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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ

第54話 開戦「鼠の王」

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「今だ……!」
「おう!」

 アッシュは足音一つ立てず広場の中央、鼠の王へ一直線に走り出した。
 生まれながらに隠密としての才に溢れた男なのだろうか。アッシュは疾風の如く焚き火へ駆けた。
 俺は群れからやや外れた位置で孤立した異形に目的を定めて走り出した。まずはあいつをやる!
 異形はベルティーナの大声で呆気に取られている。やれる! 狙うは首! 
 全力疾走の勢いを異形の首筋に乗せる!想像以上にすんなりと首に刃が入る。
 そのまま剣を振り抜く!
 
「っっせえい!!」
「ゲアッ!!」

 異形の首が宙に舞う。よし! 首を切断できた!
 相手が油断していたし斬撃に勢いを乗せていたという有利な条件ではあったが一撃で仕留めることが出来たのは大きい!
 第一目標はこのまま切れるだけ切りながらパーティと合流だ。
 異形は俺とベルティーナ達の挟み撃ちの形になっていた。ボーナスタイムじゃい!
 次に狙いを定めたのは一匹目から数メートル離れた場所で突っ立っている異形。
 こいつは首を丸めた体勢を取っていた為無理に狙えなかった。

「なら、足ぃ!」
「ギャッ!」

 右すねを渾身の力で払う。突然右足が消失し、異形は反撃する間もなく倒れ落ちる
 殺すことは出来なかったが戦闘力を大きく奪えたはずだ!
 突然の乱入者、そして俺の不意打ち。異形の混乱はピークに達しつつあった。
 このまま合流して勢いに乗れば圧倒できるのでは?
 そんな希望を持った瞬間だった。その時である。

「ケエエエエエエエエエエエエ!!!」

 騒然たる叫びが広間に響き渡る。鼠の王の一括だった。
 嫌なタイミングで激を入れられてしまったかもしれない。
 浮足立っていた異形の表情が変わり、凶暴性に満ち溢れていく。無理矢理立て直しやがったか。
 ともかく三匹目だ! やれるうちにやる!

「っぜあ!!」
「ギッ!」

 浅い! 肩口から胸へ狙った俺の袈裟斬りを異形はギリギリで身をよじり深手を避ける。
 血は吹き出しているが内蔵には届いていない。血に塗れた異形が怒り狂いながらこちらに襲いかかってくる。
 捌かなければ。そう思い盾を構えた瞬間、意図せず体勢が崩れる。

「やっべ……!」

 足元のガラクタに躓いてしまっていたようだった。
 全力疾走しながらの攻撃。想像以上にスタミナも消費してしまっていたのも原因だろう。
 重心がズレた状態で盾を構えるが、これでは受けに成ってねえ!
 異形は俺の盾を片手で何の気無しに払い除け、がら空きの喉に向かって右腕を爪ごと突き出す。
 やばい! 刺さる! この体勢では回避もままならない!
 喉に爪が触れるか触れないか。その瞬間だった。

「せええええええええええいッスううううう!!」
「チェエストォ!」
「ギイヤッ!?」

 突然の出来事だった。異形の右腕は空に跳ね、頭に飛び蹴りが入る。
 カウンターで入った蹴りをモロに受け、異形は手首から血を吹き出しながら吹き飛ばされていった。
 すぐに目の前に立つ二体の影がこちらに振り返る。
 そうさ。俺が無理できたのも、こいつらがいたからだ。
 何かあってもこいつらが助けてくれると信じていたからこそ突っ走れたんだ。
 そう。俺の目の前には最強の侍と将来性抜群の格闘家が立っていた。どっちもレベル5だけど。

「遅かったじゃねえか……ギフン! ソニア!」
「これでもめちゃくちゃ急いだわい!」
「大丈夫っスか! 兄さん!」

 異形の腕を切り飛ばし、飛び蹴りをかましてくれたのはギフンとソニアだった。
 二人共汗だくだ。ギリギリまで体を酷使してくれたのだろう。
 二人の心意気に俺も応えなくては! すぐに体勢を取り直して陣形を取る。

「アイザック! 無事だったのね! カードは無事じゃないけど!」
「もうカードのことはやめて! 今だけは忘れさせて!」

 オスカー、ベルティーナ、デュランスが遅れて駆けつける。
 すぐに陣形を取り直す。オレ、ギフン、ソニアが前のオスカー、ベルティーナ、デュランスが後ろだ。
 やっぱこのフォーメーションだな! 落ち着く!

「ギイイイイイイイイイイイ!!」

 腕を斬られた異形が起き上がりこちらに牙を剥く。まだまだやる気満々って感じだな。
 取り巻きの数は残り八体。既に全員臨戦態勢を取りながらこちらに殺意を向けていた。
 俺達と異形の群れは十五メートル程の距離でにらみ合う形を取っている。
 不思議と恐怖はなかった。
 前にいる異形の恐ろしさより、俺の横と後ろにいる仲間の頼もしさが勝っていたからだ。

「アイザック。全部で八匹かい?」
「取り巻きは九匹。一匹は片足を切断してるが這ってくるかもしれない。気をつけろ」
「オッケー。それであいつが……鼠の王かい? 蜘蛛? 本当に石像の通りに蜘蛛に乗っているね」
「ああ。俺を拉致ったのはあの蜘蛛だ。糸に気をつけてくれ」
「他に何か注意することは?」
「アッシュという忍者が身を潜めて王の暗殺を狙っている」

 いくら見回してもアッシュの姿は確認できなかった。
 恐らくアッシュは一撃で決めるチャンスを探しているのだろう。
 なら俺達の取る行動は一つだ。奴の暗殺のチャンスを少しでも高める為に大暴れするのみだ。

「アッシュ? 忍者? とにかく第三者の協力者がいると」

 虹色に光る液体の入った瓶を回すオスカー。なんとも危うげな液体だなおい!

「ギイイイイイ!」

 異形達が叫び声を上げながらこちらに駆けてくる! 陣形もへったくれもない。
 俺達一人一人の実力が大したことないと見ての突撃だろう。舐めやがって。

「こいつら俺達のこと舐めてるみたいだな。目にもの見せてやんぞ!」
「おう!  やったるわい!」
「足を引っ張らないようがんばるっス!」
「流石にもうこいつらに興味はそそられないね」
「はあ~……本当ならこんな奴らとじゃなくて騎士や貴族達とのお見合いパーティだったはずなのに。なんの因果でこんなネズミ共とお見合いしなきゃいけないのよ……」
祈祷ブレスをかけます! 順次強化掛けていきますので!」
「頼むぜデュランス!」

 デュランスの祈祷ブレスを受けると同時にギフンとソニアと共に駆け出す。
 さあ! 終わらせるぞ! この国を!
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