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第二章
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しおりを挟む「ところで、二人に渡した魔道具って、どんな効能があるのー?」
そう言えば姉妹に渡す前にボツにしたから知らないんだったな。
シスの疑問に身振り手振りを交えつつ答える。
「剣盾の試製ウルサ・マヨルくんは、普段は鞘と剣だが、剣を抜くと鞘が展開し盾状に変化。ま、それだけだ」
あとは剣に切れ味を増す効能、盾には衝撃を空気中に逃がす効能があるが、どれもおまけ程度。
盾もスモールシールドに分類される小さなものだ。
「剣杖の試製ウルサ・ミノルくんは、機構的ギミックはないが、剣そのものが杖と同等クラスの魔力伝達率をほこる」
魔力は生物的、有機的に死んだ存在の方が通りやすい。
それをくつがえすのが、俺のウルサ・ミノルくんだ。
とは言え、一般的な杖とそう変わりはしない。頑丈でよく切れる杖ていどの認識が正しいだろう。
「それだけの装備であのティラントの森を攻略できるのでしょうか?」
「攻略と言っても、群れのボスであるティラント系を一匹狩るだけだからな。少なくともお前たちであれば一人でも余裕だ」
「そうなの?」
「あそこに闇属性の魔物はいない。隠遁で暗殺できるぞ」
そこが闇属性持ちの利点だ。ソロで行動するなら下位の狩場では無敵と言ってもいい。
おっと、それで思い出した。
「今のうちに二人のパワーアップを行う」
「私たちのですか?」
「やったー!」
そもそも、だ。
あいつらの世話をしていることがイレギュラーなのだ。
本当なら家に帰ってきた直後からやっておきたかったことだ。
「まず『サモンボール』の更新だ」
二人から返却されたそれを分解し、再び『サモンボール』を呼び出す。
それを二人に渡したが、顔をしかめられた。
「これは今までと随分と違いますね」
「なんだかピリピリするよー?」
気付いたか。
いや、そのレベルになったから次の段階へと進んだのだよ。
フッフッフッ。
「それは『トライボール』、三属性だ。だが、今回のは火、土、水の属性を宿している」
「私たちが持っていない属性の『サモンボール』ですか?」
「それって意味ないよね? たしか『サモンボール』って、持ってる属性分しか強化しなかったような?」
普通はそうだ。
だが、属性相性は一定以上になると、反対属性の概念が生まれる。
つまりは、なんだ? 苦手属性と言うべきか?
「特定の属性が強くなると、その反対にある属性と相性が極端に悪くなる。今だと二人は風が強いから、反対の土とは相性がすこぶる悪い」
そうはいっても、精々が一割から二割悪くなるていどの差でしかないのだが、元が大きければそれだけ反発力も増える。
「そっかー。ならわたしたちは土属性の魔法に注意しなきゃいけないんだねー」
「ヘタをすると、熟練魔法使いの土魔法一撃で殺されてしまうかもしれないのですね」
「ああ、そうだ」
その辺はすでにペルセウスくんの自動防御で克服済みだが、それでも警戒するに越したことはない。
「それは今は置いておく。属性にはもう一段階あるんだ。それを呼び起こすには反対属性を使うが一番手っ取り早いんだよ」
上位属性。
塵、雲、霧、雷と言った複合属性。
基本の六属性よりもはるかに多いこれらは、自然界にあふれている自然現象そのものだ。
そしてそれは、後天的に習得可能な属性でもある。
「光の三原色が赤青緑であっても、ならその中間に色はないのか? そう思ったのがきっかけだ」
基本はあくまで基本。
それらが入り混じったものは、特殊な方法で分解しない限りはそれそのものだ。
緑と青が融合して水色になるように、また、より緑が濃い、青が濃いといった差で色が区分けされているように
属性にもそんなものがあるんじゃないか。
「そう思って検証したら、分かったんだよ。上位属性ってヤツが」
今まで謎だと言われていた上位属性だが、なんてことはなかった。
現存する物理法則にしたがい、それらしい検証をしたらあっさり判明。
「ただし、誰がどの上位属性を扱えるようになるかは分からん。しかし火と土、そして水を扱うドワーフの多くは溶の属性を持つと聞いたことがある。これは のじゃ にも確認済みだ」
そこから察するに、扱い、接している属性が多ければ多いほど、上位属性を習得しやすくなる。
姉妹はすでに風と闇の属性相性がマックスなのだから、他の属性と接していれば上位属性を覚えるだろう。
ただし、ここまではあくまで俺の理論だ。
俺自身で試したが、素質がカンストしているので全く参考にならない。こういう時、俺の身は不便だ。
姉妹がいて助かった。
「さぁ、実験開始だ。クククッ」
「天狐姉妹は放っておいてもいいとして」
「よくないです」
「最近構ってもらえてないから不満ー」
……。
「放っておいて、連中はどうだ?」
警備ゴーレムを介して彼らの様子を見る。
「乗合馬車に乗って最寄りの駐屯地まで移動か」
ティラントの森は魔物の森だから、常に入り口には兵士が立っている。
その彼らの為に駐屯地が作られ、利聡い商人が立ち寄り、今はそれなりの規模の村となっている。
「ある意味では、この迷宮都市と同じようなものだな」
「魔物の素材が取れるから商人がいて、間引きに騎士たちでは手が足らないから冒険者を引き込んでいる所もそっくりですね」
「あそこもここの領主の土地だからな。方針が似通るのは当然だ」
しかしハーマイン伯爵は冒険者の扱いと言うものをよく分かっているな。
普通、冒険者と言えば粗野で乱暴だから貴族受けは悪いだろうに。
「それだけ魔物に悩まされてるってことだねー」
シスの言う通りなのだろう。
あとは、騎士は職業軍人なので金がやたらとかかる。
「あ、何やら揉め事が起こったようですよ?」
「伯爵家ご令嬢が目を付けられたのか」
「うん。でもすぐに解決したみたい。一にらみで撃退って、中々すごいねー」
「まるでご主人様の眼光を劣化させたような、鋭い眼差しでした」
……、それ褒めてんのか?
ま、気にしても仕方がない。ボチボチと様子を見ながら観察日記でもつけるか。
十五日目。
二人が出発した。
荒くれものと揉めそうになったが眼力で撃退した。
その日は移動でつぶれたのでそれ以上のイベントはなかった。
十六日目。
駐屯地から二人が出発した。
何度も騎士に呼び止められていたが、それ以外のアクシデントはなし。
雑魚魔物と数回の交戦。全撃破。
収納ポーチに入れていた、騎士団に配備されているのと同じレーションをまずそうに食っていたが、文句は出なかった。
十七日目。
雑魚魔物の群れと遭遇。ただし数が異様に多い。
二人は、なんと敵わないと察知して逃走。
悪くない判断だ。
その日はそれ以上特筆すべき点はない。
十八日目。
目当ての群れを発見したようだ。
サル系魔物の群れ。
賢く、素早く、群れの結束力も固い。
二人には荷が重そうだが、どうやら狩るつもりらしい。
今日の所はチャンスがなかったようだ。
十九日目。
二人に焦りが生じてきた。
このままでは無謀な突撃を行うだろうか。いいぞ、やれ。
しかし俺の願いもむなしく、二人は慎重に行動していた。
罠を仕掛け、確実に相手の群れを弱らせていく。
入れ知恵したの、誰だよ!?
俺じゃねーぞ!?
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