイザックの声が響く。
「気をつけて! ネズミ! ニ匹だ!」
十字路の曲がり角から黒い影がニ体躍り出る。
目を凝らすと禍々しく真っ赤に血走るネズミの目が俺を見据えていた。
歯をむき出しこちらに躊躇なく向かってくる。早い! 相変わらず早い!
「魔法の矢!」
「キイ!!」
白い一筋の迸る魔力が一匹を貫く。ベルティーナの魔法の矢だ。
仲間が殺されたにも関わらず、ネズミは目を血走らせながらこちらへ向かってくる。
ネズミは大きく跳ねて俺の喉元へ飛び込んでくる。喉を狙うつもりだ。
盾だ。まずは受け止め勢いを削ぐ! 喉をかばうように構えた盾に向かってネズミが体をぶつけてきた。
「ぬうう!!」
「ギイ!」
ネズミの飛び込みを受け止め弾き返す。その衝撃は昨日受けたゴブリンの攻撃とは比ではない。
俺は視線を一瞬左手に移し、まだ盾が握れていることを確認する。
信仰の盾がなかったらやばかったか?
突進を受け止められたネズミは奇声を上げて威嚇する。
「ソニア! 頼む!」
「はいっス!」
ソニアがネズミに蹴りを放つ。遠心力が乗った右の蹴りだ。
頭に当たれば骨ごと砕く程の威力だ。
「シイッ!」
すんでの所で身を屈められ蹴りは虚しく空を切る。
渾身の蹴りを避けられバランスを崩すソニアの喉元にネズミが飛びかかる。
まずい! 左腕が痺れて盾を差し込めない!
その瞬間、瓶が割れる音と共にネズミが炎に包まれた。
「ギイイイイイイ!!」
オスカーが火炎瓶を投擲したのだ。突然の火だるま。あまりの熱さにパニックを起こしたネズミは地面を転げ回る。
「ギフン! 頼む!」
「わかっとるわい!!」
「ギャイ!」
ギフンが炎に包まれたネズミを刀で突き刺す。その瞬間ネズミの動きが止まる。
「や、やったのか?」
デュランスが額に汗を浮かべながら二体の死骸を遠巻きに見つめる。
「ああ……なんとかやったみたいだ」
「な、なんなんだよあのネズミ! 二階で出てきていいモンスターじゃねえだろ!」
俺もそう思うよ。やはりあの強さは異常だ。だが……勝てた。
あれだけ苦労したネズミに今度は安定して勝てた!
自分の成長の手応えを俺は感じていた。
「俺たちの……勝ちだ!」
俺は天高く左腕を掲げる……掲げたつもりだったがなぜか腕が上がらない。
「ねえアイザック。あんた左腕折れてるわよ」
「へ……? わ、わああああ!! デュランスゥ!! 治して! 治して!」
なんだか左腕がプラーンとするなあと思ったら折れてました。
デュランスに治してもらう最中俺はもう二度と正面からあの体当たりを受け止めないことを固く誓った。
逸らそう。斜めに逸らそう。うん。
「せっかく覚えた解毒魔法をそんなしょうもないことに使うわけないですよ!」
デュランスの小言が頭にガンガン響く。
うう……昨日の深酒がまだ抜けない。調子に乗って飲みすぎるんじゃなかった。
「いいじゃんかよお~レベル上がったんだろ? 余裕あるんだろ~? 使ってくれよお~」
「デュランス君。回数が勿体ないならこのバカファイターじゃなくて私にだけでいいからお願ぁい」
「生命線なんスから旦那にも姉さんにも回復は使えないですよ! 我慢してください!」
「うう……神はいないのか」
昨日の迷宮探索を経て俺たちは全員レベル2へと成長していた。
ベルティーナはめでたく魔法の矢と油を取得。
デュランスは金縛りと解毒を
オスカーはめでたく火炎瓶を調合、投擲できるようになっていた。
昔はこれのお世話になったもんだ。つえーんだこれが。
俺は鈍かった体のキレが幾分戻ってきた感覚を覚えていた。
レベル20の頃とは比べ物にはならないが
それでも昨日より体が動かせるようになっているはずだ。ギフンも。ソニアも前衛として成長しているはずだ。
相変わらずクソ雑魚パーティではあるが、それでも少しはマシになったはずだ。
揺れる頭で俺は皆にドレンさんからの依頼の顛末を伝えていた。
「街のネズミまでが……ドレンさんの話を聞くに地下二階が非常に臭いね。アイザック。今日はやはり二階に潜るのかい?」
「潜る……ことになるだろうな。ネズミとの接敵は避けられないと思ってくれ」
「わかったよ」
「ただ今日一日でどうこうしようとは思わずに数回に分けて探索しよう」
「その方がええのう」
「なんにせよ無理は禁物だ。デュランス。信仰の盾を前衛の俺たちに頼む。それと全員にまとめて祝福だ」
「ああ。わかったぜ」
デュランスが目を閉じ呪文を唱える。
祝福はこちらの攻撃が敵に当たりやすくなり、信仰の盾は敵の攻撃がこちらに当たりにくくなる。
気休め程度だが、あるとないとでは全然違う。
うーん。気持ち、ほんの気持ち程度だが攻撃が敵に当たるような感覚がしてきたような……気がしないこともない!
「それじゃ潜るっスよ! 待ってろっス! ネズミ共!」
息巻くソニアを連れて俺たちは迷宮の入り口を進む。
すぐに闇が広がる。目が慣れていないこともあってどうにもこの瞬間が一番緊張する。
俺が冒険者を迎え撃つモンスターなら絶対にこの瞬間を不意打ちするだろうなあ。
「ドレンさんから地下二階への階段の場所は聞いている。北東に向かおう」
道中に蝙蝠が三体襲ってきたが祝福の効果もあってか特に苦戦せずに階段にたどり着くことができた。
「ここから地下二階っスか……」
「ビ、ビビってんのかソニア。お、俺はなんてことねえけどな」
階段は北東の突き当りで俺たちを待ち構えていた。
ポッカリと口を開けたその先には闇が広がり、まるで深淵にまで誘い込むような錯覚を覚える。
湿った階段を滑らないよう慎重に降っているとギフンの声が響く。
「ここからが奴らの縄張り……用心せんとなあ」
「見かけ次第ベルティーナは魔法の矢を撃ち込んでくれ。油は温存だ」
「はいはい」
「そろそろ地下二階だ……ん? うお!」
地下二階に降り立った俺たちの前に姿を現したのは大蛇の死骸だった。
体の大部分が食い尽くされ辛うじて残った頭部でそれが大蛇だと判明できた。
「これ……やっぱりアレかのう?」
「アレだなアレ」
「ネズミでしょうねえ」
「ネズミが蛇を食べちゃうなんて。普通反対っスよ!」
皮と骨だけが粗末に食べ残された死骸。
ネズミが凶暴化している事実を裏付ける証拠を目印に俺たちはそこからまず南を探索することにした。
するとすぐ近くに三階への階段を見つけることが出来た。
なるほど確かにこんな異様な階層はスルーして降りたほうが正解だ。
階段右手にしばらく直進すると十字路が視界に入った。
その時だ。アイザックの声が響く。
「気をつけて! ネズミ! ニ匹だ!」
十字路の曲がり角から黒い影がニ体躍り出る。
目を凝らすと禍々しく真っ赤に血走るネズミの目が俺を見据えていた。
歯をむき出しこちらに躊躇なく向かってくる。早い! 相変わらず早い!
「魔法の矢!」
「キイ!!」
白い一筋の迸る魔力が一匹を貫く。ベルティーナの魔法の矢だ。
仲間が殺されたにも関わらず、ネズミは目を血走らせながらこちらへ向かってくる。
ネズミは大きく跳ねて俺の喉元へ飛び込んでくる。喉を狙うつもりだ。
盾だ。まずは受け止め勢いを削ぐ! 喉をかばうように構えた盾に向かってネズミが体をぶつけてきた。
「ぬうう!!」
「ギイ!」
ネズミの飛び込みを受け止め弾き返す。その衝撃は昨日受けたゴブリンの攻撃とは比ではない。
俺は視線を一瞬左手に移し、まだ盾が握れていることを確認する。
信仰の盾がなかったらやばかったか?
突進を受け止められたネズミは奇声を上げて威嚇する。
「ソニア! 頼む!」
「はいっス!」
ソニアがネズミに蹴りを放つ。遠心力が乗った右の蹴りだ。
頭に当たれば骨ごと砕く程の威力だ。
「シイッ!」
すんでの所で身を屈められ蹴りは虚しく空を切る。
渾身の蹴りを避けられバランスを崩すソニアの喉元にネズミが飛びかかる。
まずい! 左腕が痺れて盾を差し込めない!
その瞬間、瓶が割れる音と共にネズミが炎に包まれた。
「ギイイイイイイ!!」
オスカーが火炎瓶を投擲したのだ。突然の火だるま。あまりの熱さにパニックを起こしたネズミは地面を転げ回る。
「ギフン! 頼む!」
「わかっとるわい!!」
「ギャイ!」
ギフンが炎に包まれたネズミを刀で突き刺す。その瞬間ネズミの動きが止まる。
「や、やったのか?」
デュランスが額に汗を浮かべながら二体の死骸を遠巻きに見つめる。
「ああ……なんとかやったみたいだ」
「な、なんなんだよあのネズミ! 二階で出てきていいモンスターじゃねえだろ!」
俺もそう思うよ。やはりあの強さは異常だ。だが……勝てた。
あれだけ苦労したネズミに今度は安定して勝てた!
自分の成長の手応えを俺は感じていた。
「俺たちの……勝ちだ!」
俺は天高く左腕を掲げる……掲げたつもりだったがなぜか腕が上がらない。
「ねえアイザック。あんた左腕折れてるわよ」
「へ……? わ、わああああ!! デュランスゥ!! 治して! 治して!」
なんだか左腕がプラーンとするなあと思ったら折れてました。
デュランスに治してもらう最中俺はもう二度と正面からあの体当たりを受け止めないことを固く誓った。
逸らそう。斜めに逸らそう。うん。
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