異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!

城山リツ

文字の大きさ
108 / 226
Interlude03 ミチル is Love …

13 透明な光と黒い闇

しおりを挟む
 奴隷出身の美少年(になる予定のクソガキ)、ミモザに起きたことをおさらいしよう。
 ①謎の大商人テン・イーにより、ジンと因縁のある怪しい商人ギルド鐘馗しょうき会に預けられた。
 ②ところが奉公させてもらえずに、鐘馗会の知り合いの武人でこれまたジンと因縁のあるガザニア・ビーストから武術を施された。
 ③修行の仕上げにとガザニアから武道大会に出ることを命じられたミモザは、鐘馗会によって怪しげな宗教施設に連れていかれた。
 ④そこで、なんか黒い牛の角みたいなもので胸を刺されたミモザは、意識が朦朧となったまま大会に出場した。

「怪しい人と、怪しいモノしか出てこないっ!」

 ミチルはミモザからもたらされた情報に、改めて身震いした。
 膝の上でニタニタしているミモザに注視する。こんな怪しさ満載の境遇で育てられたら、性癖のひとつやふたつ、ひん曲がって当然かもしれない。

「で、だ。お前は、その大会でベスティアを吐き出したんだろ?」

「はあ、そうなんですか? べすてぃあって何ですか?」

 エリオットの問いに、ミモザは全く覚えがないという顔をしていた。それでエリオットは頭を抱える。

「くっそぉ、洗脳が完璧だ。こいつからは肝心の情報が引き出せないようになってやがる……」


 
「ところで、武道大会はこの街の道場出身者が集う、一種の発表会のようなものなのでは? 何故、部外者の彼が出場できたのです?」

 先ほどから急に冴えるようになったジェイからの質問に、ジンが腕を組んだまま答えた。

「──いい質問だ。ここカーリアはフラーウムでも武術家を多く輩出する名門。ゆえに皇帝陛下からの信任厚く、カーリアで武勲を修めれば仕官が可能だ。武道大会はそういう優秀な武人を選出する側面もある。出場者はカーリアの道場出身者がほとんどだが、推薦枠というものがあってな。それを使えば他所の街の出身者も出場が可能だ。これには、カーリアだけに特権が集中することを防ぐ意味合いもある」

 大会の優勝者は皇帝の御前試合に出られるとジンが言っていたことを、ミチルは思い出した。
 ジンの長く難しい説明をどこまで理解したかはわからないが、ミモザはその中の単語に驚いていた。

「えっ? ここってカーリアなんですか?」

「そうだけど……」

 ミチルが答えると、ミモザはまた首を捻っていた。

「おっかしいなあ。僕、カレンデュラにいたんですけど」

「何だと!?」

 途端にジンが慌てた声を出す。ミチルは驚いて聞いた。

「どうしたんです、先生?」

「カレンデュラはフラーウムの西端の街だ。ここ、カーリアは東端。つまり、この餓鬼は広大なフラーウムを端から端まで横断したことになる」

「ははあ、それはさぞや長旅でしょうね」

 新幹線や飛行機がある世界で育ったミチルには、それが何を意味するのかがわからなかった。

「カレンデュラからここに来るには砂漠を越えなくてはならん。こんな年少の餓鬼が過酷な旅に耐えられるか? しかも、こいつの反応からすると長旅をした実感がないようだが」

「えーっと、それは、洗脳されて意識がなかった……から?」

 ミチルがイマイチ理解できない頭で考えていると、横でエリオットが「いや」と神妙な顔で割り込んだ。

「フラーウムを横断するにはほぼ半年かかるぜ。そんなに長い時間しかも子どもの、意識を奪った状態を保てる魔術なんて知らねえよ。現実的じゃねえ」

「ええー、そうなんだ……」

 という事はどういうこと? ミチルの頭はだいぶこんがらがっている。
 するとエリオットはますます顔を険しくして言った。

「それを解決する手段が、ひとつだけある」

「なに?」

「転移術だよ」

 短い、けれどその象徴的な言葉に、その場の全員が息を呑んだ。

「ミチルのくしゃみ、みたいな?」

 この場では一番の一般ピーポー、アニーが素朴に疑問を口にする。
 それに対して、眉をひそめたままエリオットは答えた。

「ミチルのくしゃみ転移の原理はまだわかんねえから、同じだとは言えない。ただ、カエルラ=プルーマの既存の技術でもフラーウムを横断するくらいなら可能だ」

「なんと。アルブスとは本当に魔法大国なのだな」

 ジンが感心したように相槌を打つ。
 そういえば、エリィに初めて会った時に聞いた気がする。「転移の魔法は、かなり高位の魔術師が王族の許可を経てやっと使える」と言われたことをミチルは思い出した。

「まあ、例えば父王とウチの魔術最高顧問ならできると思うんだけどさ……」

 オルレア王とスノードロップのことだと、ミチルは思う。けれどエリオットの言葉は歯切れが悪い。

「何年か前にクソ法皇が魔術統制をしちまって、転移魔法関係は禁術になってんだよ」

「ほうおう?」

 新しいワードにミチルは首を傾げた。ほうおうって、鳥じゃないよね。ロー○法皇とかの方かな?

「西大陸の教義をカエルラ=プルーマ全体に広めるっていう方針の国があってさ。そこは独立宗教国家を名乗ってんだけど、そのトップが法皇」

「西大陸の教義って?」

 ミチルの察しが悪いのは当然だが、田舎出身のアニーもよくわからないと言ったような顔をしていた。そこでエリオットはもう少し噛み砕いて説明する。

「アルブスやカエルレウムでいう『チル一族』ってのは、ルブルムでは『プルケリマ』、フラーウムでは『仙人』って呼ばれてるだろ? そんなのまどろっこしいから、『チル一族』で統一しようぜって宣言してるのが、そのクソ法皇だ」

「ふむ……聞いたことはあるな」

 ジンが頷くと、エリオットはせせら笑いながら付け足した。

「それで西大陸はほぼ統一されちまったから、アルブスやカエルレウムにおける法皇の影響力はでかい。他の大陸にもそれなりに発言力があるんじゃねえの? 目の上のたんこぶみたいで、まじウザイ国なんだよ」

「つまり、転移術ってのは今は使えないんだよな? じゃあ、結局、このガキがカーリアまで来れた理由は?」

 アニーの質問に、エリオットは「だからさ」と前置いたものの、言いにくそうにしていた。

「法皇に逆らってまで転移術を使うことに躊躇がない、そういう組織だってことだよ。そこまでの過激派で、かつ転移術は国レベルの力がないと使えない……って言えばさ」

「アーテル帝国が絡んでいる、と言うのか?」

 ジンの言葉に、ジェイの表情が強張った。ミチルとアニーは相変わらず疑問符が浮かんでいる。
 緊迫した空気の中、エリオットの言葉が静かに落ちた。

「こいつは、ヤベエことになりそうだぜ……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

転生悪役兄と秘密の箱庭でxxx生活

かなめのめ
BL
箱庭世界の乙女ゲームに転生した大学生。 ヒロインに意地悪する悪役少女の兄となり、関わりたくないと思っていた。 好奇心で森の中に入るとそこに広がるのはあのゲームで出てきた城だった。 城に住む5人の魔族や聖人達と奇妙な生活を始める事に… 外には人喰いの化け物がうろつく危険な森の中で、逃げ道がなくなった。 悪役兄ポジだったのに、何故か攻略キャラクター達に身も心も愛される事に… 5人の魔族、聖人×悪役人間兄 その愛は無限に箱庭の中に溢れている。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

魔王様が子供化したので勇者の俺が責任持って育てていたら、いつの間にか溺愛されているみたい

カミヤルイ
BL
顔だけが取り柄の勇者の血を引くジェイミーは、民衆を苦しめていると噂の魔王の討伐を指示され、嫌々家を出た。 ジェイミーの住む村には実害が無い為、噂だけだろうと思っていた魔王は実在し、ジェイミーは為すすべなく倒れそうになる。しかし絶体絶命の瞬間、雷が魔王の身体を貫き、目の前で倒れた。 それでも剣でとどめを刺せない気弱なジェイミーは、魔王の森に来る途中に買った怪しい薬を魔王に使う。 ……あれ?小さくなっちゃった!このまま放っておけないよ! そんなわけで、魔王様が子供化したので子育てスキル0の勇者が連れて帰って育てることになりました。 でも、いろいろありながらも成長していく魔王はなんだかジェイミーへの態度がおかしくて……。 時々シリアスですが、ふわふわんなご都合設定のお話です。 こちらは2021年に創作したものを掲載しています。 初めてのファンタジーで右往左往していたので、設定が甘いですが、ご容赦ください 素敵な表紙は漫画家さんのミミさんにお願いしました。 @Nd1KsPcwB6l90ko

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

処理中です...