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第三章
3-25 門限
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皓矢との電話を切って数分も経たずに梢賢が戻ってきた。
のんびりした口調で手を上げて近寄ってくる様に三人は菫とはさほど揉めずに収めたようだと思った。
「おおーい、戻ったでえ」
「あ、梢賢くん。お疲れ」
「なんかわかったか?」
「うん。すんごいことが」
「そうか。そらあ、良かったなあ」
永が力強く頷いて答えても、梢賢は興味なさそうにのらりくらりとしている。
わざとらしくて白々しいと蕾生は思ったが、それが梢賢の立場でとれる態度なのだろうと理解してやることにした。
「藍ちゃんは大丈夫そうですか?」
「まあな、現状維持や。しばらくはしゃあないやろ」
「可哀想に。あんな親で……」
藍を心配する鈴心を見ても梢賢はそれ以上のフォローなどはしなかった。
ドライに立ち回ることが梢賢のやり方なのかもしれない。そうやって俯瞰を貫いて最終的に何を終着点とするつもりなのか、永にはまだそれが見えなかった。
「ほな、ルミへの土産が腐る前に、里に戻ろか」
「そうだね。炎天下で動いたら疲れたよ」
「帰ればちょうどおやつの時間やな!」
梢賢が下げているケーキ箱が入った紙袋を鈴心はじっと見つめていた。それはもう熱心に。
「おい、もの欲しそうに見んなよ」
「しっ、失礼な!私は街で一番高価なタルトのクオリティに興味があるだけです!」
蕾生が嗜めると鈴心は真っ赤になって反論する。梢賢は肩をがっくり落としていた。
「あー、もう、ほんと散財やわ。財布すっからかんよ」
「じゃ、最後に村まで頑張りますか!」
そうして四人は自転車を停めてある駅前へ向かう。その後は来た時と同様以上の地獄が永を待っていた。
麓紫村に着いたのは午後の四時を過ぎていた。村は小高い山の上にあるので、街から向かう方こそが本当の地獄だった。ママチャリで山道を一時間以上かけて登ってきた永は既に虫の息だ。
「ぜー、へええぇ……」
「ハ、ハル様大丈夫ですか?」
「な、なにがぁ!?全然余裕だけどぉ!?」
あろうことか鈴心にすらキレ散らかす始末で、おろおろする鈴心に蕾生は溜息が出た。
「ほい、ごくろーさん。じゃ、まずはルミんとこやな」
涼しい顔で言う梢賢に文句を言う気力も永にはない。ママチャリは鈴心が押して、蕾生は永を支えながら眞瀬木の家の前までやってきた。
するとその家の前で恐ろしい顔で仁王立ちしている者がいる。瑠深だった。
「ええ、何々、怖いんやけど!」
「しょーおーけーえーん」
「ひいぃ!」
「あんた達こんな時間まで何やってたの!」
ビビる梢賢を他所に蕾生も鈴心も首を傾げる。
「そんなに遅くねえだろ」
「夕方までには帰ってこれましたよ」
「都会の不良どもは黙ってな!里の門限は三時!そんなの赤ん坊だって知ってるよ!」
瑠深の言い分は蕾生達にとってみれば理不尽だった。そんなことは知らなかったのだから。梢賢はそれを悪びれもせずケーキ箱をちらつかせながら瑠深の機嫌をとった。
「まま、ま、ルミちゃあん、ほれ」
「うっ!」
燦然と輝くパティスリーの店名ロゴ入りの紙袋を見て瑠深は瞬時に黙った。
「お代官様、ここはひとつこれで」
「ま、まあ仕方ないね。お客人は慣れない道だったでしょうから!」
「ルミ様、感謝やでえ」
===============================
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のんびりした口調で手を上げて近寄ってくる様に三人は菫とはさほど揉めずに収めたようだと思った。
「おおーい、戻ったでえ」
「あ、梢賢くん。お疲れ」
「なんかわかったか?」
「うん。すんごいことが」
「そうか。そらあ、良かったなあ」
永が力強く頷いて答えても、梢賢は興味なさそうにのらりくらりとしている。
わざとらしくて白々しいと蕾生は思ったが、それが梢賢の立場でとれる態度なのだろうと理解してやることにした。
「藍ちゃんは大丈夫そうですか?」
「まあな、現状維持や。しばらくはしゃあないやろ」
「可哀想に。あんな親で……」
藍を心配する鈴心を見ても梢賢はそれ以上のフォローなどはしなかった。
ドライに立ち回ることが梢賢のやり方なのかもしれない。そうやって俯瞰を貫いて最終的に何を終着点とするつもりなのか、永にはまだそれが見えなかった。
「ほな、ルミへの土産が腐る前に、里に戻ろか」
「そうだね。炎天下で動いたら疲れたよ」
「帰ればちょうどおやつの時間やな!」
梢賢が下げているケーキ箱が入った紙袋を鈴心はじっと見つめていた。それはもう熱心に。
「おい、もの欲しそうに見んなよ」
「しっ、失礼な!私は街で一番高価なタルトのクオリティに興味があるだけです!」
蕾生が嗜めると鈴心は真っ赤になって反論する。梢賢は肩をがっくり落としていた。
「あー、もう、ほんと散財やわ。財布すっからかんよ」
「じゃ、最後に村まで頑張りますか!」
そうして四人は自転車を停めてある駅前へ向かう。その後は来た時と同様以上の地獄が永を待っていた。
麓紫村に着いたのは午後の四時を過ぎていた。村は小高い山の上にあるので、街から向かう方こそが本当の地獄だった。ママチャリで山道を一時間以上かけて登ってきた永は既に虫の息だ。
「ぜー、へええぇ……」
「ハ、ハル様大丈夫ですか?」
「な、なにがぁ!?全然余裕だけどぉ!?」
あろうことか鈴心にすらキレ散らかす始末で、おろおろする鈴心に蕾生は溜息が出た。
「ほい、ごくろーさん。じゃ、まずはルミんとこやな」
涼しい顔で言う梢賢に文句を言う気力も永にはない。ママチャリは鈴心が押して、蕾生は永を支えながら眞瀬木の家の前までやってきた。
するとその家の前で恐ろしい顔で仁王立ちしている者がいる。瑠深だった。
「ええ、何々、怖いんやけど!」
「しょーおーけーえーん」
「ひいぃ!」
「あんた達こんな時間まで何やってたの!」
ビビる梢賢を他所に蕾生も鈴心も首を傾げる。
「そんなに遅くねえだろ」
「夕方までには帰ってこれましたよ」
「都会の不良どもは黙ってな!里の門限は三時!そんなの赤ん坊だって知ってるよ!」
瑠深の言い分は蕾生達にとってみれば理不尽だった。そんなことは知らなかったのだから。梢賢はそれを悪びれもせずケーキ箱をちらつかせながら瑠深の機嫌をとった。
「まま、ま、ルミちゃあん、ほれ」
「うっ!」
燦然と輝くパティスリーの店名ロゴ入りの紙袋を見て瑠深は瞬時に黙った。
「お代官様、ここはひとつこれで」
「ま、まあ仕方ないね。お客人は慣れない道だったでしょうから!」
「ルミ様、感謝やでえ」
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