転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
83 / 174
第三章

3-25 門限

しおりを挟む
 皓矢こうやとの電話を切って数分も経たずに梢賢しょうけんが戻ってきた。
 のんびりした口調で手を上げて近寄ってくる様に三人はすみれとはさほど揉めずに収めたようだと思った。
 
「おおーい、戻ったでえ」
 
「あ、梢賢くん。お疲れ」
 
「なんかわかったか?」
 
「うん。すんごいことが」
 
「そうか。そらあ、良かったなあ」
 
 永が力強く頷いて答えても、梢賢は興味なさそうにのらりくらりとしている。
 わざとらしくて白々しいと蕾生らいおは思ったが、それが梢賢の立場でとれる態度なのだろうと理解してやることにした。
 
あいちゃんは大丈夫そうですか?」
 
「まあな、現状維持や。しばらくはしゃあないやろ」
 
「可哀想に。あんな親で……」
 
 藍を心配する鈴心すずねを見ても梢賢はそれ以上のフォローなどはしなかった。
 ドライに立ち回ることが梢賢のやり方なのかもしれない。そうやって俯瞰を貫いて最終的に何を終着点とするつもりなのか、はるかにはまだそれが見えなかった。
 
「ほな、ルミへの土産が腐る前に、里に戻ろか」
 
「そうだね。炎天下で動いたら疲れたよ」
 
「帰ればちょうどおやつの時間やな!」
 
 梢賢が下げているケーキ箱が入った紙袋を鈴心はじっと見つめていた。それはもう熱心に。
 
「おい、もの欲しそうに見んなよ」
 
「しっ、失礼な!私は街で一番高価なタルトのクオリティに興味があるだけです!」
 
 蕾生が嗜めると鈴心は真っ赤になって反論する。梢賢は肩をがっくり落としていた。
 
「あー、もう、ほんと散財やわ。財布すっからかんよ」
 
「じゃ、最後に村まで頑張りますか!」
 
 そうして四人は自転車を停めてある駅前へ向かう。その後は来た時と同様以上の地獄が永を待っていた。

 
 麓紫村ろくしむらに着いたのは午後の四時を過ぎていた。村は小高い山の上にあるので、街から向かう方こそが本当の地獄だった。ママチャリで山道を一時間以上かけて登ってきた永は既に虫の息だ。
 
「ぜー、へええぇ……」
 
「ハ、ハル様大丈夫ですか?」
 
「な、なにがぁ!?全然余裕だけどぉ!?」
 
 あろうことか鈴心にすらキレ散らかす始末で、おろおろする鈴心に蕾生は溜息が出た。
 
「ほい、ごくろーさん。じゃ、まずはルミんとこやな」
 
 涼しい顔で言う梢賢に文句を言う気力も永にはない。ママチャリは鈴心が押して、蕾生は永を支えながら眞瀬木ませきの家の前までやってきた。
 
 するとその家の前で恐ろしい顔で仁王立ちしている者がいる。瑠深るみだった。
 
「ええ、何々、怖いんやけど!」
 
「しょーおーけーえーん」
 
「ひいぃ!」
 
「あんた達こんな時間まで何やってたの!」
 
 ビビる梢賢を他所に蕾生も鈴心も首を傾げる。
 
「そんなに遅くねえだろ」
 
「夕方までには帰ってこれましたよ」
 
「都会の不良どもは黙ってな!里の門限は三時!そんなの赤ん坊だって知ってるよ!」
 
 瑠深の言い分は蕾生達にとってみれば理不尽だった。そんなことは知らなかったのだから。梢賢はそれを悪びれもせずケーキ箱をちらつかせながら瑠深の機嫌をとった。
 
「まま、ま、ルミちゃあん、ほれ」
 
「うっ!」
 
 燦然と輝くパティスリーの店名ロゴ入りの紙袋を見て瑠深は瞬時に黙った。
 
「お代官様、ここはひとつこれで」
 
「ま、まあ仕方ないね。お客人は慣れない道だったでしょうから!」
 
「ルミ様、感謝やでえ」







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...