127 / 174
第五章
5-13 焦り
しおりを挟む
「ライから聞いた限りでは、星弥の時と似ているようですね」
「銀騎の孫娘か?じゃあ、彼女を助けたって言うのは……」
わなわなと震えながら梢賢がやっとそれだけ言うと、鈴心は頷いて続ける。
「星弥も詮充郎によってキクレー因子を植えつけられたデザインベビーです。星弥の実験は早い段階で失敗だとされていました。でも、私達と関わったせいで眠っていたキクレー因子が暴走して意識不明に陥りました」
「鵺化は、心身に重いストレスを与えられた時に起こる。これはライが何度もそうなっているから確かな情報だよ。あの時の銀騎さんも重大なストレスを抱えてた」
「菫が葵に与えたストレスは、相当重いものだったでしょうから……」
永と鈴心の説明を真面目に聞いていた梢賢はさらに身を乗り出して聞いた。
「どうやってその子は助かったんや!?」
「それが……」
「なんや!」
梢賢の剣幕にたじろぎながら、永は困りながら答えた。
「なんで助かったのか、僕もわからないんだよ。その後ライくんが鵺化しちゃって大変だったから……」
「それじゃ困る!葵くんも助けてくれえ!」
「リン、あの時に起こったこと、皓矢から聞いてないの?」
永は降参するように両手をあげて鈴心に振った。すると鈴心も自信なさそう答える。
「お兄様もあの時のことは今も調査中だそうです。ただ、お兄様の想像では、ライが鵺化したからではないかと」
「どういうこと?」
「星弥の中のキクレー因子は厳密には鵺由来ではなく、人工のレプリカに過ぎません。詮充郎がその活発化を図りましたが、時同じくしてオリジナルが顕現したので、レプリカの出る幕がなくなったのでは、とお兄様は仰っていました」
その仮説を噛み締めながら聞いた永は首を捻っていた。
「その理屈だと、葵くんには当てはまらないね」
「はい。雨辺のキクレー因子は何代も遺伝を経ているとはいえ、鵺由来のオリジナルですから。後は、保有するキクレー因子が少量であることを祈るしか」
「既に活発化しちまったから倒れたんだろ?」
蕾生の質問にも鈴心は予想で答えるしかなかった。
「でも少量であれば鎮静化も容易いはずです、多分……」
それを聞いて梢賢はますます青ざめた。
「少量やないかもしれん」
「──覚醒、か」
蕾生が続けると、永も鈴心もキョトンとしていた。
「何それ?」
「菫さんが言ってたんや。葵くんの使徒としての覚醒が近いって」
そこまで聞いて永もやっとこれまでの情報を繋げて導き出すことができた。
「──まさか、薬に?」
「それでキクレー因子を摂取していた……?」
鈴心も信じられない、と言うような顔をしている。そこまで考えが及ばなかった蕾生は一気に怒りが湧いた。
「そんな酷いことをしてたってのか?」
「大変や!葵くんが鵺になってまう!」
梢賢は焦り続けるが、永は半信半疑だった。
「いや、でも、それは……どうなんだろう?」
鈴心も頷きながら困惑している。
「確かに。ライの鵺化に私達は九百年以上骨を折ってきたのに、そんなにポンポン鵺化されても……」
「感情としては納得いかないよね。銀騎さんの時だって、あのまま本当に鵺化したのか今となってはわからないし」
二人が困惑するのは当然だった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
「銀騎の孫娘か?じゃあ、彼女を助けたって言うのは……」
わなわなと震えながら梢賢がやっとそれだけ言うと、鈴心は頷いて続ける。
「星弥も詮充郎によってキクレー因子を植えつけられたデザインベビーです。星弥の実験は早い段階で失敗だとされていました。でも、私達と関わったせいで眠っていたキクレー因子が暴走して意識不明に陥りました」
「鵺化は、心身に重いストレスを与えられた時に起こる。これはライが何度もそうなっているから確かな情報だよ。あの時の銀騎さんも重大なストレスを抱えてた」
「菫が葵に与えたストレスは、相当重いものだったでしょうから……」
永と鈴心の説明を真面目に聞いていた梢賢はさらに身を乗り出して聞いた。
「どうやってその子は助かったんや!?」
「それが……」
「なんや!」
梢賢の剣幕にたじろぎながら、永は困りながら答えた。
「なんで助かったのか、僕もわからないんだよ。その後ライくんが鵺化しちゃって大変だったから……」
「それじゃ困る!葵くんも助けてくれえ!」
「リン、あの時に起こったこと、皓矢から聞いてないの?」
永は降参するように両手をあげて鈴心に振った。すると鈴心も自信なさそう答える。
「お兄様もあの時のことは今も調査中だそうです。ただ、お兄様の想像では、ライが鵺化したからではないかと」
「どういうこと?」
「星弥の中のキクレー因子は厳密には鵺由来ではなく、人工のレプリカに過ぎません。詮充郎がその活発化を図りましたが、時同じくしてオリジナルが顕現したので、レプリカの出る幕がなくなったのでは、とお兄様は仰っていました」
その仮説を噛み締めながら聞いた永は首を捻っていた。
「その理屈だと、葵くんには当てはまらないね」
「はい。雨辺のキクレー因子は何代も遺伝を経ているとはいえ、鵺由来のオリジナルですから。後は、保有するキクレー因子が少量であることを祈るしか」
「既に活発化しちまったから倒れたんだろ?」
蕾生の質問にも鈴心は予想で答えるしかなかった。
「でも少量であれば鎮静化も容易いはずです、多分……」
それを聞いて梢賢はますます青ざめた。
「少量やないかもしれん」
「──覚醒、か」
蕾生が続けると、永も鈴心もキョトンとしていた。
「何それ?」
「菫さんが言ってたんや。葵くんの使徒としての覚醒が近いって」
そこまで聞いて永もやっとこれまでの情報を繋げて導き出すことができた。
「──まさか、薬に?」
「それでキクレー因子を摂取していた……?」
鈴心も信じられない、と言うような顔をしている。そこまで考えが及ばなかった蕾生は一気に怒りが湧いた。
「そんな酷いことをしてたってのか?」
「大変や!葵くんが鵺になってまう!」
梢賢は焦り続けるが、永は半信半疑だった。
「いや、でも、それは……どうなんだろう?」
鈴心も頷きながら困惑している。
「確かに。ライの鵺化に私達は九百年以上骨を折ってきたのに、そんなにポンポン鵺化されても……」
「感情としては納得いかないよね。銀騎さんの時だって、あのまま本当に鵺化したのか今となってはわからないし」
二人が困惑するのは当然だった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる