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第九話 海ちゃん
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どこにあんなたくさんマスコミの連中がいたんだ? と思うくらい、つい十分程前まで静かだった警察署前が騒然とした雰囲気になっている。
「藤堂さん? どうかしましたか?」
「ああごめん、京極さん、ちょっとね今、出先からだから、その話ってかなり深刻な話みたいだし、今日夕方にでも会って話できる?」
「分かりました。夕方六時以降なら空いてますけど、どこで?」
「京極さんの大学に行くよ」
「分かりました。着いたら連絡下さい。では」
通り魔の犯人捕まったんだ――。つか、あの女。どうしてあそこに? 騒然とする警察署裏の敷地に通ずる建物の脇のあたりは、そこに犯人の乗った車両が入っていくからマスコミが集まっているのだけど、警察署正面玄関にそれを眺める警察関係者らしき人達の中に、あの女詐欺師、香西雪愛らしき女性がいる。
警察署とは国道を挟んだ位置にあるファミレス駐車場からでは、はっきりと確認できないので、助手席に置いてあったビデオカメラの望遠を使おうとしたけど既に充電池が切れていた。
まさか、香西、警察に捕まった? ……わけないよな。普通にビジネススーツ姿だったし、そんな様子ではなかった。一体どういうことなんだ? ただ似てるだけの女性なんだろうか。いやしかし、それにしても――。
とりあえず、スマホの録画機能を使って玄関を動画撮影し始めた。光学ズーム機能は大したことがないスマホなので、画面でピンチ操作を行っても荒い映像しか映らず、よく分からなかった。事務所に戻ってパソコンで精細画像に直すしかない。
そして、騒がしくなって十分も経たないうちに、騒ぎは収まった。玄関にも警備用の警察官しかいなくなったので、動画撮影も終えた。
うーむ……。なんだかよくわからなくなってきたけど、香西雪愛はどうでもいいな。あの女はたまたま、三ヶ月ほど前の仕事に絡んだだけの話だし、今の仕事には何も関係ない。仲西麗華の秘密は夕方、京極菖蒲に聞くとして、問題はともかく渡辺二瓶があの署にいるかどうかだ。それが確認できないと、身辺調査も難しい。どうしようかなぁ――。
コンコン。えっ、誰? ノックされた運転席側の窓ガラスを開けた。
「すみません。ここはお店の利用者だけの駐車場なので申し訳ないんですが」
「あっ、すみません。すぐ出します」
お店の人に注意されてしまい、車を発進させた。うーむ、なかなか厳しいな。この辺、外に止めるところがないしなぁ。まさか、警察の駐車場に止めるわけにもいかんし……。今度は、このファミレスの中から観察しようか。……いや駄目だな、警察署職員もここを利用するだろうし、不審がられてしまうと不味い。弱ったな。……てか、お腹すいたな。どっかに車停めて、カンナに貰ったお弁当食べよう。
少し離れたところのコンビニ駐車場に車を止めて、お弁当箱を開けて、笑った。
「ガンバ」
と、御飯の上に海苔で切って置いてあった。私は小学生か。そしておかずはタコさんウィンナーと卵焼きにブロッコリ。要するに、今朝のあたしね。器用にタコの口までハムを切って穴開けて作ってる、カンナも相当変なやつだな……、美味しいけどさ。しょうがないなぁ、弁当食べたら事務所戻るか――。
何の成果もなく事務所に戻ったと思っていたら、その逆だった。
「間違いないですね、これ」
「どう見てもそうだねぇ、一体どういうことなんだろ?」
スマホで撮った動画を解析していたら、驚くべきものが写っていたのだ。
「香西雪愛は間違いないとして、これは渡辺二瓶だ」
拡大され、色調も変更、画像処理ソフトで精細化されたそれにははっきり二人が写っていた。しかも、同じ画面に。渡辺があの警察署にいたことを確認できただけでなく、その光景は首をひねらざるを得ないものだった。
「そこから五秒前に戻して、コマ送りして」
すると、玄関前に隣同士で立っている香西雪愛と渡辺二瓶は明らかに喋っている。
「わけがわからないわ。三島くんはどう思う?」
「うーん、そうですねぇ。渡辺二瓶が、あの時の旦那さんみたいに香西雪愛にたぶらかされてるとか?」
「んー、警察署で? わざわざ? 私はそんなの思いつかなかったから、三島くんは偉いと思うけど……、いくら何でも警察署だよ?」
「ですよねぇ。どういうことなんでしょうね? でも、さっきも言ってたように、今は香西雪愛は特に関係ないですし、気にする必要もないのでは?」
「まぁ、そうなんだけどね。……これ、口元の動きで何喋ってるか分かる?」
「分かるわけないですよ。僕はHAL9000じゃないですし」
「何それ? ハル?」
「昔のSF映画で出てきたAIですけどね。でも読唇術って探偵も習えばいいですよね」
「そうかもね。三島くん頭いーなー、読唇術習ってこの事務所の特殊技能にでもしようか? ……てか、それこそどうでも良い話だ」
――ふーむ。香西雪愛なぁ、何なんだあの女。香西雪愛っつーか、竹中真凛っつーか。ともかくどうでもいいや。問題は渡辺二瓶だしな。勤務時間調べて尾行だな。金かかるけど、伝手頼むか。
「じゃぁさ、今から安西調査事務所に行って私、渡辺二瓶の勤務状況調査を依頼してくるからさ」
「ありゃ、珍しいっすね。社長直々に安調に行くなんて。大丈夫なんすか?」
「大丈夫よ。今ならあの人いないって聞いてるから」
「そうなんすか。じゃあ僕、仲西麗華に正式に着手を連絡しておきますね。お金やばいし」
「だよねー。お金はすぐに払ってくれるって言ってたから、連絡しといて。じゃぁ、今日は大学も行かなきゃだし、あとお願いね」
安西調査事務所は私が初めてこの業界に入った時に、社員として雇われていた探偵社だ。とにかくでかい。全国に二十店舗くらい支店があって、テレビにもしょっちゅう出てたりする。業界では安調で通じる。しかし、以前勤めていたとは言え、あんまり来たくないところでもあった。理由は二つあるが、一つは――。
「あら、海ちゃん、なにー? なんかあったの?」
「海ちゃんだー、海ちゃんが来たぞー」
「海だ! なんか大事件かもだぞ!」
――とまぁ、こんな感じで事務所ビルに入った途端、海、海とうるさいのである。海とは、名前の海来から一文字とったあだ名だ。在籍時の逸話があまりに多すぎて、いまだに伝説らしかった。で、特にこの男が……。
「よう、海、珍しいじゃんか。また雇ってほしいのか?」
「うるせーよ、警察調査やって欲しいだけだよ」
受付で対応してくれてる、この男。同期入社で調査実績を私と争って仁科亮太。何故だか知らないけど、めちゃくちゃライバル視してくるんで鬱陶しいんだよな。こいつから逃げたくて独立したってのもある。大体の私に関する逸話は、この仁科が有る事無い事付け加えて大げさに吹聴しただけなんだよね。
「またまたー、雇ってほしいんだろ? とりあえず面接してやるから、応接室入りなよ」
「だから、面接に来たんじゃねぇってばさ」
「いいからいいから。冗談だよ。ゆっくりしてってよ」
――と、応接室で仁科に調査依頼の説明をしていたんだけどさ。
「しかし、それ危ないな。警察官の犯罪調査ってやばすぎるんじゃないか?」
「うん、かなりやばいけど、金にはなる」
「うちでもやんないぞ。勤務実績調査くらいは簡単だけど、うちの名前絶対出すなよ?」
「出さないよ。これ以上は安調には絶対頼まないから、心配しないで」
「心配だよ。知らない仲じゃないしさ、そんなやばい案件でも突っ込まないと駄目なくらい厳しいわけ? そっちの会社としてさ」
「そういうわけじゃないわ。私は女性を助けたいから独立したんだし」
「そっかー。海って妙に正義感持ってるもんなぁ。やばいぜ、正義感なんて。映画とかドラマじゃないんだから」
「カッコつけるためにやってるんじゃないから、いーの。じゃぁ、行くわ。それいつ頃あげられる?」
「そうだなぁ、一週間待って」
「分かった。じゃぁお願いね」
そして、応接室を出ると、ここに来たくない二つ目の理由がまさかのまさか、いたのである。
「おー、海来じゃないか」
まじかよ、お父さん。しばらくいないって、ここの連中この前言ってたぞ。どうなってんだよ?
「さっき、海来が来てるって聞いたから降りてきたんだけど、社長室に寄っていきなさい。忙しいか?」
ううっ、断りづらい。ここで帰ったら、またここの人「海ちゃんって、お父さんのこと嫌いなのかな?」とか噂するに決まってるし。このフロアにいる人みんなこっち見てるし……。
「じゃぁ、少しだけね」と、五階建てビルの最上階にある社長室に、安西調査事務所の社長、安西重仁に連行されたのだった。
「お父さんってば、相変わらずゴルフ好きだねー。前よりも室内パット練習用のそれ、広くなってない?」
広いどころじゃない。社長室は五階フロアの殆どを占めるんだけど、その半分のスペースがパット練習場になっていた。前はたしかその半分もなかった筈。
「ゴルフは健康にいいぞ。お前も社長なんだからたまにはするだろ?」
「基本、お付き合いの営業はしないからさ。それにまだそんな偉くもないし」
フッカフカの応接セットのソファーに座ると、仁科がニヤニヤしながらお茶を運んできた。
「どーぞ、ごゆっくり」
あいつ、私がお父さんを苦手なの知ってるからなぁ。尊敬はしてるんだけど、あんまり頼りたくないっていう……。
「で、どうなんだ? 会社の方は」
「まぁ、なんとか」
「そうか。なにか困ったことはないか? せっかく来たんだから言ってみなさい。社長だったら困ったことの一つや二つあるだろ?」
うう……。なかなかなぁ、父さんには嘘はつきにくいんだよなぁ。
「ないこともないけど……、今のところは私自身でなんとかしたいから、父さんにも安調にも頼らないつもりなの」
「そうか。それならそれで、しっかりやるといい。しかし、どうしても困ったことがあったら遠慮せず、父さんに相談しなさい。後悔だけはするな」
……後悔、か。それが父さんのトラウマだもんな。私を捨てたから。
「藤堂さん? どうかしましたか?」
「ああごめん、京極さん、ちょっとね今、出先からだから、その話ってかなり深刻な話みたいだし、今日夕方にでも会って話できる?」
「分かりました。夕方六時以降なら空いてますけど、どこで?」
「京極さんの大学に行くよ」
「分かりました。着いたら連絡下さい。では」
通り魔の犯人捕まったんだ――。つか、あの女。どうしてあそこに? 騒然とする警察署裏の敷地に通ずる建物の脇のあたりは、そこに犯人の乗った車両が入っていくからマスコミが集まっているのだけど、警察署正面玄関にそれを眺める警察関係者らしき人達の中に、あの女詐欺師、香西雪愛らしき女性がいる。
警察署とは国道を挟んだ位置にあるファミレス駐車場からでは、はっきりと確認できないので、助手席に置いてあったビデオカメラの望遠を使おうとしたけど既に充電池が切れていた。
まさか、香西、警察に捕まった? ……わけないよな。普通にビジネススーツ姿だったし、そんな様子ではなかった。一体どういうことなんだ? ただ似てるだけの女性なんだろうか。いやしかし、それにしても――。
とりあえず、スマホの録画機能を使って玄関を動画撮影し始めた。光学ズーム機能は大したことがないスマホなので、画面でピンチ操作を行っても荒い映像しか映らず、よく分からなかった。事務所に戻ってパソコンで精細画像に直すしかない。
そして、騒がしくなって十分も経たないうちに、騒ぎは収まった。玄関にも警備用の警察官しかいなくなったので、動画撮影も終えた。
うーむ……。なんだかよくわからなくなってきたけど、香西雪愛はどうでもいいな。あの女はたまたま、三ヶ月ほど前の仕事に絡んだだけの話だし、今の仕事には何も関係ない。仲西麗華の秘密は夕方、京極菖蒲に聞くとして、問題はともかく渡辺二瓶があの署にいるかどうかだ。それが確認できないと、身辺調査も難しい。どうしようかなぁ――。
コンコン。えっ、誰? ノックされた運転席側の窓ガラスを開けた。
「すみません。ここはお店の利用者だけの駐車場なので申し訳ないんですが」
「あっ、すみません。すぐ出します」
お店の人に注意されてしまい、車を発進させた。うーむ、なかなか厳しいな。この辺、外に止めるところがないしなぁ。まさか、警察の駐車場に止めるわけにもいかんし……。今度は、このファミレスの中から観察しようか。……いや駄目だな、警察署職員もここを利用するだろうし、不審がられてしまうと不味い。弱ったな。……てか、お腹すいたな。どっかに車停めて、カンナに貰ったお弁当食べよう。
少し離れたところのコンビニ駐車場に車を止めて、お弁当箱を開けて、笑った。
「ガンバ」
と、御飯の上に海苔で切って置いてあった。私は小学生か。そしておかずはタコさんウィンナーと卵焼きにブロッコリ。要するに、今朝のあたしね。器用にタコの口までハムを切って穴開けて作ってる、カンナも相当変なやつだな……、美味しいけどさ。しょうがないなぁ、弁当食べたら事務所戻るか――。
何の成果もなく事務所に戻ったと思っていたら、その逆だった。
「間違いないですね、これ」
「どう見てもそうだねぇ、一体どういうことなんだろ?」
スマホで撮った動画を解析していたら、驚くべきものが写っていたのだ。
「香西雪愛は間違いないとして、これは渡辺二瓶だ」
拡大され、色調も変更、画像処理ソフトで精細化されたそれにははっきり二人が写っていた。しかも、同じ画面に。渡辺があの警察署にいたことを確認できただけでなく、その光景は首をひねらざるを得ないものだった。
「そこから五秒前に戻して、コマ送りして」
すると、玄関前に隣同士で立っている香西雪愛と渡辺二瓶は明らかに喋っている。
「わけがわからないわ。三島くんはどう思う?」
「うーん、そうですねぇ。渡辺二瓶が、あの時の旦那さんみたいに香西雪愛にたぶらかされてるとか?」
「んー、警察署で? わざわざ? 私はそんなの思いつかなかったから、三島くんは偉いと思うけど……、いくら何でも警察署だよ?」
「ですよねぇ。どういうことなんでしょうね? でも、さっきも言ってたように、今は香西雪愛は特に関係ないですし、気にする必要もないのでは?」
「まぁ、そうなんだけどね。……これ、口元の動きで何喋ってるか分かる?」
「分かるわけないですよ。僕はHAL9000じゃないですし」
「何それ? ハル?」
「昔のSF映画で出てきたAIですけどね。でも読唇術って探偵も習えばいいですよね」
「そうかもね。三島くん頭いーなー、読唇術習ってこの事務所の特殊技能にでもしようか? ……てか、それこそどうでも良い話だ」
――ふーむ。香西雪愛なぁ、何なんだあの女。香西雪愛っつーか、竹中真凛っつーか。ともかくどうでもいいや。問題は渡辺二瓶だしな。勤務時間調べて尾行だな。金かかるけど、伝手頼むか。
「じゃぁさ、今から安西調査事務所に行って私、渡辺二瓶の勤務状況調査を依頼してくるからさ」
「ありゃ、珍しいっすね。社長直々に安調に行くなんて。大丈夫なんすか?」
「大丈夫よ。今ならあの人いないって聞いてるから」
「そうなんすか。じゃあ僕、仲西麗華に正式に着手を連絡しておきますね。お金やばいし」
「だよねー。お金はすぐに払ってくれるって言ってたから、連絡しといて。じゃぁ、今日は大学も行かなきゃだし、あとお願いね」
安西調査事務所は私が初めてこの業界に入った時に、社員として雇われていた探偵社だ。とにかくでかい。全国に二十店舗くらい支店があって、テレビにもしょっちゅう出てたりする。業界では安調で通じる。しかし、以前勤めていたとは言え、あんまり来たくないところでもあった。理由は二つあるが、一つは――。
「あら、海ちゃん、なにー? なんかあったの?」
「海ちゃんだー、海ちゃんが来たぞー」
「海だ! なんか大事件かもだぞ!」
――とまぁ、こんな感じで事務所ビルに入った途端、海、海とうるさいのである。海とは、名前の海来から一文字とったあだ名だ。在籍時の逸話があまりに多すぎて、いまだに伝説らしかった。で、特にこの男が……。
「よう、海、珍しいじゃんか。また雇ってほしいのか?」
「うるせーよ、警察調査やって欲しいだけだよ」
受付で対応してくれてる、この男。同期入社で調査実績を私と争って仁科亮太。何故だか知らないけど、めちゃくちゃライバル視してくるんで鬱陶しいんだよな。こいつから逃げたくて独立したってのもある。大体の私に関する逸話は、この仁科が有る事無い事付け加えて大げさに吹聴しただけなんだよね。
「またまたー、雇ってほしいんだろ? とりあえず面接してやるから、応接室入りなよ」
「だから、面接に来たんじゃねぇってばさ」
「いいからいいから。冗談だよ。ゆっくりしてってよ」
――と、応接室で仁科に調査依頼の説明をしていたんだけどさ。
「しかし、それ危ないな。警察官の犯罪調査ってやばすぎるんじゃないか?」
「うん、かなりやばいけど、金にはなる」
「うちでもやんないぞ。勤務実績調査くらいは簡単だけど、うちの名前絶対出すなよ?」
「出さないよ。これ以上は安調には絶対頼まないから、心配しないで」
「心配だよ。知らない仲じゃないしさ、そんなやばい案件でも突っ込まないと駄目なくらい厳しいわけ? そっちの会社としてさ」
「そういうわけじゃないわ。私は女性を助けたいから独立したんだし」
「そっかー。海って妙に正義感持ってるもんなぁ。やばいぜ、正義感なんて。映画とかドラマじゃないんだから」
「カッコつけるためにやってるんじゃないから、いーの。じゃぁ、行くわ。それいつ頃あげられる?」
「そうだなぁ、一週間待って」
「分かった。じゃぁお願いね」
そして、応接室を出ると、ここに来たくない二つ目の理由がまさかのまさか、いたのである。
「おー、海来じゃないか」
まじかよ、お父さん。しばらくいないって、ここの連中この前言ってたぞ。どうなってんだよ?
「さっき、海来が来てるって聞いたから降りてきたんだけど、社長室に寄っていきなさい。忙しいか?」
ううっ、断りづらい。ここで帰ったら、またここの人「海ちゃんって、お父さんのこと嫌いなのかな?」とか噂するに決まってるし。このフロアにいる人みんなこっち見てるし……。
「じゃぁ、少しだけね」と、五階建てビルの最上階にある社長室に、安西調査事務所の社長、安西重仁に連行されたのだった。
「お父さんってば、相変わらずゴルフ好きだねー。前よりも室内パット練習用のそれ、広くなってない?」
広いどころじゃない。社長室は五階フロアの殆どを占めるんだけど、その半分のスペースがパット練習場になっていた。前はたしかその半分もなかった筈。
「ゴルフは健康にいいぞ。お前も社長なんだからたまにはするだろ?」
「基本、お付き合いの営業はしないからさ。それにまだそんな偉くもないし」
フッカフカの応接セットのソファーに座ると、仁科がニヤニヤしながらお茶を運んできた。
「どーぞ、ごゆっくり」
あいつ、私がお父さんを苦手なの知ってるからなぁ。尊敬はしてるんだけど、あんまり頼りたくないっていう……。
「で、どうなんだ? 会社の方は」
「まぁ、なんとか」
「そうか。なにか困ったことはないか? せっかく来たんだから言ってみなさい。社長だったら困ったことの一つや二つあるだろ?」
うう……。なかなかなぁ、父さんには嘘はつきにくいんだよなぁ。
「ないこともないけど……、今のところは私自身でなんとかしたいから、父さんにも安調にも頼らないつもりなの」
「そうか。それならそれで、しっかりやるといい。しかし、どうしても困ったことがあったら遠慮せず、父さんに相談しなさい。後悔だけはするな」
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