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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ
第27話 崇拝
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「フーーーッ! フーーーーッ!」
「ギィ! ガッ!」
ソニアは傷だらけで息も絶え絶えでいながらもうつ伏せとなった異形の右腕を抱え込み腋に入れて肘と肩を極めていた。
脇固めだ。完全に極まっていた。このままあらぬ角度に曲げ続ければ肩の骨が外れることは間違いない。
見ると異形の右足の脛《すね》から先が消失している。魔法の矢か。
ベルティーナが放った二発目の魔法の矢で右足を打ち抜き、その瞬間に脇固めに捉えた。そんなところか。
異形が万全の状態なら力で簡単に振りほどくことが出来ただろう。
だが左腕を破壊され右足も機能不全に陥り、右腕は極められている。残った左足だけで逆転は不可能だ。
ソニアが体勢を更に斜めに傾けて全体重を異形の肩に乗せる。
「せぇい!!」
「ギイアアアアアアアアアア!!」
ボグンという音がこちらにも聞こえてきた。肩の骨を外した音だ。そのすぐ後に異形の叫びがこだまする。
完全に勝負ありだ。
骨格が人と酷似しているからこそ関節技に捉えることが出来たのもソニアにとって幸運だったろう。
これがネズミと同じ骨格だったら勝負はわからなかったはずだ。
技で捉えたソニア。捉えられた異形。その真正面でベルティーナが詠唱を続けていた。
「あんたね! 若い女の子の肌を傷つけてんじゃないわよ!! スキンケアって大変なんだからね!」
ベルティーナの手にした杖。その先端から三発目の魔法の矢が撃ち出される。
狙いは頭だ。この距離で完全に取り押さえられている。逃げ場はない。
白い閃光に頭を貫かれた瞬間に異形は痙攣し……やがて動かなくなった。
「ふう……ベルティーナ姉さん助かりました! ありざっス!」
「ソニアちゃん大丈夫!? あいつに散々引っかかれて傷だらけじゃない!」
「大丈夫っス大丈夫っス! 致命傷は避けてるっスから!」
「心配なのは肌よ肌! 肌はね、二百五十歳超えてからは本当気をつけないといけないのよ!?」
ソニアの傷だらけの肌をベルティーナが慌てた様子で触れる。
……肌て! どうにも肌とか髪とか美容だとかベルティーナの価値観は理解できない。
それよりも絶対デュエル&ドラゴンズの方が最高なのに。変なダークエルフだよ全く。
「そ……そうなんスか……」
「今のうちにスキンケアしとかないと今から二百年後くらいにはもう大変なんだからね! デュランス君! 治癒術《キュア・ウーンズ》お願い!」
「は、はい!」
デュランスが二人に駆け寄り回復呪文をかける。
それにしても見事な勝利だ。ベルティーナが二発目の魔法の矢を放つまでは回避に専念
相手の足を撃ち抜いた瞬間反撃に転じて脇固めか。
筋力の少ないエルフの格闘家ということで心配していたがソニアの戦闘センスは天性のものだろう。あれは強くなるわ。
「ソニアは強くなるね。最初はエルフの格闘家なんてありえないと思ったけど間違いだったよ。彼女は才能あるよ」
俺が思っていたことをオスカーがそのままなぞって声にした。
たぶんギフンも同じようなことを思っているだろうよ。
「そだな。んでよオスカー。なんとか勝てたけど長居は禁物じゃねえか」
「そうだね。あんなのにまた襲われたらそれこそ逃げるしかないよ。だけどアイザック。この異形と部屋だけはキッチリ調べていこう」
「オスカーの言う通りじゃな。この部屋には何かあると思うわい。このネズミ共だけじゃない。何か手がかりが」
チリチリのヒゲをピンピン伸ばしながらギフンがオスカーに同意する。
「だなあ。どれ。ソニアの治療中に俺達で色々調べてみるとするか」
「もう立てるのかい?」
「流石にあっちこっち調べるくらいは出来るさ。ちょい手ぇ貸して。立つから」
「はいはい」
オスカーの手を借りて立ち上がって改めて部屋を見回す。
一番目を惹いたのは異形達が部屋の中で最初に伏せていた場所。突き当りの壁際だ。
垂れ下がった布で隠れているが小さなスペースが確認できる。そのスペースの前で異形達は伏せていた。
なぜ奴らはあそこで伏せていた? 何をしていた? その何かを俺達に邪魔されて怒り狂っていたのではないか?
異形と戦って伝わってきたのは殺意、敵意だけじゃない。一番強く感じたのは怒りだった。
自分たちが信じる尊い何かを貶された時のような、狂信者のそれと似ていた。
部屋の奥に何かある。それはオスカーもギフンも薄々気づいていたようだ。
「やっぱ部屋の奥かのう。ネズミ共はそこにある何かからワシらを遠ざけようともしておったんじゃないかのう」
「ギフンもそう感じたんだね。僕も彼らの動きには何かの意思を感じた。ただ凶暴なだけで取る動きじゃなかったよ」
「んじゃ……探しますか!? ギフン隊長!」
「うむ。全員あの垂れ下がった布の裏、ネズミマンが隠していたであろう代物を確認するんじゃ!」
お髭の立派なギフン隊長の指示で俺達は部屋の奥、乱雑に垂れ下がった汚い布切れで仕切られたスペースを覗き込む。
五平方メートル程度の小さな、部屋というのもおこがましい、だけれども隔離されたその空間にそれはあった。
「おいおいおいおい。これは……色々めんどくさいことになりそうだな」
「ああ。そうだねアイザック。ひとまずわかったのは……異形は伏せていたわけじゃなかったんだ」
「そうじゃのう。ありゃ伏せていたわけじゃなかったんじゃなあ」
オスカーとギフンの目の色が変わる。
「ああ……こいつらは……祈ってたんだ」
部屋の真ん中には石像が鎮座していた。大きな蜘蛛に乗った鼠の異形の石像が。
その異形は自らの身長以上の杖を持ち、冠を被り、傲慢さを俺達に見せびらかすように胸を張り、見下していた。
石像の作りは荒く、お粗末ではあるがそれでも崇拝するに足る出来栄えは残せていた。
その姿を目の当たりにした俺は無意識のうちに呟いていた。
「鼠の……王……」
「ギィ! ガッ!」
ソニアは傷だらけで息も絶え絶えでいながらもうつ伏せとなった異形の右腕を抱え込み腋に入れて肘と肩を極めていた。
脇固めだ。完全に極まっていた。このままあらぬ角度に曲げ続ければ肩の骨が外れることは間違いない。
見ると異形の右足の脛《すね》から先が消失している。魔法の矢か。
ベルティーナが放った二発目の魔法の矢で右足を打ち抜き、その瞬間に脇固めに捉えた。そんなところか。
異形が万全の状態なら力で簡単に振りほどくことが出来ただろう。
だが左腕を破壊され右足も機能不全に陥り、右腕は極められている。残った左足だけで逆転は不可能だ。
ソニアが体勢を更に斜めに傾けて全体重を異形の肩に乗せる。
「せぇい!!」
「ギイアアアアアアアアアア!!」
ボグンという音がこちらにも聞こえてきた。肩の骨を外した音だ。そのすぐ後に異形の叫びがこだまする。
完全に勝負ありだ。
骨格が人と酷似しているからこそ関節技に捉えることが出来たのもソニアにとって幸運だったろう。
これがネズミと同じ骨格だったら勝負はわからなかったはずだ。
技で捉えたソニア。捉えられた異形。その真正面でベルティーナが詠唱を続けていた。
「あんたね! 若い女の子の肌を傷つけてんじゃないわよ!! スキンケアって大変なんだからね!」
ベルティーナの手にした杖。その先端から三発目の魔法の矢が撃ち出される。
狙いは頭だ。この距離で完全に取り押さえられている。逃げ場はない。
白い閃光に頭を貫かれた瞬間に異形は痙攣し……やがて動かなくなった。
「ふう……ベルティーナ姉さん助かりました! ありざっス!」
「ソニアちゃん大丈夫!? あいつに散々引っかかれて傷だらけじゃない!」
「大丈夫っス大丈夫っス! 致命傷は避けてるっスから!」
「心配なのは肌よ肌! 肌はね、二百五十歳超えてからは本当気をつけないといけないのよ!?」
ソニアの傷だらけの肌をベルティーナが慌てた様子で触れる。
……肌て! どうにも肌とか髪とか美容だとかベルティーナの価値観は理解できない。
それよりも絶対デュエル&ドラゴンズの方が最高なのに。変なダークエルフだよ全く。
「そ……そうなんスか……」
「今のうちにスキンケアしとかないと今から二百年後くらいにはもう大変なんだからね! デュランス君! 治癒術《キュア・ウーンズ》お願い!」
「は、はい!」
デュランスが二人に駆け寄り回復呪文をかける。
それにしても見事な勝利だ。ベルティーナが二発目の魔法の矢を放つまでは回避に専念
相手の足を撃ち抜いた瞬間反撃に転じて脇固めか。
筋力の少ないエルフの格闘家ということで心配していたがソニアの戦闘センスは天性のものだろう。あれは強くなるわ。
「ソニアは強くなるね。最初はエルフの格闘家なんてありえないと思ったけど間違いだったよ。彼女は才能あるよ」
俺が思っていたことをオスカーがそのままなぞって声にした。
たぶんギフンも同じようなことを思っているだろうよ。
「そだな。んでよオスカー。なんとか勝てたけど長居は禁物じゃねえか」
「そうだね。あんなのにまた襲われたらそれこそ逃げるしかないよ。だけどアイザック。この異形と部屋だけはキッチリ調べていこう」
「オスカーの言う通りじゃな。この部屋には何かあると思うわい。このネズミ共だけじゃない。何か手がかりが」
チリチリのヒゲをピンピン伸ばしながらギフンがオスカーに同意する。
「だなあ。どれ。ソニアの治療中に俺達で色々調べてみるとするか」
「もう立てるのかい?」
「流石にあっちこっち調べるくらいは出来るさ。ちょい手ぇ貸して。立つから」
「はいはい」
オスカーの手を借りて立ち上がって改めて部屋を見回す。
一番目を惹いたのは異形達が部屋の中で最初に伏せていた場所。突き当りの壁際だ。
垂れ下がった布で隠れているが小さなスペースが確認できる。そのスペースの前で異形達は伏せていた。
なぜ奴らはあそこで伏せていた? 何をしていた? その何かを俺達に邪魔されて怒り狂っていたのではないか?
異形と戦って伝わってきたのは殺意、敵意だけじゃない。一番強く感じたのは怒りだった。
自分たちが信じる尊い何かを貶された時のような、狂信者のそれと似ていた。
部屋の奥に何かある。それはオスカーもギフンも薄々気づいていたようだ。
「やっぱ部屋の奥かのう。ネズミ共はそこにある何かからワシらを遠ざけようともしておったんじゃないかのう」
「ギフンもそう感じたんだね。僕も彼らの動きには何かの意思を感じた。ただ凶暴なだけで取る動きじゃなかったよ」
「んじゃ……探しますか!? ギフン隊長!」
「うむ。全員あの垂れ下がった布の裏、ネズミマンが隠していたであろう代物を確認するんじゃ!」
お髭の立派なギフン隊長の指示で俺達は部屋の奥、乱雑に垂れ下がった汚い布切れで仕切られたスペースを覗き込む。
五平方メートル程度の小さな、部屋というのもおこがましい、だけれども隔離されたその空間にそれはあった。
「おいおいおいおい。これは……色々めんどくさいことになりそうだな」
「ああ。そうだねアイザック。ひとまずわかったのは……異形は伏せていたわけじゃなかったんだ」
「そうじゃのう。ありゃ伏せていたわけじゃなかったんじゃなあ」
オスカーとギフンの目の色が変わる。
「ああ……こいつらは……祈ってたんだ」
部屋の真ん中には石像が鎮座していた。大きな蜘蛛に乗った鼠の異形の石像が。
その異形は自らの身長以上の杖を持ち、冠を被り、傲慢さを俺達に見せびらかすように胸を張り、見下していた。
石像の作りは荒く、お粗末ではあるがそれでも崇拝するに足る出来栄えは残せていた。
その姿を目の当たりにした俺は無意識のうちに呟いていた。
「鼠の……王……」
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