転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第二章

2-13 鳴藤地区

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 梢賢しょうけん藤生ふじきの家を出ると、来た道を戻り左の寺を指差した。
 
「ま、さっき見たやろけど、予想通りこの寺がウチやねん」
 
「だよね」
 寺の門構えを見上げながらはるかは頷いていた。
 
 蕾生らいおもその奥の寺の規模に少し驚いている。
「結構でかい寺だな」
 
「まあ、里で唯一の寺やからな」
 
「では、あっちのお屋敷は?」
 鈴心すずねが右側の屋敷を指差して聞く。
 藤生の屋敷に比べると小さいがそれでも雨都うとの寺よりは大きく見えた。
 
「あっこが眞瀬木ませきんちや。眞瀬木、雨都、奥に藤生。この三家の住まいが建ってるあたりを鳴藤なるふじ地区て呼んでてん」
 
「ふうん。一目でここが村の重要な場所だってわかるね。だから結界が?」
 
 続けて永が聞けば、梢賢は肩をすくめて答えた。
 
「そやね、しらばっくれても無駄やろうから白状するわ。この鳴藤地区には特別な結界が張られとる。銀騎しらきへの目眩しや」
 
「術者は眞瀬木ですか?」
 
 鈴心がきっぱりと尋ねると、梢賢はわざと一歩後ずさるリアクションをした。
 
「えー、なんでそないにドンピシャ当てられるのん?ほんと怖いわ」
 
「ただの消去法ですけど」
 
「眞瀬木の人って陰陽師なのか?」
 蕾生にとっては結界イコール陰陽師という知識しかまだない。
 
「いや、厳密には違うらしいで。民間発祥の呪術師って聞いてるわ」
 
「ふうん……意外にすんなり教えてくれるんだね」
 
 永が少し意地悪く言うと、梢賢はそれを躱すように戯けてみせた。
 
「あらヤダ!オレのことまで疑わんでほしいわあ。オレは君らの味方やで」
 
「それはどうも」
 
 苦笑しきりの永の横で、真面目な鈴心が真面目に疑問を述べる。
 
「でも、銀騎への目眩しなら雨都家の敷地だけ隠せばいいのでは?」
 
「さっき康乃やすの様が言うたやろ。ムニャムニャ一族の子孫だから隠れて住んでるって。眞瀬木かてお世辞にも真っ当な生き方してへんからなあ。隠れるならまとめて、っちゅーこっちゃ」
 
「藤生の本来の姓を言うのは禁止なんだ?」
 
 その言葉を受けて永が聞くと、頭の上で手を組んで溜息吐きながら梢賢は答えた。
 
「まあ、誰に聞かれてるかわからんからなあ。念には念を入れてや。特にオレんちは居候やから厳守せんと」
 
「雨都のここでの地位は低いんですね」
 
「そうや。ただ飯食いやからな。こう見えて気苦労が多いんですわ」
 
 梢賢の物言いからも前時代的なものを感じざるを得ない。実際にこの村の様子を見た三人はそれを改めて納得する。本当に時が止まった世界にタイムスリップしたような気分だった。







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