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第一章
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ダンジョンには、ダンジョンの得意とする属性がある。
風のダンジョンと言えば、中の魔物はすべて風属性だ。
土のダンジョン、火のダンジョンもそうだ。
そんな中で、それとは異なるダンジョンもある。
属性混在型のダンジョンだ。
火と土、水と風、時には相反する火と水、土と風のダンジョンもある。三種類のダンジョンもあり、四種類だってある。
さすがにフロアで属性が混在しているのは珍しい。けっしてない訳ではないが、そこはもはやダンジョンとは呼べない何かになっているだろう。
「そして四種類ともなれば、それは混在を超えて雑多なだけだ。属性を、得意をしぼらない無節操さはダンジョンの弱さにも直結する」
だからこそ、ここのダンジョンの周囲には街がある。
あつかう属性が多い=ダンジョンが弱い。だから大丈夫だと人々が考え、街を作ったのだ。
そしてそれらの街を統括する、国という組織が生まれた。
「迷宮都市、そしてここが迷宮の国と呼ばれる所以はそんなものだ。この国は都市が先にできて、あとから国ができた稀有な例だな」
「そうだったのですね。自然な流れとはいえ、大胆です」
「よーく考えたら、生活している足元にダンジョンがあるんだもんね!」
ダンジョンが弱いから、入り口以外を突き破って魔物が出てこない。
それが迷宮都市の大原則だ。
しかし、人々は気付くべきだったのだ。
下層が不死系の一属性のみで構成され、誕生からこの二百年あまり経っても未だに攻略されていない事実が何をしめすのかを。
「俺の予想だが、このダンジョンは闇のダンジョンだ」
「闇、ですか。資料には近郊に闇のダンジョンは存在しないとありましたが、このような場所にあったのですね。新発見です!」
資料と異なる俺の見解に即断でキャスは同意した。そのあまりの速さにおどろく。
「でもでもー、そうなると他のダンジョンと違ってどうしてこんなに属性が多いの? なんだかおかしいような?」
それはお前たち自身の話でもある。
「闇属性は他属性と親和性がたかい。相反していそうな光属性とさえ相性がいいのだ」
「初耳! それってすごい! でも光と闇が相性いいってどういうこと?」
それは話せば長くなるし、何よりめんどうだ。
「どうでもいい」
「どうでもいい!? 自分で話ふっておいてそれはないよ旦那様!?」
「どうでもいい、が、お前たちにも関する内容だけは伝えておく。お前たちは風と闇の二つの属性の素質をもっていたな?」
「はい」
「闇は他の属性を底上げする力もある。その力を使えば微弱な他の属性の強度を、マシなレベルにまで引き上げることができる」
『サモンボール』で闇属性を強化されたこの姉妹の能力は、俺が予想していたよりも高い。
俺が昨夜に考えた、単純に数割増しされたていどのものではなかった。
「つまり私たちは、本来なら微弱な、主属性ではない属性の魔物を見て、弱い混在型のダンジョンだと勘違いしていたのですか?」
「そうだ。そもそもそうでなければ下層をだれも攻略できなかったなんて、ありえない話だ」
このダンジョンもずいぶんと狡猾だ。
油断させていたのは、生命力や魔力を自ら生成し、ばらまく人間という存在をおびき寄せるためだろう。
そしてそれは
「偽装していた理由はおそらく、下層で力をためるため、ですか。それは、ご主人様!?」
ゴクリとつばを飲む音が聞こえる。
「二百年、二百年だ! 二百年もの間、ダンジョンという魔物が力をたくわえ、今まさにそれを放出しようとしている!」
口に出して俺もせんりつする。
おそろしい話だ。
平和だと思い街を建てたのに、超特大の爆弾が足元には眠っていたのだから。
フロアボスが四体に増えたのも、今後一気に階層が増える予兆だろう。
「まぁ、それもどうでもいいんだが」
「よろしいのですか!?」
「いいの!? よくないよね!?」
いいんだよ。
「どうせ俺が解決する。気にするだけムダだ。残った問題は、学者連中にまかせておけばいい」
生い立ちでひどい目にはあったが、それでも神からもらったチートで俺は今も満足に生きていけている。
なら、こんな災害は俺の手でひねりつぶすのが恩返しってもんだろう。
「分かったな? お前たちはこのことをギルマスにつたえ」
「お供します!」
「伝説の幕開けだぁ!!」
ヲイ。
「指示を聞くと、言ったよな?」
「はい! お任せ下さい! 絶対にお役に立ってみせます!」
「わたしもわたしも! 後悔させないよ!」
今まさに後悔してるんだが?
普段察しがいいくせに、どうしてこんな時だけ強引なのか。
説得するのも面倒くせぇ。
死ぬなら勝手に死ねばいい。
「ああ、もう、好きにしろ」
「はい、好きにします!」
「やったー!」
……もしかして、分かったうえでワザとか? ワザとなのか!?
くそっ、これだから女ってヤツは!!
いや、違うな。
これだから天狐族ってヤツは!!
風のダンジョンと言えば、中の魔物はすべて風属性だ。
土のダンジョン、火のダンジョンもそうだ。
そんな中で、それとは異なるダンジョンもある。
属性混在型のダンジョンだ。
火と土、水と風、時には相反する火と水、土と風のダンジョンもある。三種類のダンジョンもあり、四種類だってある。
さすがにフロアで属性が混在しているのは珍しい。けっしてない訳ではないが、そこはもはやダンジョンとは呼べない何かになっているだろう。
「そして四種類ともなれば、それは混在を超えて雑多なだけだ。属性を、得意をしぼらない無節操さはダンジョンの弱さにも直結する」
だからこそ、ここのダンジョンの周囲には街がある。
あつかう属性が多い=ダンジョンが弱い。だから大丈夫だと人々が考え、街を作ったのだ。
そしてそれらの街を統括する、国という組織が生まれた。
「迷宮都市、そしてここが迷宮の国と呼ばれる所以はそんなものだ。この国は都市が先にできて、あとから国ができた稀有な例だな」
「そうだったのですね。自然な流れとはいえ、大胆です」
「よーく考えたら、生活している足元にダンジョンがあるんだもんね!」
ダンジョンが弱いから、入り口以外を突き破って魔物が出てこない。
それが迷宮都市の大原則だ。
しかし、人々は気付くべきだったのだ。
下層が不死系の一属性のみで構成され、誕生からこの二百年あまり経っても未だに攻略されていない事実が何をしめすのかを。
「俺の予想だが、このダンジョンは闇のダンジョンだ」
「闇、ですか。資料には近郊に闇のダンジョンは存在しないとありましたが、このような場所にあったのですね。新発見です!」
資料と異なる俺の見解に即断でキャスは同意した。そのあまりの速さにおどろく。
「でもでもー、そうなると他のダンジョンと違ってどうしてこんなに属性が多いの? なんだかおかしいような?」
それはお前たち自身の話でもある。
「闇属性は他属性と親和性がたかい。相反していそうな光属性とさえ相性がいいのだ」
「初耳! それってすごい! でも光と闇が相性いいってどういうこと?」
それは話せば長くなるし、何よりめんどうだ。
「どうでもいい」
「どうでもいい!? 自分で話ふっておいてそれはないよ旦那様!?」
「どうでもいい、が、お前たちにも関する内容だけは伝えておく。お前たちは風と闇の二つの属性の素質をもっていたな?」
「はい」
「闇は他の属性を底上げする力もある。その力を使えば微弱な他の属性の強度を、マシなレベルにまで引き上げることができる」
『サモンボール』で闇属性を強化されたこの姉妹の能力は、俺が予想していたよりも高い。
俺が昨夜に考えた、単純に数割増しされたていどのものではなかった。
「つまり私たちは、本来なら微弱な、主属性ではない属性の魔物を見て、弱い混在型のダンジョンだと勘違いしていたのですか?」
「そうだ。そもそもそうでなければ下層をだれも攻略できなかったなんて、ありえない話だ」
このダンジョンもずいぶんと狡猾だ。
油断させていたのは、生命力や魔力を自ら生成し、ばらまく人間という存在をおびき寄せるためだろう。
そしてそれは
「偽装していた理由はおそらく、下層で力をためるため、ですか。それは、ご主人様!?」
ゴクリとつばを飲む音が聞こえる。
「二百年、二百年だ! 二百年もの間、ダンジョンという魔物が力をたくわえ、今まさにそれを放出しようとしている!」
口に出して俺もせんりつする。
おそろしい話だ。
平和だと思い街を建てたのに、超特大の爆弾が足元には眠っていたのだから。
フロアボスが四体に増えたのも、今後一気に階層が増える予兆だろう。
「まぁ、それもどうでもいいんだが」
「よろしいのですか!?」
「いいの!? よくないよね!?」
いいんだよ。
「どうせ俺が解決する。気にするだけムダだ。残った問題は、学者連中にまかせておけばいい」
生い立ちでひどい目にはあったが、それでも神からもらったチートで俺は今も満足に生きていけている。
なら、こんな災害は俺の手でひねりつぶすのが恩返しってもんだろう。
「分かったな? お前たちはこのことをギルマスにつたえ」
「お供します!」
「伝説の幕開けだぁ!!」
ヲイ。
「指示を聞くと、言ったよな?」
「はい! お任せ下さい! 絶対にお役に立ってみせます!」
「わたしもわたしも! 後悔させないよ!」
今まさに後悔してるんだが?
普段察しがいいくせに、どうしてこんな時だけ強引なのか。
説得するのも面倒くせぇ。
死ぬなら勝手に死ねばいい。
「ああ、もう、好きにしろ」
「はい、好きにします!」
「やったー!」
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いや、違うな。
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