転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第二章

2-28 唯我独尊

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 康乃やすのは着眼点を変えて、今度は柊達しゅうたつに尋ねた。
 
「達ちゃん、蔵に盗人が入ったのはいつ頃だと考えられる?」
 
「そうですね。まず愚息は四月から大学に通うため家を出ているので、それ以降は蔵に入っておりません。四月から今日までは恐らく私しか出入りしていないでしょう。ですが私も月に一度くらいが関の山で──」
 
 柊達の長くまとまらない報告をやんわりと止めて、康乃は端的に聞いた。
 
「それで、最後に蔵に入ったのは?」
 
「詳しくは覚えておりませんが、二週間ほど前でしたか……少し換気と掃除に入ったくらいで」
 
「なるほど。それ以外はもちろん施錠を?」
 
「御意にございます」
 
 そこまで聞くと康乃は溜息を吐いた。
 
「ふう。困ったわね、今日蔵に入った時も鍵は壊れてなかったんでしょう?」
 
「はい。特に不自然なことはありませんでした」
 
「まあ……そうなの……」
 
 梢賢の答えにまた康乃が首を捻っていると、その空間を切り裂くようなけいの鋭い声が響いた。
 
「──銀騎しらきなのでは?」
 
 その発言に、並んでいた大人達はギョッと目を見開いた。永と蕾生もそれは注視せざるを得なかった。
 
「け、けけ、珪!」
 
 墨砥ぼくとが慌てて嗜めると、珪はそれを意にも介さず余裕の笑みを浮かべて言った。
 
「──ああ、すみません。つい思ったことを喋ってしまいました」
 
「銀騎を、ご存知なんですか?」
 
 永が警戒しながら聞くと、その感情を読み取ったのか珪はさらに笑って語る。
 
「そりゃあ、知ってますよ。雨都さんちの敵ですからね。ここに雨都を住まわせる時にも説明してもらったって話ですし」
 
 その話は確かに筋は通っていた。だが彼はそれ以上のことを知っていると永は肌で感じていたが、あえて表には出さなかった。
 
「そうですか。でも銀騎ではないと思います」
 
「ほう?その理由をお聞きしても?」
 
「──仕方ないですね」
 
 永はその安い誘導尋問に乗ってやることにした。
 
「僕らは銀騎とつい最近まで揉めていました。
 色々あったんですけど──当主の孫娘を救う手伝いを僕らがして、偶然ですけどライくんが鵺になったことで力を示し、銀騎が降参する形で僕らとは和解しました。
 今も銀騎の次期当主がバックアップしてくれていますから、この期に及んで僕らを害することはしないと思います」
 
 すると珪は腕を組んで更に永に注目した。
 
「へえ……興味深い話ですねえ。詳しくお聞きしたいな」
 
「お断りします」
 
 にっこり笑い返して永が言うと、珪は少し眉を顰めた後挑戦的な物言いで応えた。
 
「おや。銀騎と同盟関係にあるとはいえ、雨都は君達の恩人。そしてこの里は雨都の恩人のようなものだ。恩人の恩人がお願いしているのに?」
 
「雨都の方にならお話します。失礼ですけど藤生や眞瀬木の方と僕らはまだそんなに親しくないですよね」
 
 さらににこにこ笑って永がきっぱり断るので、珪も満面の笑みを浮かべていた。
 
 そのやり取りを見て、蕾生は星弥せいやはるかの口喧嘩の方が百倍マシだと怖気とともに思った。







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