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第二章
2-35 守り神
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「藤絹の正体だよ。知りたいのか?」
蕾生にとっての関心ごとは、梢賢はその現状をどう思っているか、だった。
「まあ、そら知れるもんならなあ……。けどこの件に関しては基本雨都に発言権はあらへんのよ。父ちゃんと母ちゃんが会議に出席してるのは中立として議長的なことしとるだけでなあ」
蕾生や永にとっては梢賢が村をどうしたいのかが重要であるのに、肝心の梢賢はどこか他人事で曖昧な回答だった。
なおも永は食い下がる。
「想像したことは?梢賢くんだって藤絹は身近なものなんでしょ?」
「なんや、ぐいぐい来るのう。そやなあ、えーっと、うーんと、言うてもうても大丈夫かなあ……」
「なんだよ、歯切れわりいな」
「言ってしまいなさい。楽になりなさい」
蕾生と鈴心も梢賢に注目している。三人に詰め寄られる様はまるで取り調べのようだった。
「うーん、美少女にそこまで詰められると言うてしまいそう……」
「……」
鈴心の無言の圧が勝利を収めた。
「わかった、言うわ。この里には守り神がおんねん。資実姫様っていうな」
「たちみ……聞いたことないな」
永はこの村に来てから初めて聞く単語の連続で少し戸惑っている。それだけ麓紫村が独自の文化を築いている証拠だ。
「せやろな。元は成実家の守り神で、ここに落ち着いた時に里全体で祀るようになった独自の神様や。今も御神体は藤生家にある。
それが仏教徒であるうちのご先祖がここに来た時に資実姫様が如来様になって、それを拝むためにこの寺が出来たらしいで」
「言うなれば資実如来、ですか」
「寺の名前が実緒寺なのは?」
雨都が持ち込んだ仏教の教えを村の信仰に当てはめたのだろう。おそらく独自の神仏習合が起こったのだと鈴心も永も理解した。
「簡単に言うとな、里では死んだ者は資実姫様の弟子になるんや。で、その死んだ者を資実姫様の元へ導くのが実緒菩薩。寺はその名前を冠してる」
「村人と資実姫を繋ぐ仲介者ってことか。正に雨都にはうってつけの役割ってことだ」
「そうや。ここには独自の宗教が根づいとる」
二人とは理解の差がある蕾生には話題が逸れているような気がしていた。
「それと藤絹になんの関係があるんだ?」
「ここからがオレの想像やねんけど、藤生の絹糸は資実姫様からもたらされてるんやないかって思うねん」
「ええ!?」
驚く蕾生と違って、鈴心はある程度の予想をしていたようだった。
「資実姫は単なる偶像ではないと?」
「まあな。資実姫様は、何かの形で存在してる」
「根拠は?」
鈴心は生まれが銀騎の分家なのですんなりと超常的な説明を受け入れるが、永はもっと現実的だ。厳しい顔で梢賢に聞いた。
===============================
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蕾生にとっての関心ごとは、梢賢はその現状をどう思っているか、だった。
「まあ、そら知れるもんならなあ……。けどこの件に関しては基本雨都に発言権はあらへんのよ。父ちゃんと母ちゃんが会議に出席してるのは中立として議長的なことしとるだけでなあ」
蕾生や永にとっては梢賢が村をどうしたいのかが重要であるのに、肝心の梢賢はどこか他人事で曖昧な回答だった。
なおも永は食い下がる。
「想像したことは?梢賢くんだって藤絹は身近なものなんでしょ?」
「なんや、ぐいぐい来るのう。そやなあ、えーっと、うーんと、言うてもうても大丈夫かなあ……」
「なんだよ、歯切れわりいな」
「言ってしまいなさい。楽になりなさい」
蕾生と鈴心も梢賢に注目している。三人に詰め寄られる様はまるで取り調べのようだった。
「うーん、美少女にそこまで詰められると言うてしまいそう……」
「……」
鈴心の無言の圧が勝利を収めた。
「わかった、言うわ。この里には守り神がおんねん。資実姫様っていうな」
「たちみ……聞いたことないな」
永はこの村に来てから初めて聞く単語の連続で少し戸惑っている。それだけ麓紫村が独自の文化を築いている証拠だ。
「せやろな。元は成実家の守り神で、ここに落ち着いた時に里全体で祀るようになった独自の神様や。今も御神体は藤生家にある。
それが仏教徒であるうちのご先祖がここに来た時に資実姫様が如来様になって、それを拝むためにこの寺が出来たらしいで」
「言うなれば資実如来、ですか」
「寺の名前が実緒寺なのは?」
雨都が持ち込んだ仏教の教えを村の信仰に当てはめたのだろう。おそらく独自の神仏習合が起こったのだと鈴心も永も理解した。
「簡単に言うとな、里では死んだ者は資実姫様の弟子になるんや。で、その死んだ者を資実姫様の元へ導くのが実緒菩薩。寺はその名前を冠してる」
「村人と資実姫を繋ぐ仲介者ってことか。正に雨都にはうってつけの役割ってことだ」
「そうや。ここには独自の宗教が根づいとる」
二人とは理解の差がある蕾生には話題が逸れているような気がしていた。
「それと藤絹になんの関係があるんだ?」
「ここからがオレの想像やねんけど、藤生の絹糸は資実姫様からもたらされてるんやないかって思うねん」
「ええ!?」
驚く蕾生と違って、鈴心はある程度の予想をしていたようだった。
「資実姫は単なる偶像ではないと?」
「まあな。資実姫様は、何かの形で存在してる」
「根拠は?」
鈴心は生まれが銀騎の分家なのですんなりと超常的な説明を受け入れるが、永はもっと現実的だ。厳しい顔で梢賢に聞いた。
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