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第三章
3-23 二百五十年前
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「それで?銀騎がスカウトしてどうなったんだよ」
永は皓矢に話の続きを急かした。
「眞瀬木家は民間出身の呪術師だ。衰退しているとはいえ、陰陽師の肩書を持つ銀騎の誘いには両手を挙げて喜んだそうだ。そして当時の当主の長男をうちに修行に出したとある」
「へえー、銀騎はお弟子さんも集めたんだあ」
嫌味を込めた永の言葉を皓矢は気づかないフリをして続けた。
「銀騎の下で働いてもらうためにはうちの術や理を学んでもらう必要がある。当時は全国から術者の子息が集められて教育を施したそうだ」
「でも良かったのか?よくわかんねえけど、他人に自分家の手の内を教えるなんて危ねえんじゃ?」
「集められた子息達は二度と実家に戻ることはない」
蕾生の質問に皓矢は平然と言ってのけた。それに永はまた嫌味で反応する。
「出た。卑怯なやつ」
「当時は切羽詰まっていたからね。子息の実家にはきちんと説明しているはずだけど」
「それで、眞瀬木の長男はどうなったんですか?」
鈴心の問いに皓矢は溜息混じりで答えた。
「それが、どうもこの長男が問題でね。詳しい経緯は記されていないんだけど、銀騎に来た後ごく短い期間で出奔している」
「ああ……それが確執ってこと?」
「だろうね。うちにある記録はこちら側から書いたものだから、眞瀬木が悪いようになっているけど、真相はわからない」
「まあ、呪術師なんてどいつもこいつも良くはないよ」
公平を気取った皓矢の説明も永にしてみれば同じ穴の貉である。
「はは、耳が痛いね。だけど、うちにも言い分はある。眞瀬木は出奔する際、銀騎から鵺《ぬえ》の遺骸の一部を持ち出している」
「──!」
皓矢の言葉に鈴心は大きな衝撃を受けていた。
「じゃあ、眞瀬木が悪いんじゃね?」
「問題は、そこじゃないよ」
のんびり言った蕾生の言葉を永が真面目な顔で否定した。画面上の皓矢も今までで一番神妙な顔つきになっている。
「そう。出奔した眞瀬木家の長男が鵺の遺骸と銀騎の技術を麓紫村に持ち帰ったんだとしたら……」
「眞瀬木の技術、銀騎の技術、鵺の未知数の力が合わさって、独特のやばい術に進化を遂げた──なら、あの変な結界も説明がつく」
永の考えを捕捉するように皓矢も言った。
「そういう雑種の力は、時として我々のような正当な陰陽師には想像もつかないような術を作り上げる」
「うわー、自分で言った。高飛車発言!」
永がそう揶揄すると、皓矢は苦笑していた。
「今のは眞瀬木を褒めたんだよ?それにこの件があってからうちもオリジナリティのある術の開発を始めた。それを完成させたのが僕の父だ」
「マジかよ、超天才じゃん。どうりでお前の使う術って変な呪文だと思った」
皓矢が使う陰陽術はその祝詞からまず違う。永は今まで使われてきた一般的なものとは一線を画す皓矢の術を思い出していた。
「父の作り上げた術体系の使い手は、僕と師匠だけ。あ、星弥はまだタマゴだね」
「ではお兄様の力なら麓紫村を探せたのでは?どうして放っておいたんです?」
鈴心の素朴な疑問に皓矢は呑気に答えた。
「んー、それを言われると困るなあ。なにせ二百五十年前の出来事だったからねえ。僕もそんな古い記録を理由もなくわざわざ読んだりしないしねえ」
「なんだよ、ちゃんと代々言い伝えろよな。だから今になって問題になるんだ」
「それは申し訳ない。そんなに眞瀬木とうちの因縁は問題なのかい?」
「もう、ちょっと酷いよ。心して聞けよなあ」
そうして永は文句を言いながら雨辺家についての現状を皓矢に説明した。
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永は皓矢に話の続きを急かした。
「眞瀬木家は民間出身の呪術師だ。衰退しているとはいえ、陰陽師の肩書を持つ銀騎の誘いには両手を挙げて喜んだそうだ。そして当時の当主の長男をうちに修行に出したとある」
「へえー、銀騎はお弟子さんも集めたんだあ」
嫌味を込めた永の言葉を皓矢は気づかないフリをして続けた。
「銀騎の下で働いてもらうためにはうちの術や理を学んでもらう必要がある。当時は全国から術者の子息が集められて教育を施したそうだ」
「でも良かったのか?よくわかんねえけど、他人に自分家の手の内を教えるなんて危ねえんじゃ?」
「集められた子息達は二度と実家に戻ることはない」
蕾生の質問に皓矢は平然と言ってのけた。それに永はまた嫌味で反応する。
「出た。卑怯なやつ」
「当時は切羽詰まっていたからね。子息の実家にはきちんと説明しているはずだけど」
「それで、眞瀬木の長男はどうなったんですか?」
鈴心の問いに皓矢は溜息混じりで答えた。
「それが、どうもこの長男が問題でね。詳しい経緯は記されていないんだけど、銀騎に来た後ごく短い期間で出奔している」
「ああ……それが確執ってこと?」
「だろうね。うちにある記録はこちら側から書いたものだから、眞瀬木が悪いようになっているけど、真相はわからない」
「まあ、呪術師なんてどいつもこいつも良くはないよ」
公平を気取った皓矢の説明も永にしてみれば同じ穴の貉である。
「はは、耳が痛いね。だけど、うちにも言い分はある。眞瀬木は出奔する際、銀騎から鵺《ぬえ》の遺骸の一部を持ち出している」
「──!」
皓矢の言葉に鈴心は大きな衝撃を受けていた。
「じゃあ、眞瀬木が悪いんじゃね?」
「問題は、そこじゃないよ」
のんびり言った蕾生の言葉を永が真面目な顔で否定した。画面上の皓矢も今までで一番神妙な顔つきになっている。
「そう。出奔した眞瀬木家の長男が鵺の遺骸と銀騎の技術を麓紫村に持ち帰ったんだとしたら……」
「眞瀬木の技術、銀騎の技術、鵺の未知数の力が合わさって、独特のやばい術に進化を遂げた──なら、あの変な結界も説明がつく」
永の考えを捕捉するように皓矢も言った。
「そういう雑種の力は、時として我々のような正当な陰陽師には想像もつかないような術を作り上げる」
「うわー、自分で言った。高飛車発言!」
永がそう揶揄すると、皓矢は苦笑していた。
「今のは眞瀬木を褒めたんだよ?それにこの件があってからうちもオリジナリティのある術の開発を始めた。それを完成させたのが僕の父だ」
「マジかよ、超天才じゃん。どうりでお前の使う術って変な呪文だと思った」
皓矢が使う陰陽術はその祝詞からまず違う。永は今まで使われてきた一般的なものとは一線を画す皓矢の術を思い出していた。
「父の作り上げた術体系の使い手は、僕と師匠だけ。あ、星弥はまだタマゴだね」
「ではお兄様の力なら麓紫村を探せたのでは?どうして放っておいたんです?」
鈴心の素朴な疑問に皓矢は呑気に答えた。
「んー、それを言われると困るなあ。なにせ二百五十年前の出来事だったからねえ。僕もそんな古い記録を理由もなくわざわざ読んだりしないしねえ」
「なんだよ、ちゃんと代々言い伝えろよな。だから今になって問題になるんだ」
「それは申し訳ない。そんなに眞瀬木とうちの因縁は問題なのかい?」
「もう、ちょっと酷いよ。心して聞けよなあ」
そうして永は文句を言いながら雨辺家についての現状を皓矢に説明した。
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