1 / 1
1
しおりを挟む「はー、今日もいい天気だ」
伸びをして、朝の冷たい空気を吸う。
一呼吸ごとに神経が研ぎ澄まされ、生きる活力を世界からもらう。
俺の名はエイジ。
東の開拓村のエイジだ。
名前の由来はかつての英雄で……、っと、そんな事はどうでもいいか。
朝の清々しさに思わず昔語りをしてしまいそうになる。それだけの気持ちよさだったと理解してもらいたい。
我が家から徒歩数歩の場所にある井戸で水を汲み、瓶へと入れる。
一日の日課であり、これをしないと生活が出来ない。今日も瓶いっぱいの水を汲み、家の中にある大瓶へと移し入れる。
再び家を出て、周りを見回すが、何もない。
ここには家が二軒と荒れ地のみ。五分ほど歩けば他の家々もあるが、この周囲にはない。
朝の静謐さをこれでもかと演出している、心憎い配置だ。
「さて、今日も一日がんばるぞ!」
ヨッシャと腕を振り上げる。風を切った腕が心地よい。その爽快感に思わず気分も高揚する。
隣人は寝ている。
夜型なのと寝起きは機嫌が悪いのでそっとしておく。
さて、今日のお仕事は何をしようか。
とある事情で定職を持たない俺は、どこへ手伝いに行こうかなーと考えるのも毎朝の日課だ。
村の中の人手が必要そうな場所に考えを巡らせていると、来た。
来てしまった。
他の人には分からないこの感覚。
どこかに俺を導くような見えない光が現れ、誘う。
これは加護の予兆だ。
「今日はまた一段と変な導き方だなぁ」
普段なら直感のようなものが働くだけだったり、妙な物音が聞こえたりだったが、こんな視覚に訴えかけてくるのは珍しい。
いつもと違う出来事には細心の注意を払えと隣人に散々忠告されてきたけど、俺はホイホイついて行く。
「今日の加護も絶好調だな」
出会いの加護。
もとい、変な出会いの加護。
俺が唯一持っている神様から頂いた加護だ。
教会で判定してもらっても
「えーと、その、よく分かりませんでした……」
と申し訳なさげに神父様に謝られてしまうほどに変わった俺の加護。
出会いの加護というのは、その名の通り出会いを支援する加護で、人との良縁が結びやすくなる加護だ。
この加護を持つ人が会談に一人いれば、犬猿の仲の人たちが口論していても、あっという間に収まる。
出会いの加護が陽の目を見るようになってからは、国家間の戦争がなくなったと言われている。
そんなすごい加護だ。
「そっちの加護は国にスカウトされて、『調整官』として平民でも法衣子爵の爵位を与えられる。すごいよなぁ、平民が貴族になれるんだから」
一方、俺の加護はと言えば
「変な縁を結ぶ加護かぁ」
俺の記憶にある一番最初の変な出会いは、魔物だろう。
魔物、魔獣、モンスター。
明確に区別があるらしいけど、学者でもない俺たちには判別できない。
一つ分かっているのは、そいつらは全部人間の俺たちに危害を加える存在だって事。
しかし俺が出会った時は大きく傷つけられることはなかった。本当に魔物は人を見境なく襲うのか疑問に思ったのはこの時だったな。
「それから、護衛を連れた迷子、立往生していた馬車、死にかけのボロボロな男、銀色の人、幼馴染と、言われてみるとちょっと変かなーと思う出会いが多かった」
色々出会ったが、出会いが一番多いのは魔物だ。
度々魔物と出会ってしまう俺に対して、国が下した判断は
「野放しにしても害はないが、雇うのは危険、か」
幸いにも、出会った魔物に大きな危害は加えられていない。
ただ、どれもが友好的だとは言えない態度だった。
最初の出会いは虎型の魔物の子供。
足を倒木に挟まれた大きめの猫だと思ったので、躊躇いなく近寄りちょっと木を持ち上げたらすぐに脱出した。
ケガもなくすぐに立ち上がったのを喜んでいたら、ザクーっと手のひらを引っ掻かれて、そのまま逃げられてしまったっけな。
「懐かしいなぁ。あいつ、元気にしてるかな」
今も左手の甲に刻まれている三本線。
親も村の人たちも、みんな驚いていたっけか。
そして出会いがあっても、魔物に危害を加えられるのでは意味がない、むしろ危険だと言われて……。
「元々成人と共に村を出る予定だったからな」
追い出されたのではなく、俺は自ら進んで村を出た。
当てもなくさまよい、様々な奇縁を結びながら行きついた先は、国の端にあった故郷の村とは真逆の位置にある開拓村。
俺はそこで人の手伝いをしては日銭を稼ぐ、何でも屋になった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる