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第二章
2-10 子孫
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数分経って、五十代ほどの男性が部屋に入ってきた。厳しい顔つきで、三人を順番に見ていく。梢賢から聞いた里長の名前は女性のものだったので、この人物が誰なのかわからなかった。
「?」
「ご一同、よくいらした。私は眞瀬木墨砥。里長の藤生康乃様の側仕えをしている」
墨砥の声は低くも良く通るものだった。少し銀騎詮充郎の纏う空気感に似ている。
「周防永です。眞瀬木って──」
永が言い終わらないうちに梢賢が小声で耳打ちする。
「珪兄やんの父ちゃんや」
「ああ……」
言われて永は納得した。確かに顔が似ている。眞瀬木珪が仏頂面になったらこんな感じだろう。
「私に自己紹介は結構。これより康乃様がお見えになるからそこでして下さい」
墨砥は抑揚のない声で言った。その姿に堅苦しさを感じた蕾生はますます居心地が悪くなった。
「では御前がお見えになります」
墨砥の言葉を合図に、部屋の襖を開けて入ってくる老婦人。藤生康乃である。
深緑色の紬の着物を着ており、歩く所作は気高さにあふれていた。康乃は音もなく歩き、一段上の畳の間で明らかに高価な座布団に座った。横には脇息が置いてあったが、それを使わずに真っ直ぐ正座している。
「初めまして、鵺人の皆さん。麓紫村相談役の藤生康乃です」
にっこり笑っているものの、その声は聞く者を圧倒させる。一瞬永は言葉が出なかったが、すぐ我に返り一礼とともに挨拶する。
「す、周防永です。初めまして──」
「唯蕾生です……」
「御堂鈴心と申します」
さすがの蕾生も正しい敬語で名乗るしかなかった。鈴心はこのように圧を与えてくる人物に慣れているのか、少し余裕があった。
「ごめんなさいね、偉そうに上からお話して。そこの墨砥が形式にはうるさいの」
困ったように笑う康乃に、名指しされた墨砥はそれでも表情を崩さずに黙って前を向いて襖の側に座っていた。
「い、いえ!僕らは若輩者ですから!」
永が慌てて言うと、康乃は落ち着いた声で聞く。
「そちらの周防さんが──英家の御子孫かしら?」
その一言で康乃がこちらの素性をかなり詳しく知っていると理解した永は、態度を改め冷静に答える。
「いえ。僕は英治親氏の生まれ変わりです、子孫ではありません」
「では、英家の末裔とご関係は?」
「全くありません。今までも英の家とは関わってきませんでしたから、僕は子孫については何も知りません」
永がそこまで言うと、康乃は微かに息を吐いてにっこり笑った。
「そうなの。それなら話しやすいわ」
「御前、まさか──」
訝しんだ墨砥を笑顔で制して康乃は言う。
「いいじゃない。相手の事が知りたければ、まずこちらからお示ししないとね」
「──とおっしゃいますと、藤生さんは英家に関係が?」
「まあ、あると言えばあるけれど、血縁という訳ではないわ。私は成実家の子孫です」
何百年ぶりにその名を聞いただろう。永は驚きで目を見張った。
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お読みいただきありがとうございます
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「?」
「ご一同、よくいらした。私は眞瀬木墨砥。里長の藤生康乃様の側仕えをしている」
墨砥の声は低くも良く通るものだった。少し銀騎詮充郎の纏う空気感に似ている。
「周防永です。眞瀬木って──」
永が言い終わらないうちに梢賢が小声で耳打ちする。
「珪兄やんの父ちゃんや」
「ああ……」
言われて永は納得した。確かに顔が似ている。眞瀬木珪が仏頂面になったらこんな感じだろう。
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墨砥は抑揚のない声で言った。その姿に堅苦しさを感じた蕾生はますます居心地が悪くなった。
「では御前がお見えになります」
墨砥の言葉を合図に、部屋の襖を開けて入ってくる老婦人。藤生康乃である。
深緑色の紬の着物を着ており、歩く所作は気高さにあふれていた。康乃は音もなく歩き、一段上の畳の間で明らかに高価な座布団に座った。横には脇息が置いてあったが、それを使わずに真っ直ぐ正座している。
「初めまして、鵺人の皆さん。麓紫村相談役の藤生康乃です」
にっこり笑っているものの、その声は聞く者を圧倒させる。一瞬永は言葉が出なかったが、すぐ我に返り一礼とともに挨拶する。
「す、周防永です。初めまして──」
「唯蕾生です……」
「御堂鈴心と申します」
さすがの蕾生も正しい敬語で名乗るしかなかった。鈴心はこのように圧を与えてくる人物に慣れているのか、少し余裕があった。
「ごめんなさいね、偉そうに上からお話して。そこの墨砥が形式にはうるさいの」
困ったように笑う康乃に、名指しされた墨砥はそれでも表情を崩さずに黙って前を向いて襖の側に座っていた。
「い、いえ!僕らは若輩者ですから!」
永が慌てて言うと、康乃は落ち着いた声で聞く。
「そちらの周防さんが──英家の御子孫かしら?」
その一言で康乃がこちらの素性をかなり詳しく知っていると理解した永は、態度を改め冷静に答える。
「いえ。僕は英治親氏の生まれ変わりです、子孫ではありません」
「では、英家の末裔とご関係は?」
「全くありません。今までも英の家とは関わってきませんでしたから、僕は子孫については何も知りません」
永がそこまで言うと、康乃は微かに息を吐いてにっこり笑った。
「そうなの。それなら話しやすいわ」
「御前、まさか──」
訝しんだ墨砥を笑顔で制して康乃は言う。
「いいじゃない。相手の事が知りたければ、まずこちらからお示ししないとね」
「──とおっしゃいますと、藤生さんは英家に関係が?」
「まあ、あると言えばあるけれど、血縁という訳ではないわ。私は成実家の子孫です」
何百年ぶりにその名を聞いただろう。永は驚きで目を見張った。
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