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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ
第53話 灰の忍者アッシュ
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「ファイターの君……錠前を開けるから今すぐここから逃げなよ……後は僕がやるから」
「僕がやるって……そりゃつまりお前があの王様をやるって算段か?」
「この異変を追っていたのは……君だけじゃないってこと……」
アッシュは俺達とは別枠で鼠の王を探っていたみたいだった。
こいつが王の本拠地に潜り込んだ時を同じくして俺が拉致られたってわけか。
「君も見たろう……あの儀式を」
「見なきゃよかったよ。夢に出てきそうだ」
「……街でネズミが凶暴化しているのは……?」
「ああ知ってる。それで酒場のマスターが困って調べてくれと泣きつかれて金とチーズ食い放題目当てに調査を始めて……そんで今はここにいる」
俺は檻を力なく蹴り飛ばす。強く蹴っても痛いだけだし……
「ネズミの凶暴化の原因も……恐らくはあの元締め……お前が王様と呼んでいた奴だ……そいつが原因だ……」
「今更疑う余地もなさそうだな。そしてあの異形共……」
「ああ……今は地下二階と一階を活動区域としているが……」
「元は人間、だよな。いや実際に見たけど。見ちゃったけどさ」
ああ。目をつぶるとさっきの光景が嫌でも浮かんできやがる!
俺もあんな風になったらもう二度とデュエドラが出来なくなっちまう。
そういえばネズミデッキとか作れそうだな。『飢えたネズミ』メインで今度組んでみようかな。
「……これは僕の想像だが……あの異形……『馴染』めば地上にまで出てくるだろう」
「地上!? 街に!?」
「元は人間だ……瘴気無しで活動できる可能性もある……実際地下二階から一階へ”上がって”きている……」
鼠の王が異形を引き連れて街にやってくる。
そんな光景が脳裏に浮かんでしまう。
それは最悪だ! 俺達冒険者稼業ってのは魔物が迷宮に収まってくれているから成り立っているんだ!
金どころじゃない! 多数の犠牲者も出るだろう!
街に出てこられるようになったら鼠の王は秘密裏に市民を攫い、兵隊を増やすはずだ。
これ……下手したら国家存亡の危機なのではないか?
ただのネズミ調査がまさかこんなことになるとは……
「アッシュ。お前は何のためにこの事件を追っていたんだ」
「……それは、言えない」
「依頼人がいるのか? お前の意思か?」
「……今はそんなことはどうでもいい……そうだろ……?」
駄目だ。どさくさに紛れてこいつの正体を少しでも探ろうとしたがまるっきり手応えがない。
存在だけでなく会話すら儚い忍者だ。
「わかったわかった。もう聞かないよ。それでお前、あいつらと一人で戦うつもりか?」
「……そのつもり……正直に言うよ……君は足手まといだ……レベル5の……出る幕じゃない……」
小声だが意思の強さを感じさせる物言いだった。
確かにレベル5には荷が重い案件かもしれない。
俺がせいぜい渡り合えるのは王の側近。ノーマル異形共だけだろう。
残念ながら王は格が違う。異形と二回り、いや三回りは強いだろう。
乗っている大蜘蛛も相当厄介だ。あれはただデカいだけの蜘蛛じゃない。
王と相対した所でまた杖でメシャられちまうだろう。
「お気遣いありがとうよアッシュ……」
「気にすることはない……そこのガラクタの陰からなら奴らの視線に晒されることなく……出口へ……」
「気に食わねえな」
「……気に食わない……? 弱者と扱われたことがか……?」
「そこは気にしちゃいないさ。実際俺は弱者だ。気に食わねえのはお前の見込みの甘さだよ」
「……言っている意味がわからないな……」
冒険者として最も必要な素質。ファイターもサムライもウィザード、どの職業にも求められるのは『見極める力』だ。
相手が自分より強いか、強いならどれくらい強いか。そこの見極めこそが冒険者に取って最も必要とされる資質だ。
俺はレベルドレインを食らっても幸いそこの知識は失われることがなかった。
だからこそわかる。アッシュと鼠の王の実力は拮抗している。
恐らくどちらもレベル15前後。
だが自分の有利な状況、環境で戦えるケースなどこの迷宮内ではあってないようなものだ。
「都合よく暗殺が成功、例えしくじったとしても一対一で戦えば……なんて思ってるのか?」
「……」
「お前のレベルはいくつだアッシュ。15か? 16程度だろ」
「15だ……よくわかるな……」
「慣れだよ慣れ。王の周りには異形が何体いる? パッと見で八体は確認できる。それにあの大蜘蛛だって相当厄介だ」
「……」
「レベル15の忍者一人が賄える戦局じゃねえのがわかっていながら俺を逃がそうってか。ましてや俺だって鼠の王を狙っているんだぜ?」
「さっきも言ったが……レベル5のファイターが出る幕じゃない……」
「戦力は俺だけじゃない。攫われている時に仲間が辿れるように目印を置いてきた。金貨一万枚分はかかったがな。直にやってくる」
「……金貨一万枚……!? だがお前らの仲間もレベル5だろう……」
「それでも露払いくらいは出来るさ」
「お前……いや、お前らは……あの異形と戦えるのか……?」
「俺含めた前衛三人は後衛のサポート無しにタイマンで倒せるぜ。最強のサムライと将来性抜群の格闘家だ」
「レベル5で……それも一対一で勝ったのか……!? レベル8や9のパーティでも苦戦する相手だぞ……」
「そうだ。俺達が……お前と王との戦いに集中できるようにしてやる。どうだ?」
戦況……状況……観察すればする程このままアッシュに全てを任せて何もかもうまくいくとは到底思えなかった。
恐らく我が身惜しさにこのままアッシュを置いていけば恐らく……こいつは確実に死ぬ。
死ねればまだ幸運。異形にされるかもしれないだろう。
それにこいつの、アッシュの目を見た瞬間に俺は一つの直感を覚えた。
『この忍者を死なせてはいけない』と。理由は説明できない。だが、こいつはここで死んでは絶対いけないんだ。
アッシュは目を瞑り深く考え込んでいた。
「……」
「どうだ? 共闘といこうじゃねえか。お前の邪魔はしない。約束する。それにだ」
「……なんだ?」
「さっき言ったがもう少しで俺の仲間がここに雪崩込んでくるだろうよ。そうなったら隠れて逃げ出すもへったくれもないさ」
「……なるほど……だったらこの状況を利用しろと……そう言いたいんだな」
「そうだ。お互いがお互いを利用すればいい。お前は王だけ狙え」
「……」
再び考え込んだかと思うとアッシュは身を翻し近くのガラクタの塊へ手を伸ばした。
何をしているのかと見ているとアッシュはゴミの中から剣と盾を引き抜いていた。
「使え……丸腰じゃ役に立てないだろう……」
「サンキュウ」
剣と盾を檻の隙間から渡された俺は握りを確かめる。
量産品ではあるもののどちらもコンディションは悪くない。握れる。しっかり振れるはずだ。
「ガラクタの山から発掘したにしては結構な掘り出し物だな」
「檻を開けるぞ……」
アッシュが屈み込み錠前に細い針金のようなツールを差し込む。
錠前はガチャリと重たい音を立てながらあっさりと解錠された。
「盗賊技能まで使えるのか」
「本職程ではないがな……それで戦いのゴングは……」
「ああ。俺の仲間の突入に合わせよう」
数えてみると異形の数は先程生まれた奴を含めて全部で十体だった。
そいつらは部屋に雪崩込むオスカー達に目が奪われるはずだ。
俺は取り巻きの何体か斬り伏せながら仲間と合流する。
そして俺達と異形の戦いのどさくさに紛れてアッシュは王への不意打ちを試みる。
俺の提案にアッシュも異議はないらしく頭を縦に振った。
これからの行動をお互いに確認できたその瞬間、アッシュの目つきが更に鋭くなった。
「……来る」
「オスカー達か」
「数は五人……お前の仲間だろう。走ってきている」
「ああ。オスカー達だ」
「後十秒……雑魚は任せるぞ」
「ああ。そっちは王を頼む」
「五、四、三、二、一……!」
アッシュのカウントダウンと同時に北の出入り口からオスカー達が姿を現した。
急いで助けに来てくれたのだろうか。全員が肩で息をしていた。
おおう。こんだけ必死になってくれるとなんかちょっと嬉しいかも……
「アイザックーーー! 生きてるなら返事しなさーい! あんたの大事なカードを辿ってきたわよ! あとカードは完全に湿気てもう使えなさそうだったわよー!」
ベルティーナの俺への死刑宣告に鼠の王が、異形の群れが一斉に反応する。
ああああ! 死にてえ!! 覚悟はしてたがやっぱり紙は湿気に弱い!! だが嘆くのは後だ!
「あんた私と一緒にショップ行くんでしょ!? デュエルマジシャン!? とかいうの教えてくれるって言ったじゃない!? 死んでたら許さないわよ!!」
また間違えてる! デュエル&ドラゴンズだっつうの!
言われなくても俺だってお前と遊ぶの楽しみだっつうの!
口上はイマイチだがネズミ共は全員俺達と明後日の方向にいるベルティーナ達に視線を奪われている。
仕掛けるには絶妙なタイミングだ!
鳴ったぞ! ゴングが!
「僕がやるって……そりゃつまりお前があの王様をやるって算段か?」
「この異変を追っていたのは……君だけじゃないってこと……」
アッシュは俺達とは別枠で鼠の王を探っていたみたいだった。
こいつが王の本拠地に潜り込んだ時を同じくして俺が拉致られたってわけか。
「君も見たろう……あの儀式を」
「見なきゃよかったよ。夢に出てきそうだ」
「……街でネズミが凶暴化しているのは……?」
「ああ知ってる。それで酒場のマスターが困って調べてくれと泣きつかれて金とチーズ食い放題目当てに調査を始めて……そんで今はここにいる」
俺は檻を力なく蹴り飛ばす。強く蹴っても痛いだけだし……
「ネズミの凶暴化の原因も……恐らくはあの元締め……お前が王様と呼んでいた奴だ……そいつが原因だ……」
「今更疑う余地もなさそうだな。そしてあの異形共……」
「ああ……今は地下二階と一階を活動区域としているが……」
「元は人間、だよな。いや実際に見たけど。見ちゃったけどさ」
ああ。目をつぶるとさっきの光景が嫌でも浮かんできやがる!
俺もあんな風になったらもう二度とデュエドラが出来なくなっちまう。
そういえばネズミデッキとか作れそうだな。『飢えたネズミ』メインで今度組んでみようかな。
「……これは僕の想像だが……あの異形……『馴染』めば地上にまで出てくるだろう」
「地上!? 街に!?」
「元は人間だ……瘴気無しで活動できる可能性もある……実際地下二階から一階へ”上がって”きている……」
鼠の王が異形を引き連れて街にやってくる。
そんな光景が脳裏に浮かんでしまう。
それは最悪だ! 俺達冒険者稼業ってのは魔物が迷宮に収まってくれているから成り立っているんだ!
金どころじゃない! 多数の犠牲者も出るだろう!
街に出てこられるようになったら鼠の王は秘密裏に市民を攫い、兵隊を増やすはずだ。
これ……下手したら国家存亡の危機なのではないか?
ただのネズミ調査がまさかこんなことになるとは……
「アッシュ。お前は何のためにこの事件を追っていたんだ」
「……それは、言えない」
「依頼人がいるのか? お前の意思か?」
「……今はそんなことはどうでもいい……そうだろ……?」
駄目だ。どさくさに紛れてこいつの正体を少しでも探ろうとしたがまるっきり手応えがない。
存在だけでなく会話すら儚い忍者だ。
「わかったわかった。もう聞かないよ。それでお前、あいつらと一人で戦うつもりか?」
「……そのつもり……正直に言うよ……君は足手まといだ……レベル5の……出る幕じゃない……」
小声だが意思の強さを感じさせる物言いだった。
確かにレベル5には荷が重い案件かもしれない。
俺がせいぜい渡り合えるのは王の側近。ノーマル異形共だけだろう。
残念ながら王は格が違う。異形と二回り、いや三回りは強いだろう。
乗っている大蜘蛛も相当厄介だ。あれはただデカいだけの蜘蛛じゃない。
王と相対した所でまた杖でメシャられちまうだろう。
「お気遣いありがとうよアッシュ……」
「気にすることはない……そこのガラクタの陰からなら奴らの視線に晒されることなく……出口へ……」
「気に食わねえな」
「……気に食わない……? 弱者と扱われたことがか……?」
「そこは気にしちゃいないさ。実際俺は弱者だ。気に食わねえのはお前の見込みの甘さだよ」
「……言っている意味がわからないな……」
冒険者として最も必要な素質。ファイターもサムライもウィザード、どの職業にも求められるのは『見極める力』だ。
相手が自分より強いか、強いならどれくらい強いか。そこの見極めこそが冒険者に取って最も必要とされる資質だ。
俺はレベルドレインを食らっても幸いそこの知識は失われることがなかった。
だからこそわかる。アッシュと鼠の王の実力は拮抗している。
恐らくどちらもレベル15前後。
だが自分の有利な状況、環境で戦えるケースなどこの迷宮内ではあってないようなものだ。
「都合よく暗殺が成功、例えしくじったとしても一対一で戦えば……なんて思ってるのか?」
「……」
「お前のレベルはいくつだアッシュ。15か? 16程度だろ」
「15だ……よくわかるな……」
「慣れだよ慣れ。王の周りには異形が何体いる? パッと見で八体は確認できる。それにあの大蜘蛛だって相当厄介だ」
「……」
「レベル15の忍者一人が賄える戦局じゃねえのがわかっていながら俺を逃がそうってか。ましてや俺だって鼠の王を狙っているんだぜ?」
「さっきも言ったが……レベル5のファイターが出る幕じゃない……」
「戦力は俺だけじゃない。攫われている時に仲間が辿れるように目印を置いてきた。金貨一万枚分はかかったがな。直にやってくる」
「……金貨一万枚……!? だがお前らの仲間もレベル5だろう……」
「それでも露払いくらいは出来るさ」
「お前……いや、お前らは……あの異形と戦えるのか……?」
「俺含めた前衛三人は後衛のサポート無しにタイマンで倒せるぜ。最強のサムライと将来性抜群の格闘家だ」
「レベル5で……それも一対一で勝ったのか……!? レベル8や9のパーティでも苦戦する相手だぞ……」
「そうだ。俺達が……お前と王との戦いに集中できるようにしてやる。どうだ?」
戦況……状況……観察すればする程このままアッシュに全てを任せて何もかもうまくいくとは到底思えなかった。
恐らく我が身惜しさにこのままアッシュを置いていけば恐らく……こいつは確実に死ぬ。
死ねればまだ幸運。異形にされるかもしれないだろう。
それにこいつの、アッシュの目を見た瞬間に俺は一つの直感を覚えた。
『この忍者を死なせてはいけない』と。理由は説明できない。だが、こいつはここで死んでは絶対いけないんだ。
アッシュは目を瞑り深く考え込んでいた。
「……」
「どうだ? 共闘といこうじゃねえか。お前の邪魔はしない。約束する。それにだ」
「……なんだ?」
「さっき言ったがもう少しで俺の仲間がここに雪崩込んでくるだろうよ。そうなったら隠れて逃げ出すもへったくれもないさ」
「……なるほど……だったらこの状況を利用しろと……そう言いたいんだな」
「そうだ。お互いがお互いを利用すればいい。お前は王だけ狙え」
「……」
再び考え込んだかと思うとアッシュは身を翻し近くのガラクタの塊へ手を伸ばした。
何をしているのかと見ているとアッシュはゴミの中から剣と盾を引き抜いていた。
「使え……丸腰じゃ役に立てないだろう……」
「サンキュウ」
剣と盾を檻の隙間から渡された俺は握りを確かめる。
量産品ではあるもののどちらもコンディションは悪くない。握れる。しっかり振れるはずだ。
「ガラクタの山から発掘したにしては結構な掘り出し物だな」
「檻を開けるぞ……」
アッシュが屈み込み錠前に細い針金のようなツールを差し込む。
錠前はガチャリと重たい音を立てながらあっさりと解錠された。
「盗賊技能まで使えるのか」
「本職程ではないがな……それで戦いのゴングは……」
「ああ。俺の仲間の突入に合わせよう」
数えてみると異形の数は先程生まれた奴を含めて全部で十体だった。
そいつらは部屋に雪崩込むオスカー達に目が奪われるはずだ。
俺は取り巻きの何体か斬り伏せながら仲間と合流する。
そして俺達と異形の戦いのどさくさに紛れてアッシュは王への不意打ちを試みる。
俺の提案にアッシュも異議はないらしく頭を縦に振った。
これからの行動をお互いに確認できたその瞬間、アッシュの目つきが更に鋭くなった。
「……来る」
「オスカー達か」
「数は五人……お前の仲間だろう。走ってきている」
「ああ。オスカー達だ」
「後十秒……雑魚は任せるぞ」
「ああ。そっちは王を頼む」
「五、四、三、二、一……!」
アッシュのカウントダウンと同時に北の出入り口からオスカー達が姿を現した。
急いで助けに来てくれたのだろうか。全員が肩で息をしていた。
おおう。こんだけ必死になってくれるとなんかちょっと嬉しいかも……
「アイザックーーー! 生きてるなら返事しなさーい! あんたの大事なカードを辿ってきたわよ! あとカードは完全に湿気てもう使えなさそうだったわよー!」
ベルティーナの俺への死刑宣告に鼠の王が、異形の群れが一斉に反応する。
ああああ! 死にてえ!! 覚悟はしてたがやっぱり紙は湿気に弱い!! だが嘆くのは後だ!
「あんた私と一緒にショップ行くんでしょ!? デュエルマジシャン!? とかいうの教えてくれるって言ったじゃない!? 死んでたら許さないわよ!!」
また間違えてる! デュエル&ドラゴンズだっつうの!
言われなくても俺だってお前と遊ぶの楽しみだっつうの!
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