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第二章
2-14 梢賢の家族
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長々と立ち話をしていても仕方がないので、四人は寺の門を通る。短い参道を箒で掃いている若い僧侶がいた。
「ナンちゃーん!お客人連れてきたで」
「──ああ、これは遠路はるばるようこそ」
僧侶は梢賢達の姿に気づくと、にこやかに笑いながら近づいた。
「オレの姉貴の婿さんや」
「初めまして、雨都楠俊です。実緒寺の副住職をしております」
丁寧に頭を下げて挨拶する楠俊は、その声の印象からも穏やかな人物だと言うことがわかる。僧侶の格好をしているが、頭髪がまだあった。スポーツ刈り程の長さだ。
「周防永です。お世話になります」
「唯蕾生っス」
「御堂鈴心です」
三人が順番に挨拶すると、楠俊は参道からそれて母屋だと思われる建物へと入っていく。
「おーい、優杞さーん」
それについていくと、楠俊が呼びかけてすぐに若い女性が小走りでやって来た。
「はいはい。ああ、梢賢お帰り!皆さんもようこそいらっしゃいました」
「こんにちは」
三人が挨拶とともに一礼すると、横で梢賢が情報を付け足す。
「で、これがオレの姉ちゃんや」
「姉の優杞です。よろしくね、さあ、どうぞどうぞ」
ショートボブの髪をヘアピンで留め、パンツスタイルの優杞は快活そうな印象だった。
「お邪魔します」
緊張しながら玄関を上がろうとする三人に、梢賢は小声でさらに情報を付け足した。
「姉ちゃん、外面はええけど怒るとやっかいやで。気ぃつけや」
「梢賢、なんか言ったか?ん?」
かなり小さな声での耳打ちだったが、優杞は梢賢を威圧するように笑いかける。それはさながらレディースの総長のようだった。
「いいええ!ボクハナニモ──」
蛇に睨まれた蛙よろしく、梢賢は固まって片言で首を振るのが精一杯だった。雨都家では男性の地位が低いのかもしれないと永は思った。
奥の座敷に通された三人を一組の男女が待ち構えていた。
楠俊より明らかに格上の僧侶と、和服をきっちりと着て厳しい表情で正座する女性。見た目の年齢からこれが梢賢の両親であることは明白だった。
「いらっしゃい」
梢賢の父と思しき男性は低く抑揚のない声で一言述べただけ。
「こんにちは」
続く母と思しき人物もただ一言発するだけで、一瞬で空気が重苦しくなる。
「あああ、オレの父ちゃんと母ちゃんや!」
そんな両親の重たい雰囲気を軽くしようとしたのか、梢賢は殊更明るく三人に紹介した。
「初めまして、周防永です。この度はよろしくお願いします」
「唯蕾生です」
「御堂鈴心と申します」
梢賢の両親の重く厳しい雰囲気に、永はその場でしゃがんで頭を下げる。蕾生もそれに倣い、鈴心は手をついて一礼した。
「んんー、カタイカタイ!姉ちゃん、なんか飲み物持ってきてや。オレのとっときのやつ!」
「そ、そだね」
梢賢と優杞は更に明るく振る舞ってバタバタと動いた。そんな二人の様子に苦笑しながら楠俊が三人に声をかける。
「まあ、どうぞ楽にしてください」
「……」
楠俊はそう言うが、梢賢の両親はすでに永達の方を見ておらず、まるで瞑想をするように目を伏せ黙っていた。
とりあえず居間の端に座ったものの、気まずい空気が流れ続け、三人は緊張と相まって息が詰まりそうだった。
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「ナンちゃーん!お客人連れてきたで」
「──ああ、これは遠路はるばるようこそ」
僧侶は梢賢達の姿に気づくと、にこやかに笑いながら近づいた。
「オレの姉貴の婿さんや」
「初めまして、雨都楠俊です。実緒寺の副住職をしております」
丁寧に頭を下げて挨拶する楠俊は、その声の印象からも穏やかな人物だと言うことがわかる。僧侶の格好をしているが、頭髪がまだあった。スポーツ刈り程の長さだ。
「周防永です。お世話になります」
「唯蕾生っス」
「御堂鈴心です」
三人が順番に挨拶すると、楠俊は参道からそれて母屋だと思われる建物へと入っていく。
「おーい、優杞さーん」
それについていくと、楠俊が呼びかけてすぐに若い女性が小走りでやって来た。
「はいはい。ああ、梢賢お帰り!皆さんもようこそいらっしゃいました」
「こんにちは」
三人が挨拶とともに一礼すると、横で梢賢が情報を付け足す。
「で、これがオレの姉ちゃんや」
「姉の優杞です。よろしくね、さあ、どうぞどうぞ」
ショートボブの髪をヘアピンで留め、パンツスタイルの優杞は快活そうな印象だった。
「お邪魔します」
緊張しながら玄関を上がろうとする三人に、梢賢は小声でさらに情報を付け足した。
「姉ちゃん、外面はええけど怒るとやっかいやで。気ぃつけや」
「梢賢、なんか言ったか?ん?」
かなり小さな声での耳打ちだったが、優杞は梢賢を威圧するように笑いかける。それはさながらレディースの総長のようだった。
「いいええ!ボクハナニモ──」
蛇に睨まれた蛙よろしく、梢賢は固まって片言で首を振るのが精一杯だった。雨都家では男性の地位が低いのかもしれないと永は思った。
奥の座敷に通された三人を一組の男女が待ち構えていた。
楠俊より明らかに格上の僧侶と、和服をきっちりと着て厳しい表情で正座する女性。見た目の年齢からこれが梢賢の両親であることは明白だった。
「いらっしゃい」
梢賢の父と思しき男性は低く抑揚のない声で一言述べただけ。
「こんにちは」
続く母と思しき人物もただ一言発するだけで、一瞬で空気が重苦しくなる。
「あああ、オレの父ちゃんと母ちゃんや!」
そんな両親の重たい雰囲気を軽くしようとしたのか、梢賢は殊更明るく三人に紹介した。
「初めまして、周防永です。この度はよろしくお願いします」
「唯蕾生です」
「御堂鈴心と申します」
梢賢の両親の重く厳しい雰囲気に、永はその場でしゃがんで頭を下げる。蕾生もそれに倣い、鈴心は手をついて一礼した。
「んんー、カタイカタイ!姉ちゃん、なんか飲み物持ってきてや。オレのとっときのやつ!」
「そ、そだね」
梢賢と優杞は更に明るく振る舞ってバタバタと動いた。そんな二人の様子に苦笑しながら楠俊が三人に声をかける。
「まあ、どうぞ楽にしてください」
「……」
楠俊はそう言うが、梢賢の両親はすでに永達の方を見ておらず、まるで瞑想をするように目を伏せ黙っていた。
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