転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
55 / 174
第二章

2-35 守り神

しおりを挟む
藤絹ふじきぬの正体だよ。知りたいのか?」
 
 蕾生らいおにとっての関心ごとは、梢賢しょうけんはその現状をどう思っているか、だった。
 
「まあ、そら知れるもんならなあ……。けどこの件に関しては基本雨都うとに発言権はあらへんのよ。父ちゃんと母ちゃんが会議に出席してるのは中立として議長的なことしとるだけでなあ」
 
 蕾生やはるかにとっては梢賢が村をどうしたいのかが重要であるのに、肝心の梢賢はどこか他人事で曖昧な回答だった。
 なおも永は食い下がる。
 
「想像したことは?梢賢くんだって藤絹は身近なものなんでしょ?」
 
「なんや、ぐいぐい来るのう。そやなあ、えーっと、うーんと、言うてもうても大丈夫かなあ……」
 
「なんだよ、歯切れわりいな」
 
「言ってしまいなさい。楽になりなさい」
 
 蕾生と鈴心すずねも梢賢に注目している。三人に詰め寄られる様はまるで取り調べのようだった。
 
「うーん、美少女にそこまで詰められると言うてしまいそう……」
 
「……」
 鈴心の無言の圧が勝利を収めた。
 
「わかった、言うわ。この里には守り神がおんねん。資実姫たちみひめ様っていうな」
 
「たちみ……聞いたことないな」
 
 永はこの村に来てから初めて聞く単語の連続で少し戸惑っている。それだけ麓紫村ろくしむらが独自の文化を築いている証拠だ。
 
「せやろな。元は成実なるみ家の守り神で、ここに落ち着いた時に里全体で祀るようになった独自の神様や。今も御神体は藤生ふじき家にある。
 それが仏教徒であるうちのご先祖がここに来た時に資実姫様が如来様になって、それを拝むためにこの寺が出来たらしいで」
 
「言うなれば資実如来、ですか」
 
「寺の名前が実緒みお寺なのは?」
 
 雨都が持ち込んだ仏教の教えを村の信仰に当てはめたのだろう。おそらく独自の神仏習合が起こったのだと鈴心も永も理解した。
 
「簡単に言うとな、里では死んだ者は資実姫様の弟子になるんや。で、その死んだ者を資実姫様の元へ導くのが実緒菩薩。寺はその名前を冠してる」
 
「村人と資実姫を繋ぐ仲介者ってことか。正に雨都にはうってつけの役割ってことだ」
 
「そうや。ここには独自の宗教が根づいとる」
 
 二人とは理解の差がある蕾生には話題が逸れているような気がしていた。
 
「それと藤絹になんの関係があるんだ?」
 
「ここからがオレの想像やねんけど、藤生の絹糸は資実姫様からもたらされてるんやないかって思うねん」
 
「ええ!?」
 
 驚く蕾生と違って、鈴心はある程度の予想をしていたようだった。
 
「資実姫は単なる偶像ではないと?」
 
「まあな。資実姫様は、何かの形で存在してる」
 
「根拠は?」
 
 鈴心は生まれが銀騎しらきの分家なのですんなりと超常的な説明を受け入れるが、永はもっと現実的だ。厳しい顔で梢賢に聞いた。








===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...