護国要塞 大日本

いしだしょうへい

文字の大きさ
1 / 3
武装要塞、始動

武装要塞、始動①

しおりを挟む
 もう、どれほど歩いただろうか?

 分からない。

 荒廃した街が延々と続く。かつて東京と呼ばれたこの街に、今はもう人影を見ることもなかった。

 その昔ビルだったものは瓦礫の山となり、今はもう見る影もない。そもそも、ビルってのが何なのかもよく分からない。爺さんからは昔は空に突き刺さるような高い建物が辺りを埋め尽くしていたときいたが、とてもじゃないが想像できやしない。

 こんなとこに昔は何百万人て人が住んでたっていうんだから信じられなかった。

 今出会うものと言えば…。

 ーーふと、背後で金属を引っ掻いたような甲高い音が聞かれた。

 俺はとっさに物陰に隠れ、腰に差した刀に手を掛ける。

 約300m程離れた瓦礫の先に「奴ら」が見えた。人型で背丈は約2m。全身を紅い鎧のような装甲で纏ったバケモノ。


「オウガか」

 相手は3体。

 心臓の鼓動が高鳴るのがわかる。一刻も早く、奴らを殺したい。だが、3体を相手にするのは余りにも分が悪い。

 逃げよう。
 そう決意した瞬間だった。

 すぐ後ろから、甲高い鳴き声が聞こえ、俺は瞬時に腰に刺した刀を引き抜き一閃した。

 奴らの装甲と装甲の間隙、下腹部の辺りから紫色の体液を吹き出した。そして断末魔を叫ぼうとしたその瞬間、俺はオウガの頭部に刀を突き刺していた。

「クソめ。奴らに気付かれるところだったろうが」

 オウガから刀を引き抜くと、刀を一振りし、刃に付着した体液を払った。

 奴らに気付かれていないといいが。
 そう思い、先ほどのオウガ共に目をやる。

 ーーそして俺はバッチリ奴らと目が合った。


「めっちゃ気付かれてるじゃねえか!!」

 オウガは額のあたりから熱線を放ってきた。

「くそっ!!!」

 奴らの放つ熱線は凄まじい威力で、当たったら間違いなくあの世行きだ。何せ、分厚い鋼鉄すらも貫通してしまう。

 熱線を体術で避けながら俺は瓦礫の東京の街を走り抜けた。
 だが、走り抜けようとした瓦礫の先からまたあの嫌な声がした。

「まさか……」

 嫌な予想が脳裏をよぎり、そしてそれは実現した。

 前方には別のオウガが5体ほど群れをなしており、こちらの騒ぎに気づいたようだった。

 万事窮す。

 俺は立ち止まると、再び刀を抜いた。

 ーー対オウガ剣術。

 爺さんから受け継いだこの剣と技で、せめて奴らを1匹でも多く地獄への道ずれにしてやる。そう覚悟し、俺は奴らを睨んだ。

「かかってこい化け物ども!!テメェらに殺された皆んなへのはなむけけだ。1匹でも多くあの世に連れてってやるよ!!」

 そう叫んだ瞬間、四方から熱線が降り注いできた。俺は身体を軟体動物のように反り、それらを躱すと、即座に全力で跳躍した。


 『視てから避けるのでは遅い。視るのではなく、見透せ』

 爺さんの言葉が脳内に木霊する。


 ーー藤野流抜刀『鬼殺し』

 鞘から一直線に全力で居抜く。
 刹那、刀身が紫色の閃光を放った。

 肩口から一閃、オウガを断ち切る。

 金切り声が辺り一面に響いた。
 今際の声に呼応するように、刀は紫色に鈍く輝き続ける。

 その光を見ると、オウガたちは一瞬顔を見合わせたじろいだ。

 人間をまるで虫ケラのように虐殺し、見下す奴らを恐れさせる数少ない武装。


 それが、この妖刀『鬼薙』だ。

 この隙を逃す手はない。

 即座に俺は側方に跳ぶと、そのままもう1匹のオウガの首を切り落とした。

 その瞬間、オウガ達も決死を覚悟したのだろう。各々、腕の装甲から黒い刃を伸ばした。

 『鬼の爪』
 あの黒い刃は奴らの格闘専用の武装。岩をも断ち切る魔爪だ。

 残りは6体。
 奴らが捨て身覚悟で同時に突撃してくれば、もはや並の技では太刀打ちできないだろう。

 オウガが跳躍の姿勢を取り、死を覚悟した。

 ーーその瞬間

 どこからともなく無数の熱線が降り注ぎ、全てのオウガを貫通したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...