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第七章 エピローグ
第4話 雨都梢賢
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「わお、とっぷりと日が暮れてラァ」
すでに真っ暗になった外に永が驚いていると、携帯電話を確認した蕾生は今日一番の絶望を孕んだ声でいった。
「ヤベ……母ちゃんから鬼電入ってる」
「こわー! 早く帰ろ!」
見送りに出てきた星弥と鈴心に手を振ろうと永が振り返った時、少し強い風が吹いた。
ザワザワと辺りの木々が揺れる。その音に紛れたのか、木の影から一人の男が音もなく現れた。
「やーっと出てきた! 待ちくたびれたでぇ」
「!?」
その男は細身で若い印象だった。永達よりも少しだけ年上に見えるが学生のような頼りなさを感じる。
半袖で大きなシダ植物をあしらった派手な模様のシャツに、ジーンズを履いている風体はにこやかに笑う表情を更に軽薄な印象にさせる。金色の長髪を無造作に後ろで縛っていて、耳に光るピアスが軟派なチンピラ風を完成させていた。
ちょっとお近づきになりたくない見た目のその男に、永がぎょっとしていると、鈴心がいち早くその前に躍り出て警戒心を露わにする。
「何者だ!?」
続けてさらにその前に立ちはだかって蕾生が構えながら睨む。そんな二人の動きを見て男は興奮しながら笑った。
「おほほ、すごいねえ。ザ・忠臣って感じ、カッコイイー!」
「お前、どこから入った?」
得体の知れない言動、さらに鈴心にすらも直前までその気配を感じさせなかった男に、蕾生は身構えたまま尋ねた。
しかし、その男はあっけらかんとした態度で言う。
「ああ、ええねんええねえ、そんなんはどうでもええねん。まずは自己紹介やね、オレは雨都梢賢」
「雨都!?」
「雨都ですって!?」
男が名乗った途端、永も鈴心も素っ頓狂な声を上げた。
「お前ら、知ってんのか?」
蕾生が振り返ると、永も鈴心も狐につままれたような顔で目を丸くしている。
「ほ、ほんとに雨都?」
「あなた、楓の?」
二人の戸惑いを他所に自信たっぷりなその男、雨都梢賢は答えた。
「楓はオレのばあちゃんの妹や。で、オレは雨都家待望の跡取り息子やねん! ──まあ、坊さんにはならんけど」
「?」
梢賢の言葉のひとつとして蕾生は理解できなかった。そんな蕾生を横目に見つつ、梢賢は永に話しかける。
「探したわー、ほんとあんたら隠れ過ぎやで」
「はあ……」
突然のためか反応の悪い永をおいて、梢賢は蕾生に向き直る。
「そこのバカ面の君がライくん? ごめんなあ、君にはなんのことかさっぱりやろ」
「ま、まあ……バカ面?」
蕾生が言われた言葉に引っかかっていると、ようやく永が真面目な顔をして蕾生の前に出て梢賢と対峙する。
「まさかそちらからまた会いに来てくれるなんて……」
「そう、めっちゃ大変やってん。父ちゃんも母ちゃんも、お前らには関わるなーてえらい剣幕で」
「それで? 僕らは何をすればいい?」
「永!?」
蕾生は驚いた。永は真顔で梢賢の言葉を待っている。
「話が早くて助かるわあ」
梢賢はにっこり笑って余裕綽々といった体でその場の全員を見回す。
彼は一体何者なのか。
何故永は無条件で彼に従うつもりなのか。
そして何を要求するのか──
永も鈴心も蕾生も、そして少し後ろで見守る星弥さえも緊張で息を呑んだ。
「お願いします! 助けてくださいっ!!」
目の前には実に綺麗な土下座があった。
「エ──」
永は呆然。鈴心も唖然。蕾生と星弥は訳がわからない。特殊で間抜けた空気が漂った。
土下座を続けたまま顔を上げた梢賢は、白い歯を見せて、眉を八の字に曲げ、同情を引くように情けない笑顔を振り撒いていた。
すでに真っ暗になった外に永が驚いていると、携帯電話を確認した蕾生は今日一番の絶望を孕んだ声でいった。
「ヤベ……母ちゃんから鬼電入ってる」
「こわー! 早く帰ろ!」
見送りに出てきた星弥と鈴心に手を振ろうと永が振り返った時、少し強い風が吹いた。
ザワザワと辺りの木々が揺れる。その音に紛れたのか、木の影から一人の男が音もなく現れた。
「やーっと出てきた! 待ちくたびれたでぇ」
「!?」
その男は細身で若い印象だった。永達よりも少しだけ年上に見えるが学生のような頼りなさを感じる。
半袖で大きなシダ植物をあしらった派手な模様のシャツに、ジーンズを履いている風体はにこやかに笑う表情を更に軽薄な印象にさせる。金色の長髪を無造作に後ろで縛っていて、耳に光るピアスが軟派なチンピラ風を完成させていた。
ちょっとお近づきになりたくない見た目のその男に、永がぎょっとしていると、鈴心がいち早くその前に躍り出て警戒心を露わにする。
「何者だ!?」
続けてさらにその前に立ちはだかって蕾生が構えながら睨む。そんな二人の動きを見て男は興奮しながら笑った。
「おほほ、すごいねえ。ザ・忠臣って感じ、カッコイイー!」
「お前、どこから入った?」
得体の知れない言動、さらに鈴心にすらも直前までその気配を感じさせなかった男に、蕾生は身構えたまま尋ねた。
しかし、その男はあっけらかんとした態度で言う。
「ああ、ええねんええねえ、そんなんはどうでもええねん。まずは自己紹介やね、オレは雨都梢賢」
「雨都!?」
「雨都ですって!?」
男が名乗った途端、永も鈴心も素っ頓狂な声を上げた。
「お前ら、知ってんのか?」
蕾生が振り返ると、永も鈴心も狐につままれたような顔で目を丸くしている。
「ほ、ほんとに雨都?」
「あなた、楓の?」
二人の戸惑いを他所に自信たっぷりなその男、雨都梢賢は答えた。
「楓はオレのばあちゃんの妹や。で、オレは雨都家待望の跡取り息子やねん! ──まあ、坊さんにはならんけど」
「?」
梢賢の言葉のひとつとして蕾生は理解できなかった。そんな蕾生を横目に見つつ、梢賢は永に話しかける。
「探したわー、ほんとあんたら隠れ過ぎやで」
「はあ……」
突然のためか反応の悪い永をおいて、梢賢は蕾生に向き直る。
「そこのバカ面の君がライくん? ごめんなあ、君にはなんのことかさっぱりやろ」
「ま、まあ……バカ面?」
蕾生が言われた言葉に引っかかっていると、ようやく永が真面目な顔をして蕾生の前に出て梢賢と対峙する。
「まさかそちらからまた会いに来てくれるなんて……」
「そう、めっちゃ大変やってん。父ちゃんも母ちゃんも、お前らには関わるなーてえらい剣幕で」
「それで? 僕らは何をすればいい?」
「永!?」
蕾生は驚いた。永は真顔で梢賢の言葉を待っている。
「話が早くて助かるわあ」
梢賢はにっこり笑って余裕綽々といった体でその場の全員を見回す。
彼は一体何者なのか。
何故永は無条件で彼に従うつもりなのか。
そして何を要求するのか──
永も鈴心も蕾生も、そして少し後ろで見守る星弥さえも緊張で息を呑んだ。
「お願いします! 助けてくださいっ!!」
目の前には実に綺麗な土下座があった。
「エ──」
永は呆然。鈴心も唖然。蕾生と星弥は訳がわからない。特殊で間抜けた空気が漂った。
土下座を続けたまま顔を上げた梢賢は、白い歯を見せて、眉を八の字に曲げ、同情を引くように情けない笑顔を振り撒いていた。
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