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第二章
2-30 瑠深と剛太
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眞瀬木親子が退出して遠慮のなくなった蕾生は素直に嫌悪を表した。
「あいつ、マジむかつくな」
「うん……ライくん、よく我慢できたねえ」
「なんだよ、俺だってTKOくらい守れる」
「うんうん、それを言うならTPOだから。TKOだとノックアウトしちゃってるから」
蕾生の真面目なボケが今の永には救いだった。怒りの感情が少し浄化された気分だった。
「いやあ、なんだかすまんかったなあ。お二人さん」
そこへ更に呑気な声で梢賢がやってくるので、永はわざと文句を言ってやった。
「ほんとだよ。吊し上げ食った挙句に挑発までされてさあ」
「珪兄やんもなあ、前はあんな人やなかったんやけどなあ」
永は更に梢賢に近寄って、聞き取れるギリギリの小声で言った。
「あの人、何者なの?わざと雨辺まで話題にあげて」
「ああ……後で話したるわ」
溜息混じりにうんざりしている梢賢に橙子が厳しい声で言った。
「梢賢、帰りますよ」
「おっす!」
全員で藤生の玄関出ると、眞瀬木瑠深が神妙な面持ちで楠俊に話しかけた。
「終わったんですか?父と兄が凄い剣幕で出ていったけど……」
「うん、ちょっと白熱しちゃってね」
「また兄がやらかしたんでしょ?」
「はは。まあ、今の彼の意見は無視できないからねえ」
楠俊の立場では愛想笑いで切り抜けることしかできない。
瑠深は固い表情で歩いてくる柊達と橙子に頭を下げた。
「おじさま、おばさま、すみません」
「あ、うむ。まあ、我々は康乃様に従うだけだ」
柊達が威厳をこめて応対する横を通り過ぎて橙子は歩いて行った。
「──先に帰ります」
「ああ、待ってよ、橙子しゃん!」
すると柊達は情けない声を出しながら慌てて橙子の後を追っていった。
「うん?」
今まで見たことのない柊達の行動に永が驚いていると、梢賢が苦笑しながら教えてくれた。
「うちの父ちゃん、ほんまはあれが本性やねん。母ちゃんには絶対逆らわずに甘えてんねん。でもそれだと威厳がないから他所の人の前ではイカツイねん」
「あ、そうなの……」
あんな強面がカカア天下で恐妻家だとは、永も蕾生も意外で驚いていた。
「……」
ふと、蕾生は自分の下の方で視線を感じた。藤生剛太が丸い瞳でこちらを見つめている。
「ん?なんか用か」
剛太を見下ろして声をかけたせいで、剛太は焦って蕾生から遠のき、瑠深の後ろに隠れてしまった。
「ゴウちゃん、どうしたの?ちょっとあんた、でっかい図体で子どもを威圧するんじゃないわよ!」
すると代わりに瑠深が吠える。まるで我が子を守る母虎の様だった。
「してねえよ!」
つられて蕾生も声を荒げてしまったので、剛太はますます小さくなって隠れる。
「まま、ライくん、どうどう。すいませんね、うちの連れが」
見かねた永が宥めに入ると、瑠深は無遠慮に永をジロジロ見た後、軽く睨んだ。
「あんたはあんたで胡散臭いわね。馬鹿の梢賢は丸めこめても眞瀬木はそうはいかないわよ」
「おおー……」
ハッキリと敵意を表され、永は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。さすがに女子相手には怒れない。
「ルミ!うちのお客さんに何してくれてんねん!」
やっと梢賢が仲裁に入ると、瑠深は剛太の手を引いて玄関へ向かった。
「会議は終わったんでしょ。ゴウちゃん、お家に入ろ。べー!!」
最後にあっかんべーを炸裂させて、玄関の戸はピシャリと閉められた。
「べー、ってお前はいくつやねん!」
「うーん、おもしろい人だね」
憤慨する梢賢とは逆に永は瑠深にちょっと興味を引かれていた。
「ほんますまんなあ、ライオンくん」
「別にいいけどよ」
蕾生はああいう聞く耳持たないタイプは何とも思わない。勝手にしていればいいと思っているので特に腹は立たなかった。
「さあ、僕達も帰るよ」
もう騒ぎは沢山、というような疲れた声で楠俊が三人を促す。
「はーい」
永は良い子のお返事をして、雨都家へ引き返していった。
===============================
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「あいつ、マジむかつくな」
「うん……ライくん、よく我慢できたねえ」
「なんだよ、俺だってTKOくらい守れる」
「うんうん、それを言うならTPOだから。TKOだとノックアウトしちゃってるから」
蕾生の真面目なボケが今の永には救いだった。怒りの感情が少し浄化された気分だった。
「いやあ、なんだかすまんかったなあ。お二人さん」
そこへ更に呑気な声で梢賢がやってくるので、永はわざと文句を言ってやった。
「ほんとだよ。吊し上げ食った挙句に挑発までされてさあ」
「珪兄やんもなあ、前はあんな人やなかったんやけどなあ」
永は更に梢賢に近寄って、聞き取れるギリギリの小声で言った。
「あの人、何者なの?わざと雨辺まで話題にあげて」
「ああ……後で話したるわ」
溜息混じりにうんざりしている梢賢に橙子が厳しい声で言った。
「梢賢、帰りますよ」
「おっす!」
全員で藤生の玄関出ると、眞瀬木瑠深が神妙な面持ちで楠俊に話しかけた。
「終わったんですか?父と兄が凄い剣幕で出ていったけど……」
「うん、ちょっと白熱しちゃってね」
「また兄がやらかしたんでしょ?」
「はは。まあ、今の彼の意見は無視できないからねえ」
楠俊の立場では愛想笑いで切り抜けることしかできない。
瑠深は固い表情で歩いてくる柊達と橙子に頭を下げた。
「おじさま、おばさま、すみません」
「あ、うむ。まあ、我々は康乃様に従うだけだ」
柊達が威厳をこめて応対する横を通り過ぎて橙子は歩いて行った。
「──先に帰ります」
「ああ、待ってよ、橙子しゃん!」
すると柊達は情けない声を出しながら慌てて橙子の後を追っていった。
「うん?」
今まで見たことのない柊達の行動に永が驚いていると、梢賢が苦笑しながら教えてくれた。
「うちの父ちゃん、ほんまはあれが本性やねん。母ちゃんには絶対逆らわずに甘えてんねん。でもそれだと威厳がないから他所の人の前ではイカツイねん」
「あ、そうなの……」
あんな強面がカカア天下で恐妻家だとは、永も蕾生も意外で驚いていた。
「……」
ふと、蕾生は自分の下の方で視線を感じた。藤生剛太が丸い瞳でこちらを見つめている。
「ん?なんか用か」
剛太を見下ろして声をかけたせいで、剛太は焦って蕾生から遠のき、瑠深の後ろに隠れてしまった。
「ゴウちゃん、どうしたの?ちょっとあんた、でっかい図体で子どもを威圧するんじゃないわよ!」
すると代わりに瑠深が吠える。まるで我が子を守る母虎の様だった。
「してねえよ!」
つられて蕾生も声を荒げてしまったので、剛太はますます小さくなって隠れる。
「まま、ライくん、どうどう。すいませんね、うちの連れが」
見かねた永が宥めに入ると、瑠深は無遠慮に永をジロジロ見た後、軽く睨んだ。
「あんたはあんたで胡散臭いわね。馬鹿の梢賢は丸めこめても眞瀬木はそうはいかないわよ」
「おおー……」
ハッキリと敵意を表され、永は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。さすがに女子相手には怒れない。
「ルミ!うちのお客さんに何してくれてんねん!」
やっと梢賢が仲裁に入ると、瑠深は剛太の手を引いて玄関へ向かった。
「会議は終わったんでしょ。ゴウちゃん、お家に入ろ。べー!!」
最後にあっかんべーを炸裂させて、玄関の戸はピシャリと閉められた。
「べー、ってお前はいくつやねん!」
「うーん、おもしろい人だね」
憤慨する梢賢とは逆に永は瑠深にちょっと興味を引かれていた。
「ほんますまんなあ、ライオンくん」
「別にいいけどよ」
蕾生はああいう聞く耳持たないタイプは何とも思わない。勝手にしていればいいと思っているので特に腹は立たなかった。
「さあ、僕達も帰るよ」
もう騒ぎは沢山、というような疲れた声で楠俊が三人を促す。
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