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第二章
2-9 不思議な結界
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麓紫村、鳴藤地区。
分かれ道の山道を数十メートルほど登った所にそれはあった。
まず見えたのは大きな寺だった。その門構えを見ながら永はそこが雨都家だろうと思う。だが梢賢はその説明をせずにさらに奥を指し示している。
「さあ、あの奥にあるお屋敷が里長の藤生康乃様のお住まいや」
左側には雨都家らしき寺、右側には年代物の大きな屋敷が建っていた。さながらそれは神社の狛犬のよう。奥に見えるさらに広大な屋敷を守っているように見える。
古ぼけた石畳を踏み締めた瞬間、違和感がした。
「──リン、気づいたか?」
「はい」
神妙な面持ちの永と鈴心に対して、蕾生は首を傾げて二人の様子を訝しんでいる。
「どうした?」
「僕らは、今、なんだかよくわからない壁を通った」
「結界、ってやつか?」
以前に銀騎皓矢が祖父の詮充郎の執務室にかけていたものを蕾生は思い出した。
だが、あれは建物そのものが見えないように細工されていたので、それ以外の例を知らない蕾生にはよくわからなかった。
永の言葉を受けて鈴心も慎重な態度で言う。
「そう──だと思うんですが、今、梢賢は何も手続きのような素振りをしませんでした。なのに部外者の私達も通ることができた」
「ああ……」
言われて蕾生はさらに思い出す。皓矢は結界を緩める手振りをしていた。あのような奇怪な動きを梢賢は全くしていない。普通に通り過ぎただけだった。
「少なくとも、銀騎にはこのような結界術はない。一体どういう理屈で結界を張っているのか、全く得体が知れません」
「銀騎とは別の理で形成された術、か。それなら長年銀騎が掴めなかったのも頷けるな」
「ハル様、この村にもやはり相当な力を持つ呪術師の類がいるのだと思います」
永と鈴心の会話を聞いた梢賢は冷や汗をかかんばかりで、顔を顰めて笑った。
「ほんま、鋭い子らやわあ。恐ろしいなあ」
永は緊張を孕んだ声で蕾生に言った。
「ライくん、気をつけて」
「──わかった」
それを受けて蕾生は背中の白藍牙を無意識に触っていた。
右の屋敷と左の寺の間を通って少し歩くと、純和風家屋の豪邸が顔を出す。
使われている材木は古いものと新しいものがまちまちで、改修に改修を重ねてきたようだ。その見た目は、築二百年とも三百年とも言われても納得するくらいの古いものだった。
屋敷の玄関は開いており、梢賢は何も言わずに入っていく。人の気配はなかった。薄暗い土間と直結している玄関を通って四人は奥座敷へと入る。
広々とした畳の部屋で、奥は一段高くなっていた。低い方の畳の上に何故か座布団が四つすでに並べられている。梢賢が座れと無言で促すので、三人は不気味に思いながらもそれに従った。
「うん。いかにもって感じ」
永はその屋敷の雰囲気から、昔読んだ推理小説を思い出していた。旧家で起こる殺人事件ものだ。
「どんな方なんでしょう……」
鈴心も珍しく不安気にそわそわしている。蕾生は正座が苦手なので座るなり不機嫌になった。
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お読みいただきありがとうございます
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分かれ道の山道を数十メートルほど登った所にそれはあった。
まず見えたのは大きな寺だった。その門構えを見ながら永はそこが雨都家だろうと思う。だが梢賢はその説明をせずにさらに奥を指し示している。
「さあ、あの奥にあるお屋敷が里長の藤生康乃様のお住まいや」
左側には雨都家らしき寺、右側には年代物の大きな屋敷が建っていた。さながらそれは神社の狛犬のよう。奥に見えるさらに広大な屋敷を守っているように見える。
古ぼけた石畳を踏み締めた瞬間、違和感がした。
「──リン、気づいたか?」
「はい」
神妙な面持ちの永と鈴心に対して、蕾生は首を傾げて二人の様子を訝しんでいる。
「どうした?」
「僕らは、今、なんだかよくわからない壁を通った」
「結界、ってやつか?」
以前に銀騎皓矢が祖父の詮充郎の執務室にかけていたものを蕾生は思い出した。
だが、あれは建物そのものが見えないように細工されていたので、それ以外の例を知らない蕾生にはよくわからなかった。
永の言葉を受けて鈴心も慎重な態度で言う。
「そう──だと思うんですが、今、梢賢は何も手続きのような素振りをしませんでした。なのに部外者の私達も通ることができた」
「ああ……」
言われて蕾生はさらに思い出す。皓矢は結界を緩める手振りをしていた。あのような奇怪な動きを梢賢は全くしていない。普通に通り過ぎただけだった。
「少なくとも、銀騎にはこのような結界術はない。一体どういう理屈で結界を張っているのか、全く得体が知れません」
「銀騎とは別の理で形成された術、か。それなら長年銀騎が掴めなかったのも頷けるな」
「ハル様、この村にもやはり相当な力を持つ呪術師の類がいるのだと思います」
永と鈴心の会話を聞いた梢賢は冷や汗をかかんばかりで、顔を顰めて笑った。
「ほんま、鋭い子らやわあ。恐ろしいなあ」
永は緊張を孕んだ声で蕾生に言った。
「ライくん、気をつけて」
「──わかった」
それを受けて蕾生は背中の白藍牙を無意識に触っていた。
右の屋敷と左の寺の間を通って少し歩くと、純和風家屋の豪邸が顔を出す。
使われている材木は古いものと新しいものがまちまちで、改修に改修を重ねてきたようだ。その見た目は、築二百年とも三百年とも言われても納得するくらいの古いものだった。
屋敷の玄関は開いており、梢賢は何も言わずに入っていく。人の気配はなかった。薄暗い土間と直結している玄関を通って四人は奥座敷へと入る。
広々とした畳の部屋で、奥は一段高くなっていた。低い方の畳の上に何故か座布団が四つすでに並べられている。梢賢が座れと無言で促すので、三人は不気味に思いながらもそれに従った。
「うん。いかにもって感じ」
永はその屋敷の雰囲気から、昔読んだ推理小説を思い出していた。旧家で起こる殺人事件ものだ。
「どんな方なんでしょう……」
鈴心も珍しく不安気にそわそわしている。蕾生は正座が苦手なので座るなり不機嫌になった。
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