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第四話 香西雪愛
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再び三ヶ月前に戻る――。
漆原麟太郎の目がその親指に釘付けになっている。なんか笑える。さすがのナンパ師もこういう展開はなかったろう。
「いや……あ、杏樹さん、それは恥ずかしいから」
明らかに慌ててんな、麟太郎。面白いので親指をくねくねさせてやろう。
「ちょ、待てって、何考えてるんだ? やめなさいって」
と言って、麟太郎は唐突に両手で私のその右手拳を隠すようにして抑え込んだ。そしてあたりをきょろきょろ見渡す。相手が慌てふためくのは面白いが、この程度のことでそこまで慌てるとは妙な奴だ。私は麟太郎の両手から右手を引っ込めた。
「へー、意外とシャイなの? 下ねた駄目とか?」
「ち、違うよ。……でも、そういうのじゃないからさ」
そう言いながら麟太郎は、ショルダーポーチからスマホを取り出した。
「そういうのじゃないって? あなた、ナンパ師さんでしょ?」
「いやそういうことじゃなくてさ、俺さ、結構真面目なんだぜ?」
「真面目? ナンパ師さんが真面目にナンパ?」
「あんまりナンパ師ナンパ師って言わないでくれるかな? 俺はただ……これ、スワイプして写真見て」
と、麟太郎はスマホを私に渡した。そこには、麟太郎と知らない女性が顔を寄せ合ってセルフィーで撮ってる写真が何枚もあった。全員違う女性のようだ。
「何よ? あたしに自慢? 俺はこれだけの女性をゲットしてきたって?」
「違う違う、そうじゃなくてさ、それが俺の目的」
意味がわからない。こんなのただの自慢っつーかゲットした女性コレクション以外の何の意味があるっつーんだ? 私は呆れてそのスマホをつっかえそうとしたら――。
「もっとよく見て、いっぱい入っているからさ」
「そんなの見りゃ分かります。何が言いたいの?」
「よく見て、なんか気付かないか?」
気づくって……、延々と何枚も麟太郎とそれぞれ違う女性が一緒にセルフィーで撮ってるだけの写真……なだけじゃん。つか、一体何人いるんだこれ?
「わかんないよ? これがどうかしたの?」
私はそのスマホをテーブルの上で滑らせて麟太郎に返した。
「今スマホの中にあるだけで、半年分。ぴったり三百人」
えっ? ――さ、三百人もか。たった半年で。てことはおい、ざっと一日で二人もか。何者だこいつ? 毎日毎日二人もやってるってわけか。呆れた……。そんなに短期間に三百人もの女性がこいつの餌食に。
「へー、大したものでございますね、漆原さん。で、私が三百一人目ってわけなの?」
「そう、そう、今見た写真の女の子全員がそうであったように、僕はあなたを笑顔にしたい。みんな笑ってたでしょ?」
今飲みかけていたグラスの水を吹きはしなかったが、口から溢れて、慌てておしぼりで口元と溢れたズボンの上を拭いた。
ナンパ師漆原麟太郎の脳内がさっぱりわからない。ナンパ師なんてのは結局、ペニスの衝動で生きてるような人間だ。そこら辺で適当な女性を見繕って、自分のセックスの生贄にする。それしか考えていないような男共。私が最も唾棄すべきミソジニストの典型みたいな人達。そんな最低の奴らから、せめて犯罪になるような傷付けられる女性だけでも救うこと、それが私の望んだ道――。
だから今日は、この男と仕事の合間の暇潰しをして、からかってやろうと思った。そして、その脳内をちょっとだけでも、今後のために理解しておこうと思っただけなのに「笑顔にしたい」だと? 私は私の意思で笑う。お前のような下衆な男共の意思で笑わせられてたまるか。
「どうかした? 小野寺杏樹さん。気分でも悪い?」
「べ、別になんでもないわよ。あ、ランチ運ばれてきたみたいね?」
サフランライスにエビフライが2つ、豚肉と玉ねぎを炒めてチリソースで味付けしたものに、ポテトサラダにプチトマトが3つ。それにカップに入ったフカヒレスープ。
「杏樹さん、年齢――」
「三十」
「わっ、即答」
「何? 即答しちゃ駄目なの?」
「いや、普通はさ、女の人ってなかなか答えなかったり、女の人に年齢聞くもんじゃないって言うじゃん」
「じゃぁ、あたしは普通じゃないのね」
多くの女性が若くありたいと思うのか、年齢をサバ読んだりごまかしたりする気持ちはわかるが、私は即答することにしている。童顔で他人に舐められるのが嫌だというのもあるけど、年齢程度のことで変に考えたりするのは時間の無駄だと思っているから。――ていうか、このトマト美味しい。食べた瞬間に甘さが広がる。
「そういう意味じゃなくてさ、意外だなって」
「童顔だから? 年齢気にしてるとでも?」
「うん、特にさ、杏樹さんみたいな可愛い人は、歳取ると色々気になるんじゃないかなって」
……こういう、初対面の相手に「可愛い」とかすらっとよく言えるもんだよ、ったく。こんなのにいちいち「ドキッ」とさせられる自分が情けない。ていうか、このサフランライスも香りがすっごく良くて、スープも濃厚で美味しい。こりゃ人気になるわけだ。店内よく見たら満席で外に行列まで出来てんじゃん。ランチで千円超えると高いっていうイメージあるけど、これは大満足かも。
「まぁね。たしかに肌の張りとかね、お手入れは大変だね。漆原さんは?」
「え? お肌? 一応手入れは……」
「そうじゃなくて、年齢」
「あ、それか。俺は28っす。どうっすかここのランチ。なかなかイケるでしょ?」
うん。私は声に出さずに頷き、エビフライをオーロラソースにつけて口に運ぶ。
「そのエビも、冷凍物じゃなくて、毎日新鮮なのを届けてもらってるらしいよ」
たしかにこのプリプリ感は半端ではない。毎日でも食べに来たいくらいだな。最近はどこのお店もランチ頑張ってるって聞くけど、ここも大したもんだね。――そして、ランチをきれいに平らげて、アイスコーヒーが運ばれてきた。ナンパ師が言ったとおり、美味しくって、濃いのにスッキリと飲みやすいという絶妙のバランス。これはそこらのコンビニでは真似できんぞ。
「ところでさ、杏樹さん、流石に一般事務員はないんじゃないの?」
「どうして?」
「もっと大きいものを背負ってる雰囲気あるよ」
大きいものねぇ……。確かにそうだけど、あんまりそういう具合に知らない人に見抜かれるようなことを言われるのは好きじゃない。
「漆原さんさぁ、そうやって、つまりナンパ師としては女の子を見定めたりしていくのが常道なわけ?」
「見定める? ……そうだなぁ、自然とそうなっちゃうだけかもね。女の子好きだもん。興味あるからさ。杏樹さんなんかひと目見た瞬間から「あっ、この人良い」って思ったもんね」
こいつは。どうしてそういうことをスラスラ、ヌケヌケと何の躊躇いもなく口に出来るんだ?「良い人」だってさ。三十年生きてきて見ず知らずの人間にそんな事言われたの初めてだよ。ったく、いちいちドキッとさせんな。どーせ口からでまかせの癖にさ。
「良い人なんかないよ。底辺で生きてるただの人。でもま、漆原さんは鋭いね。確かにあたしは一般事務員じゃない」
「でしょ? やっぱ俺には見る目がある。で、実際は何やってる人なの?」
「そうだね。今からそれを教えてやろうかと」
と言って、私は席から立ち上がり、漆原麟太郎に再び、右手の拳を突き出して、人差し指と中指の間から親指の頭を覗かせた。
「えっ? って杏樹さん、それマジっすか? 冗談かと……」
「何言ってんのさ、腹ごしらえも出来たし、さっさと行くとこ行ってやることやりましょうよ」
と、私は漆原に向かってウインク。さすがに少し驚いた様子だったのが笑えた。
「つーか、杏樹さん、本気なのか?」
そこは午前中に、三島と二人で張り込みをやったラブホが何件も隣接する一角。
「ナンパ師のくせに嫌なの?」
「いや、嫌じゃないけど、でも、そんな逢ったばかりですぐ――」
「あのねぇ、時間は無駄にしちゃ駄目でしょ? するときまったらする。これが合理的じゃん」
まぁね。漆原にとっては意外な展開過ぎるだろう。本来、ナンパ師はあの手この手を使って女性を口説き、どうにかしてその気にさせるか、あるいは騙し込んで、目的のセックスまでどうにかして持っていく。それまでの展開をこの手の男たちは心から楽しんでいるわけだ。そしてその達成感を得たいのである。そのくらいの心理は私にも分かる。だからそのいつもとはまるで違う、この展開に多少たじろぐのは分かる。それを見ていて私も面白いし、笑えてくるわけだが。
「合理的って……そりゃそうかもだけど、杏樹さんってばそういう人なの?」
「そういう人ってどういう人?」
「だからその、誰でもいい人なのかと」
「なに? 自分が低く見られて悲しくなった?」
もうゲラゲラ笑いたいくらいだったが、抑えた。私は漆原の上手を取って最早寝技状態だ。もちろん、セックスなんかしてやらん。残念ながら、私にはその趣味はない。実際のところは、漆原を利用するというのを思いついただけだ。それはすぐに明らかにするけど、それまではこうしてナンパ師の狼狽えぶりを楽しみたかったのだった。この空気を支配しているのは漆原ではなく私だった。それが面白くてたまらない。
「低くって、まさか杏樹さんは俺を見下してるのか?」
「そんなことないわよ。あなたのことを素敵な男の人だなって。漆原さんだって私を選んだわけでしょ? 私もあなたのことを選んだのよ? イーブンじゃない」
「そうなのか。俺は選ばれたのか……」
漆原はそう呟くように言うと、そこで立ち止まった。
「なに? 漆原さん、ホテル行かないの?」
そう尋ねても、私の方を真顔で見つめて黙っている。そして少しの沈黙の後――。
「わかった。俺は選ばれたんだな? 杏樹さん、あなたを笑顔にしてあげるよ」
まだ言うかこいつ。笑うのを我慢するのが耐え難いほどではあったが、そこは堪えた。流石に笑ってはいけない。いくらなんでもそれは彼を傷付けてしまう。別に良いのだが、その前にやってもらわねばならぬ仕事がある。私はあたりを見渡した、確かこの辺だ。
「あった、あそこのホテル」
「えっ? あそこって、今の時間、どこでも部屋開いてるんじゃ?」
「そうじゃなくてね、あのホテルに 香西雪愛がいるの」
「えっ? それ誰?」
漆原麟太郎の目がその親指に釘付けになっている。なんか笑える。さすがのナンパ師もこういう展開はなかったろう。
「いや……あ、杏樹さん、それは恥ずかしいから」
明らかに慌ててんな、麟太郎。面白いので親指をくねくねさせてやろう。
「ちょ、待てって、何考えてるんだ? やめなさいって」
と言って、麟太郎は唐突に両手で私のその右手拳を隠すようにして抑え込んだ。そしてあたりをきょろきょろ見渡す。相手が慌てふためくのは面白いが、この程度のことでそこまで慌てるとは妙な奴だ。私は麟太郎の両手から右手を引っ込めた。
「へー、意外とシャイなの? 下ねた駄目とか?」
「ち、違うよ。……でも、そういうのじゃないからさ」
そう言いながら麟太郎は、ショルダーポーチからスマホを取り出した。
「そういうのじゃないって? あなた、ナンパ師さんでしょ?」
「いやそういうことじゃなくてさ、俺さ、結構真面目なんだぜ?」
「真面目? ナンパ師さんが真面目にナンパ?」
「あんまりナンパ師ナンパ師って言わないでくれるかな? 俺はただ……これ、スワイプして写真見て」
と、麟太郎はスマホを私に渡した。そこには、麟太郎と知らない女性が顔を寄せ合ってセルフィーで撮ってる写真が何枚もあった。全員違う女性のようだ。
「何よ? あたしに自慢? 俺はこれだけの女性をゲットしてきたって?」
「違う違う、そうじゃなくてさ、それが俺の目的」
意味がわからない。こんなのただの自慢っつーかゲットした女性コレクション以外の何の意味があるっつーんだ? 私は呆れてそのスマホをつっかえそうとしたら――。
「もっとよく見て、いっぱい入っているからさ」
「そんなの見りゃ分かります。何が言いたいの?」
「よく見て、なんか気付かないか?」
気づくって……、延々と何枚も麟太郎とそれぞれ違う女性が一緒にセルフィーで撮ってるだけの写真……なだけじゃん。つか、一体何人いるんだこれ?
「わかんないよ? これがどうかしたの?」
私はそのスマホをテーブルの上で滑らせて麟太郎に返した。
「今スマホの中にあるだけで、半年分。ぴったり三百人」
えっ? ――さ、三百人もか。たった半年で。てことはおい、ざっと一日で二人もか。何者だこいつ? 毎日毎日二人もやってるってわけか。呆れた……。そんなに短期間に三百人もの女性がこいつの餌食に。
「へー、大したものでございますね、漆原さん。で、私が三百一人目ってわけなの?」
「そう、そう、今見た写真の女の子全員がそうであったように、僕はあなたを笑顔にしたい。みんな笑ってたでしょ?」
今飲みかけていたグラスの水を吹きはしなかったが、口から溢れて、慌てておしぼりで口元と溢れたズボンの上を拭いた。
ナンパ師漆原麟太郎の脳内がさっぱりわからない。ナンパ師なんてのは結局、ペニスの衝動で生きてるような人間だ。そこら辺で適当な女性を見繕って、自分のセックスの生贄にする。それしか考えていないような男共。私が最も唾棄すべきミソジニストの典型みたいな人達。そんな最低の奴らから、せめて犯罪になるような傷付けられる女性だけでも救うこと、それが私の望んだ道――。
だから今日は、この男と仕事の合間の暇潰しをして、からかってやろうと思った。そして、その脳内をちょっとだけでも、今後のために理解しておこうと思っただけなのに「笑顔にしたい」だと? 私は私の意思で笑う。お前のような下衆な男共の意思で笑わせられてたまるか。
「どうかした? 小野寺杏樹さん。気分でも悪い?」
「べ、別になんでもないわよ。あ、ランチ運ばれてきたみたいね?」
サフランライスにエビフライが2つ、豚肉と玉ねぎを炒めてチリソースで味付けしたものに、ポテトサラダにプチトマトが3つ。それにカップに入ったフカヒレスープ。
「杏樹さん、年齢――」
「三十」
「わっ、即答」
「何? 即答しちゃ駄目なの?」
「いや、普通はさ、女の人ってなかなか答えなかったり、女の人に年齢聞くもんじゃないって言うじゃん」
「じゃぁ、あたしは普通じゃないのね」
多くの女性が若くありたいと思うのか、年齢をサバ読んだりごまかしたりする気持ちはわかるが、私は即答することにしている。童顔で他人に舐められるのが嫌だというのもあるけど、年齢程度のことで変に考えたりするのは時間の無駄だと思っているから。――ていうか、このトマト美味しい。食べた瞬間に甘さが広がる。
「そういう意味じゃなくてさ、意外だなって」
「童顔だから? 年齢気にしてるとでも?」
「うん、特にさ、杏樹さんみたいな可愛い人は、歳取ると色々気になるんじゃないかなって」
……こういう、初対面の相手に「可愛い」とかすらっとよく言えるもんだよ、ったく。こんなのにいちいち「ドキッ」とさせられる自分が情けない。ていうか、このサフランライスも香りがすっごく良くて、スープも濃厚で美味しい。こりゃ人気になるわけだ。店内よく見たら満席で外に行列まで出来てんじゃん。ランチで千円超えると高いっていうイメージあるけど、これは大満足かも。
「まぁね。たしかに肌の張りとかね、お手入れは大変だね。漆原さんは?」
「え? お肌? 一応手入れは……」
「そうじゃなくて、年齢」
「あ、それか。俺は28っす。どうっすかここのランチ。なかなかイケるでしょ?」
うん。私は声に出さずに頷き、エビフライをオーロラソースにつけて口に運ぶ。
「そのエビも、冷凍物じゃなくて、毎日新鮮なのを届けてもらってるらしいよ」
たしかにこのプリプリ感は半端ではない。毎日でも食べに来たいくらいだな。最近はどこのお店もランチ頑張ってるって聞くけど、ここも大したもんだね。――そして、ランチをきれいに平らげて、アイスコーヒーが運ばれてきた。ナンパ師が言ったとおり、美味しくって、濃いのにスッキリと飲みやすいという絶妙のバランス。これはそこらのコンビニでは真似できんぞ。
「ところでさ、杏樹さん、流石に一般事務員はないんじゃないの?」
「どうして?」
「もっと大きいものを背負ってる雰囲気あるよ」
大きいものねぇ……。確かにそうだけど、あんまりそういう具合に知らない人に見抜かれるようなことを言われるのは好きじゃない。
「漆原さんさぁ、そうやって、つまりナンパ師としては女の子を見定めたりしていくのが常道なわけ?」
「見定める? ……そうだなぁ、自然とそうなっちゃうだけかもね。女の子好きだもん。興味あるからさ。杏樹さんなんかひと目見た瞬間から「あっ、この人良い」って思ったもんね」
こいつは。どうしてそういうことをスラスラ、ヌケヌケと何の躊躇いもなく口に出来るんだ?「良い人」だってさ。三十年生きてきて見ず知らずの人間にそんな事言われたの初めてだよ。ったく、いちいちドキッとさせんな。どーせ口からでまかせの癖にさ。
「良い人なんかないよ。底辺で生きてるただの人。でもま、漆原さんは鋭いね。確かにあたしは一般事務員じゃない」
「でしょ? やっぱ俺には見る目がある。で、実際は何やってる人なの?」
「そうだね。今からそれを教えてやろうかと」
と言って、私は席から立ち上がり、漆原麟太郎に再び、右手の拳を突き出して、人差し指と中指の間から親指の頭を覗かせた。
「えっ? って杏樹さん、それマジっすか? 冗談かと……」
「何言ってんのさ、腹ごしらえも出来たし、さっさと行くとこ行ってやることやりましょうよ」
と、私は漆原に向かってウインク。さすがに少し驚いた様子だったのが笑えた。
「つーか、杏樹さん、本気なのか?」
そこは午前中に、三島と二人で張り込みをやったラブホが何件も隣接する一角。
「ナンパ師のくせに嫌なの?」
「いや、嫌じゃないけど、でも、そんな逢ったばかりですぐ――」
「あのねぇ、時間は無駄にしちゃ駄目でしょ? するときまったらする。これが合理的じゃん」
まぁね。漆原にとっては意外な展開過ぎるだろう。本来、ナンパ師はあの手この手を使って女性を口説き、どうにかしてその気にさせるか、あるいは騙し込んで、目的のセックスまでどうにかして持っていく。それまでの展開をこの手の男たちは心から楽しんでいるわけだ。そしてその達成感を得たいのである。そのくらいの心理は私にも分かる。だからそのいつもとはまるで違う、この展開に多少たじろぐのは分かる。それを見ていて私も面白いし、笑えてくるわけだが。
「合理的って……そりゃそうかもだけど、杏樹さんってばそういう人なの?」
「そういう人ってどういう人?」
「だからその、誰でもいい人なのかと」
「なに? 自分が低く見られて悲しくなった?」
もうゲラゲラ笑いたいくらいだったが、抑えた。私は漆原の上手を取って最早寝技状態だ。もちろん、セックスなんかしてやらん。残念ながら、私にはその趣味はない。実際のところは、漆原を利用するというのを思いついただけだ。それはすぐに明らかにするけど、それまではこうしてナンパ師の狼狽えぶりを楽しみたかったのだった。この空気を支配しているのは漆原ではなく私だった。それが面白くてたまらない。
「低くって、まさか杏樹さんは俺を見下してるのか?」
「そんなことないわよ。あなたのことを素敵な男の人だなって。漆原さんだって私を選んだわけでしょ? 私もあなたのことを選んだのよ? イーブンじゃない」
「そうなのか。俺は選ばれたのか……」
漆原はそう呟くように言うと、そこで立ち止まった。
「なに? 漆原さん、ホテル行かないの?」
そう尋ねても、私の方を真顔で見つめて黙っている。そして少しの沈黙の後――。
「わかった。俺は選ばれたんだな? 杏樹さん、あなたを笑顔にしてあげるよ」
まだ言うかこいつ。笑うのを我慢するのが耐え難いほどではあったが、そこは堪えた。流石に笑ってはいけない。いくらなんでもそれは彼を傷付けてしまう。別に良いのだが、その前にやってもらわねばならぬ仕事がある。私はあたりを見渡した、確かこの辺だ。
「あった、あそこのホテル」
「えっ? あそこって、今の時間、どこでも部屋開いてるんじゃ?」
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