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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第23話 丸鶏のローストチキン バターライス詰め

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「前よりかは苦戦しなかったね」
「そりゃレベルも上がってフルパーティだからのう。それでもやっぱり異常じゃわいこのネズミ共は」
「あんなに早くて凶暴なネズミを見るのは生まれて始めてっスよ!」
「そうねソニアちゃん。私も約二百年、約二百年生きてるけどあんなのは初めてよ……触っちゃダメ触っちゃダメ! なんか変な病気持ってるかもしれないでしょ!」

 二百……? お前298歳じゃ?

「こりゃますます気を引き締めないといけねえな……旦那。終わりましたよ」
「助かる。礼を言うよデュランス」

 腕を振り回してもなんら動きに支障がない。これなら戦える。
 やはりクレリックの加入は大きい。ある程度の無茶ができるのは戦術の広がりを意味する。
 デュエドラプレイヤーだしクレリックだしで。即戦力だなデュランスは!
 さっき今日の探索が終わったら火吹酒と魔法使い亭でガッツリ遊ばないか? って誘ったら

『行けたら行きます』

 って連呼してたしこの後が楽しみだなあ!
 治療も終わり息を整えた俺たちは再び探索を始める。
 壁の裏で何かが走り回っているような、カリカリと何かをひっかくような、煩わしい音が耳に響く。
 気のせいであってほしいものだ。そう思いながら十字路を左に、先程ネズミが飛び出してきた方向を念入りに探すことにした。

「のうアイザック」
「ん? どしたギフン」

 ギフンが横から話しかけてきた。なんだなんだ。ソワソワしてるぞこのサムライドワーフ

「昼飯なんじゃがな、前々からチャレンジしてみたかった料理があるんじゃ。今回は任せてくれんか?」
「おお? 何々~? ギフンそこまで言うからには結構な代物なんだろうな~?」

 こいつの料理を冒険中に食うことができるのがギフンと組んでて一番嬉しいメリットだ。
 下層の下層で七時間もかけてローストビーフを作った時はこいつマジで殺してやろうかと思ったくらいだけど
 実際に出来上がったブツを食って全てを許した。それくらいこいつの料理は人の心を和らげて幸せな気分にしてくれる。
 でも流石に思い返すとあの極限状態で七時間かけて料理って俺もギフンも、たぶん他のみんなもその時は精神がおかしくなってたんだとは思う。

「うむ。東方……ではないがそこに近い国の手法を使った料理でな……まずバターライスを作る。刻んだ玉ねぎとキノコ、それとクルミも入れてな」
「もうそれだけで十分美味そうだな。胡椒をやや強めにかけて熱々を放り込みたいな」
「うむ。もちろんそれだけでも十分うまいわい。だが本番はこれからなんじゃ。次に丸鶏を用意する」
「丸鶏? バターライスに丸鶏? なんだ? ライスに鶏肉を混ぜるのか? いやそれなら丸鶏じゃなくてもいいもんな……」
「フッフッフ。 ここからが本番じゃよアイザック」

 ギフンは不敵に笑う。いったいどういうことなんだよギフンおいちゃん! 気になるよ!

「ええかアイザック。炒めたバターライスをな……その丸鶏の中に詰め込むんじゃよ!」
「な!? 丸鶏の中に!?」

 驚いた。そんな料理聞いたこともない。そもそもなぜ鶏の中に米を……!?

「そうじゃ。腹を少し開いた丸鶏の中に炒めたバターライスをギュウギュウに詰め込めるんじゃ!」
「し、しかしギフン。そんなことをして何の意味が? もう元々バターライスは出来上がってるんだろ!? わからないよ! 俺わからないよ!」
「落ち着くんじゃアイザック! バターライスを詰め込んだら出てこないようにタコ糸でギュウギュウに締める。そして丸鶏をじっくり時間をかけて焼く!」
「詰めた状態で丸焼きに……? …………!? まさか!?」
「そうじゃよ……鶏の肉汁、旨味がバターライスに染み込み更なるレベルアップを果たすんじゃ」
「そ、そういうことか! だから丸鶏に!」
「うむ。本当は”モチゴメ”なる粘り気の強い米に、東方の調味料を使うんじゃがどれも手に入らなくてのう。こっちで手に入る材料で作ることにしたんじゃわい」
「はえ~……すっごいうまそ……」
「焼き上がったら丸鶏をほぐしてバターライスと一緒に食う! これがワシの思いついたローストチキンバターライス添えじゃわい!」
「食おう。今すぐ食おう! みんな! そろそろ休憩にしよう!」
「ちょっとアイザック! まだ潜って一時間も経ってないでしょ! まだ私もデュランス君も呪文が使えるんだから必要なし!」
「痛い!」

 ベルティーナに杖で頭を叩かれる。ぐう……早い所休憩してえよお。


「そう急くな急くなアイザック。後でしっかり作ってやるわい」
「楽しみだなあ~。あ、そうだギフン。でもその料理、一つ物申したいんだがいいか?」
「ん? なんじゃい? 何か追加したい材料でもあるんかのう?」
「いや、料理自体に文句はないよ。だけど名前だよ名前。ローストチキンバターライス添えはいささか直球すぎやしないか?」
「ムム、まあ確かに面白みがない名前ではあるがワシはそこら辺の良し悪しがわからなくてのう」
「それなら俺が名付けてやるよ。そうだなあ」

 うーん。鳥の丸焼きにご飯を詰めて旨味を染み込ませる……染み込ませる……そうか!

「よし! 『不意打ち狙いのスライム。季節の憂鬱を添えて』にしよう!」
「え? 不意打ち……? 何? 不意……不意何?」
 
 ギフンが目をパチクリさせながら聞き返す。

「ほら。スライムって冒険者にブワ~って纏わりついて囲むだろ? まるでバターライスを包む丸鶏のように」
「それで……スライム?」
「それでスライム」
「うん……まあうん……」

 それを最後に俺とギフンの会話が途切れた。
 そして俺たちは廊下の突き当り、部屋に通じるドアにたどり着いた。
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