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第四章
4-3 RPG①使徒の役目
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菫は少し焦っているようにも見えた。
「そう?でも麓紫村は不便じゃない?いくらこずえちゃんが後見人だからって、皆で村にいなくてもいいんじゃない?」
「えー……っと、でもほら、うちは寺だから部屋がたくさんあって都合がいいんですよねえ」
「そうねえ。うちみたいな小さなマンションじゃあ狭すぎて使徒様に失礼ですからねえ。やっぱり有宇儀様に相談しましょうね!」
「いやー、それは、どうなんですかねえ?伊藤さんのお手を煩わせるのもねえ?」
梢賢はかなり健闘している。ぐいぐい来る菫をのらりくらりと交わしていたが、今日の菫の積極性は格別だった。
「あら、大丈夫よ。使徒様に快適に過ごしていただくためですもの。有宇儀様ならちゃんとしてくださるわ」
「あの、その伊藤って人なんスけど、どういう人なんデスか?」
仕方なく蕾生が助け舟を出す。話題が変われば儲けものだ。
「そうねえ、メシア様に近い、とても上位にいらっしゃる方よ。私達親子を長年援助してくださっているの」
「援助?その……生活とかのデスか?」
「そうよ。最初から説明しないとわからないわね。私達雨辺家はかつてはうつろ神様の一番弟子だったの。昔むかしのお話ね」
「はあ……」
「でも、雨都の弾圧にあって麓紫村を追い出されてからは、隣のこの街でひっそりと生きてきた。真摯にうつろ神様を讃えながらね」
思いの外、菫の話は長く続いた。蕾生は興味のある振りをするのが苦痛ではあった。だがきちんと聞いておかないと後で永に報告しなければならないので懸命に耳を傾ける。
「私の両親がいた頃は、有宇儀様のような上位の方は見たことがなかったわ。中学の時に両親が亡くなったのだけど、その頃初めて有宇儀様が来てくださったの」
「ほう……」
梢賢もまた心の中で、もっと喋れと願いながら聞く。
今日は菫は随分とよく喋る。おそらくこちらを取り込もうと必死なのだろうが、逆に情報をとことん引き出してやると梢賢は意気込んだ。
「両親の葬儀や手続きなんかを全てやってくださった後、身寄りのなくなった私に後見人として生活費や全ての援助をしてくださると仰ったの」
「いきなり現れたんスか?」
「私にとっては突然だったけれど、有宇儀様は雨辺のことはずっと見守ってくださっていたそうなのよ。何故だかわかるかしら?」
菫はニヤリと口端を上げて勿体ぶる。こう言う時はのせるに限ると知っている梢賢はわざとしらばっくれた。
「なんでですかね?」
「もう、こずえちゃん!最初に言ったでしょ?雨辺はうつろ神様の一番弟子なんだって!だから特別なの。それに私には特に大切なお役目があるって!」
「なんスか、それ」
蕾生の天然の無知が功を奏していた。菫はさらに増長して身振りまでまじえて話す。
「私が産む子どもはうつろ神様の使徒になるだろうって!特に男子を産んだ暁には必ず上位の使徒として立派なお役目を果たすだろうって!」
興が乗り過ぎているとすら言っていい菫の様子にさすがの梢賢も開いた口が塞がらなかった。
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「そう?でも麓紫村は不便じゃない?いくらこずえちゃんが後見人だからって、皆で村にいなくてもいいんじゃない?」
「えー……っと、でもほら、うちは寺だから部屋がたくさんあって都合がいいんですよねえ」
「そうねえ。うちみたいな小さなマンションじゃあ狭すぎて使徒様に失礼ですからねえ。やっぱり有宇儀様に相談しましょうね!」
「いやー、それは、どうなんですかねえ?伊藤さんのお手を煩わせるのもねえ?」
梢賢はかなり健闘している。ぐいぐい来る菫をのらりくらりと交わしていたが、今日の菫の積極性は格別だった。
「あら、大丈夫よ。使徒様に快適に過ごしていただくためですもの。有宇儀様ならちゃんとしてくださるわ」
「あの、その伊藤って人なんスけど、どういう人なんデスか?」
仕方なく蕾生が助け舟を出す。話題が変われば儲けものだ。
「そうねえ、メシア様に近い、とても上位にいらっしゃる方よ。私達親子を長年援助してくださっているの」
「援助?その……生活とかのデスか?」
「そうよ。最初から説明しないとわからないわね。私達雨辺家はかつてはうつろ神様の一番弟子だったの。昔むかしのお話ね」
「はあ……」
「でも、雨都の弾圧にあって麓紫村を追い出されてからは、隣のこの街でひっそりと生きてきた。真摯にうつろ神様を讃えながらね」
思いの外、菫の話は長く続いた。蕾生は興味のある振りをするのが苦痛ではあった。だがきちんと聞いておかないと後で永に報告しなければならないので懸命に耳を傾ける。
「私の両親がいた頃は、有宇儀様のような上位の方は見たことがなかったわ。中学の時に両親が亡くなったのだけど、その頃初めて有宇儀様が来てくださったの」
「ほう……」
梢賢もまた心の中で、もっと喋れと願いながら聞く。
今日は菫は随分とよく喋る。おそらくこちらを取り込もうと必死なのだろうが、逆に情報をとことん引き出してやると梢賢は意気込んだ。
「両親の葬儀や手続きなんかを全てやってくださった後、身寄りのなくなった私に後見人として生活費や全ての援助をしてくださると仰ったの」
「いきなり現れたんスか?」
「私にとっては突然だったけれど、有宇儀様は雨辺のことはずっと見守ってくださっていたそうなのよ。何故だかわかるかしら?」
菫はニヤリと口端を上げて勿体ぶる。こう言う時はのせるに限ると知っている梢賢はわざとしらばっくれた。
「なんでですかね?」
「もう、こずえちゃん!最初に言ったでしょ?雨辺はうつろ神様の一番弟子なんだって!だから特別なの。それに私には特に大切なお役目があるって!」
「なんスか、それ」
蕾生の天然の無知が功を奏していた。菫はさらに増長して身振りまでまじえて話す。
「私が産む子どもはうつろ神様の使徒になるだろうって!特に男子を産んだ暁には必ず上位の使徒として立派なお役目を果たすだろうって!」
興が乗り過ぎているとすら言っていい菫の様子にさすがの梢賢も開いた口が塞がらなかった。
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