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第二章
2-29 禁句
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「珪!いいかげんに黙りなさい!差し出がましいぞ!」
ついに墨砥が叱責すると、珪はあっさりと引き下がった。
「申し訳ありません」
「珪ちゃんも我慢できなくて困った子ね。周防さん、私に免じて許してやってちょうだい」
「はあ……」
康乃ののんびりとした口調で毒気を抜かれた永は生返事で感情を持て余していた。そんな様子に梢賢はそわそわと落ち着かない。
「まあ、話のついでだから銀騎さんについての私の考えを言えば、銀騎さんはここの結界を発見してはいないんでしょうからこの件には関係ないと思うわ」
「その通りだと思います。次期当主も雨都についての現在の情報は持っていないようでした」
永が頷きながら答えると、また珪が含み笑いをしつつ口を挟む。
「けれど君達は彼らのバックアップを受けてここに来たんでしょう?すでにこの里の所在は報告済みでしょうし──」
「それは、そうですけど……」
困ったな、どう言えばこいつは大人しくなってくれるんだ、と永が考えていると、墨砥が更に激昂して怒鳴った。
「珪!」
だが珪はそれを無視して侮蔑を含んだ声で言う。
「鍵を壊さずに普通の人間が入れますか?銀騎が式神でも使えば容易でしょう?あいつらの鵺に対する執着を、周防くんは甘く見ているのでは?」
「……」
あまりに遠慮のない物言いに、永は衝撃とともに怒りを感じていた。こいつに銀騎の何がわかると言うのだろう。
そして蕾生もその隣で激しい怒りを携えて珪を睨む。
「珪!!」
怒鳴る墨砥の声は終いには掠れてしまう程だった。だが、そんな父の怒りなどどこ吹く風で、珪は薄く笑っている。
「珪ちゃん、言い過ぎですよ。年少者を煽るなんて関心しないわね」
遂には康乃が諌めたことで珪はやっと頭を下げた。
「申し訳ありません」
少しの静寂の後、柊達が呟くように言った。
「では、銀騎の可能性は薄いという彼の言葉を信じるとして、他に誰が──?」
それにまたしても珪が挑発的な顔で答える。
「銀騎でないなら、後は──雨辺ですかね?」
それは爆弾投下にも等しい発言だった。柊達も橙子も楠俊でさえも、目を大きく見開いて珪を睨んでいた。
「珪!!お前はどういうつもりだ!もういい、出ていきなさい!」
怒りで倒れるのではないかと思われるくらいに激昂する墨砥を他所に、康乃は大きな溜息をついて立ち上がった。
「もう結構です。話し合いにならないわ。今日はおしまい」
「御前!申し訳ありません!」
墨砥の土下座も無視して、康乃は珪に冷たく言い放つ。
「珪ちゃん、しばらく藤生への出入りを禁止します。よく反省なさい」
珪は無言で土下座した。
それを一瞥した後、康乃は大広間を出て行った。
「橙子殿、この度は申し訳ない」
「いえ……」
墨砥が頭を下げて謝るもその怒りは収まらないようで、橙子はずっと珪を睨んでいた。
「珪、帰るぞ!」
「はいはい」
台風の目のような親子はそそくさとその場を退出した。
===============================
お読みいただきありがとうございます
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ついに墨砥が叱責すると、珪はあっさりと引き下がった。
「申し訳ありません」
「珪ちゃんも我慢できなくて困った子ね。周防さん、私に免じて許してやってちょうだい」
「はあ……」
康乃ののんびりとした口調で毒気を抜かれた永は生返事で感情を持て余していた。そんな様子に梢賢はそわそわと落ち着かない。
「まあ、話のついでだから銀騎さんについての私の考えを言えば、銀騎さんはここの結界を発見してはいないんでしょうからこの件には関係ないと思うわ」
「その通りだと思います。次期当主も雨都についての現在の情報は持っていないようでした」
永が頷きながら答えると、また珪が含み笑いをしつつ口を挟む。
「けれど君達は彼らのバックアップを受けてここに来たんでしょう?すでにこの里の所在は報告済みでしょうし──」
「それは、そうですけど……」
困ったな、どう言えばこいつは大人しくなってくれるんだ、と永が考えていると、墨砥が更に激昂して怒鳴った。
「珪!」
だが珪はそれを無視して侮蔑を含んだ声で言う。
「鍵を壊さずに普通の人間が入れますか?銀騎が式神でも使えば容易でしょう?あいつらの鵺に対する執着を、周防くんは甘く見ているのでは?」
「……」
あまりに遠慮のない物言いに、永は衝撃とともに怒りを感じていた。こいつに銀騎の何がわかると言うのだろう。
そして蕾生もその隣で激しい怒りを携えて珪を睨む。
「珪!!」
怒鳴る墨砥の声は終いには掠れてしまう程だった。だが、そんな父の怒りなどどこ吹く風で、珪は薄く笑っている。
「珪ちゃん、言い過ぎですよ。年少者を煽るなんて関心しないわね」
遂には康乃が諌めたことで珪はやっと頭を下げた。
「申し訳ありません」
少しの静寂の後、柊達が呟くように言った。
「では、銀騎の可能性は薄いという彼の言葉を信じるとして、他に誰が──?」
それにまたしても珪が挑発的な顔で答える。
「銀騎でないなら、後は──雨辺ですかね?」
それは爆弾投下にも等しい発言だった。柊達も橙子も楠俊でさえも、目を大きく見開いて珪を睨んでいた。
「珪!!お前はどういうつもりだ!もういい、出ていきなさい!」
怒りで倒れるのではないかと思われるくらいに激昂する墨砥を他所に、康乃は大きな溜息をついて立ち上がった。
「もう結構です。話し合いにならないわ。今日はおしまい」
「御前!申し訳ありません!」
墨砥の土下座も無視して、康乃は珪に冷たく言い放つ。
「珪ちゃん、しばらく藤生への出入りを禁止します。よく反省なさい」
珪は無言で土下座した。
それを一瞥した後、康乃は大広間を出て行った。
「橙子殿、この度は申し訳ない」
「いえ……」
墨砥が頭を下げて謝るもその怒りは収まらないようで、橙子はずっと珪を睨んでいた。
「珪、帰るぞ!」
「はいはい」
台風の目のような親子はそそくさとその場を退出した。
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