転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第二章

2-34 理想と現実

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「でもよ、結局藤絹ふじきぬってのは何なんだ?肝心の原材料を説明できねえと世間の消費者は納得しねえだろ」
 
「ライくん、鋭い!確かに、身につけるものの原材料は大事だよ。アレルギーのある人だっているだろうし」
 
 蕾生らいおの投げた疑問をはるかが大袈裟に褒めそやして追随すると、梢賢しょうけんは顔をしかめて頷いた。
 
「そこよ、問題は。それをどうするかって里中の大人が大揉めしてんねん」
 
「具体的にはどう揉めてるんですか?」
 
「まずけい兄やんの考えは、製法は特許申請中の企業秘密って言い張ることやね。もしくは上手くでっち上げることも考えてるらしいで」
 
「急にきな臭くなりましたね」
 
 鈴心すずねが疑いの目を向けると、永も話にならないと言うように肩を竦めた。
 
「そんなことできる訳ない。嘘で固められた商品を買う人がいると思う?消費者を舐めてるよ」
 
「せやねん。だから藤絹の製法を明かせって主張する者、儲かるならなんでもいいっていう楽観者、そのふたつに分かれて揉めとるんよ」
 
藤生ふじきの考えはどうなんです?」
 
康乃やすの様は製法は明かせないの一点張りや。墨砥ぼくとのおっちゃんも珪兄やんもそっち側やな」
 
「それじゃあ、大量生産して安く売るなんて夢のまた夢じゃない?」
 
 肝心の藤生の同意が得られないなら、珪の事業はまさに絵に描いた餅だ。梢賢もそこのところが頭痛の種のような顔をしていた。
 
「最終目的はそうなんやろうけど、一部の里人が納得してへんからな。だけど実績を上げないと事業に説得力が出んやろ?だから苦し紛れに今は限られた富裕層にべらぼうな額で藤絹を売っとる」
 
 理想と現実、あまりの違いに鈴心も蕾生も舌を巻いた。
 
「どんどんきな臭くなるんですが」
 
「最初の景気のいい話と大違いだな」
 
「そこが現実のやっかいなとこやな。出自不明だけど綺麗だからいいっていう金持ちしか買わんもんに未来はないよ。けど、今はそれで里が潤ってるから珪兄やんがヒーローなのは変わらん」
 
「一応結果が出てるから強気なんですね……」
 
 鈴心は少し考え込んでいるが、蕾生は難しい金儲けの話よりも気になることがある。
 
「梢賢はどうなんだ?」
 
「うん?」








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