転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
116 / 122
第七章 エピローグ

第4話 雨都梢賢

しおりを挟む
「わお、とっぷりと日が暮れてラァ」
 
 すでに真っ暗になった外にはるかが驚いていると、携帯電話を確認した蕾生らいおは今日一番の絶望を孕んだ声でいった。
 
「ヤベ……母ちゃんから鬼電入ってる」
 
「こわー! 早く帰ろ!」
 
 見送りに出てきた星弥せいや鈴心すずねに手を振ろうと永が振り返った時、少し強い風が吹いた。
 ザワザワと辺りの木々が揺れる。その音に紛れたのか、木の影から一人の男が音もなく現れた。

 
 
「やーっと出てきた! 待ちくたびれたでぇ」


 
「!?」
 
 その男は細身で若い印象だった。永達よりも少しだけ年上に見えるが学生のような頼りなさを感じる。
 半袖で大きなシダ植物をあしらった派手な模様のシャツに、ジーンズを履いている風体はにこやかに笑う表情を更に軽薄な印象にさせる。金色の長髪を無造作に後ろで縛っていて、耳に光るピアスが軟派なチンピラ風を完成させていた。
 
 ちょっとお近づきになりたくない見た目のその男に、永がぎょっとしていると、鈴心がいち早くその前に躍り出て警戒心を露わにする。
 
「何者だ!?」
 
 続けてさらにその前に立ちはだかって蕾生が構えながら睨む。そんな二人の動きを見て男は興奮しながら笑った。
 
「おほほ、すごいねえ。ザ・忠臣って感じ、カッコイイー!」
 
「お前、どこから入った?」
 
 得体の知れない言動、さらに鈴心にすらも直前までその気配を感じさせなかった男に、蕾生は身構えたまま尋ねた。
 しかし、その男はあっけらかんとした態度で言う。
 
「ああ、ええねんええねえ、そんなんはどうでもええねん。まずは自己紹介やね、オレは雨都うと梢賢しょうけん
 
「雨都!?」
 
「雨都ですって!?」
 
 男が名乗った途端、永も鈴心も素っ頓狂な声を上げた。
 
「お前ら、知ってんのか?」
 
 蕾生が振り返ると、永も鈴心も狐につままれたような顔で目を丸くしている。
 
「ほ、ほんとに雨都?」
 
「あなた、かえでの?」
 
 二人の戸惑いを他所に自信たっぷりなその男、雨都梢賢は答えた。
 
「楓はオレのばあちゃんの妹や。で、オレは雨都家待望の跡取り息子やねん! ──まあ、坊さんにはならんけど」
 
「?」
 
 梢賢の言葉のひとつとして蕾生は理解できなかった。そんな蕾生を横目に見つつ、梢賢は永に話しかける。
 
「探したわー、ほんとあんたら隠れ過ぎやで」
 
「はあ……」
 
 突然のためか反応の悪い永をおいて、梢賢は蕾生に向き直る。
 
「そこのバカ面の君がライくん? ごめんなあ、君にはなんのことかさっぱりやろ」
 
「ま、まあ……バカ面?」
 
 蕾生が言われた言葉に引っかかっていると、ようやく永が真面目な顔をして蕾生の前に出て梢賢と対峙する。
 
「まさかそちらからまた会いに来てくれるなんて……」
 
「そう、めっちゃ大変やってん。父ちゃんも母ちゃんも、お前らには関わるなーてえらい剣幕で」
 
「それで? 僕らは何をすればいい?」
 
「永!?」
 
 蕾生は驚いた。永は真顔で梢賢の言葉を待っている。
 
「話が早くて助かるわあ」
 
 梢賢はにっこり笑って余裕綽々といった体でその場の全員を見回す。

 
  
 彼は一体何者なのか。
 何故永は無条件で彼に従うつもりなのか。
 そして何を要求するのか──
 
 永も鈴心も蕾生も、そして少し後ろで見守る星弥さえも緊張で息を呑んだ。

 
  
「お願いします! 助けてくださいっ!!」
 
 目の前には実に綺麗な土下座があった。
 
「エ──」
 
 永は呆然。鈴心も唖然。蕾生と星弥は訳がわからない。特殊で間抜けた空気が漂った。
 土下座を続けたまま顔を上げた梢賢は、白い歯を見せて、眉を八の字に曲げ、同情を引くように情けない笑顔を振り撒いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...