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第七章
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蕾生は永が習っていた剣道の構えを思い出しながら白藍牙を構える。
「葵、聞こえるか。蕾生だ。俺はお前の仲間だ、わかるか?」
蕾生は目の前の葵が自分と「同じ」ものだと言うことを感じていた。何がどうとかはわからない。けれど葵と意思の疎通が出来るのは自分しかいないと思った。
だが黒い鵺となった葵の目は虚ろに曇り、怒りにまかせて低く唸った後蕾生に飛びかかる。
「!」
来る!と思った瞬間、蕾生は白藍牙を盾に葵の爪を弾いた。それまではただの木刀だと思っていた白藍牙は、まるで鋼のような硬さで葵を弾いた。
「ガッ!……ウゥ」
白藍牙に弾かれた葵は身を翻して着地し、蕾生を注視しながら一歩後ずさった。
葵の攻撃を受けたからか、白藍牙は鈍くも白く光っており、とてもその素材が木であるとは思えなかった。
皓矢から碌にレクチャーも受けずに使ったものの、ちゃんと対抗できていることに蕾生は素直に驚いた。
「なんと素晴らしい呪具だ!そして素晴らしいお力!さすが鵺人、いや、黄金の鵺!」
蕾生と葵の攻防を見た珪は興奮しきりの表情で讃える。
しかし永は珪が「黄金」という言葉を使ったことに驚いていた。そんな事まで知っているだなんて、情報収集に自信があると言っていたのは伊達ではなかったのだと。
「ああ、私の鵺もその高みに昇らなければ……」
そうして珪は興奮したまま手に持っている犀髪の結という呪具を高く掲げた。おそらく「正しい」使い方をするつもりだ。
「やめろぉ!」
永は叫んだ。鵺化した葵に更なる力の活性化を図られたら蕾生はただでは済まない。
「神女の髢よ!」
珪の短い呪文とともに、犀髪の結の先端が一瞬だけ光った。
「!?」
だが、何も起こらない。蕾生と鵺化した葵は距離をとって睨み合いを続けている。珪の動作など気にしてはいないようだった。
「珪!言ったはずだ、お前では扱えない。ストッパーが掛かるように調整した」
舞台の脇にいた八雲が歩みを進めて言った。
それを聞いた珪は顔を歪めて歯を軋ませる。
「余計な事を……瑠深ィ!!」
「は、はい……」
憤りに任せた珪の呼ぶ声に、瑠深は気圧されながらも返事をした。妹を見る兄の目は、既に常軌を逸している。
「お前が使いなさい」
「ええ?」
犀髪の結を瑠深に差し出してニヤリと笑う珪。その姿に邪なものを感じ取った八雲は大声で制する。
「珪、よすんだ!」
「八雲!あれは何なのだ?」
蕾生とともに葵と対峙していた墨砥だったが、堪らず八雲に聞いた。八雲は後悔に顔を歪ませて俯きがちに答える。
「……術者の呪力を引き金に鵺の妖気を増幅して対象に放出するものだ。墨砥兄さん、すまない。珪に頼まれて鵺の妖気を元に、俺が作った」
「何故そんな危険なものを作った!?」
「申し訳ない。職人として、鵺の妖気を扱う誘惑に勝てなかった……」
墨砥は叱責するより先に、呪術師として当然浮かんだ疑問を投げる。
「鵺の妖気?そんなものがどこにあったのだ?」
「犀芯の輪だ。あれを使った」
「だがあれは雨辺がはめていただろう?」
菫は犀芯の輪を指に嵌めて現れた。見せた常人ならざる力もあの環が成したことだろうと墨砥は思っていた。
そして菫が石になった今、犀芯の輪はまだ鵺化した葵の足元に転がっている。
するとその会話に珪が笑いながら入って来た。
「いやだなあ、お父さん。あんな重要な呪具雨辺には勿体無いですよ。とっくに回収済みです」
「じゃ、じゃあ、菫さんが持ってたのは……?」
梢賢が恐る恐る聞くと、珪はまたそちらを向いて可笑しそうに言う。
「八雲おじ様渾身のレプリカだよ。まあ、僕がその後呪毒を仕込んだけどね。おかげで菫の石化が上手くいった」
「珪兄ちゃん……いつからそんな風に」
「そんなことはどうでもいい。瑠深、この犀髪の結に呪力を込めなさい。お前なら、鵺のその先を導くことができる」
梢賢の言葉を鼻で笑って、珪はもう一度瑠深に犀髪の結を差し出して命令する。
「瑠深、だめだ、聞くんじゃない!」
「父さん……」
瑠深は墨砥と珪に挟まれて困惑していた。
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「葵、聞こえるか。蕾生だ。俺はお前の仲間だ、わかるか?」
蕾生は目の前の葵が自分と「同じ」ものだと言うことを感じていた。何がどうとかはわからない。けれど葵と意思の疎通が出来るのは自分しかいないと思った。
だが黒い鵺となった葵の目は虚ろに曇り、怒りにまかせて低く唸った後蕾生に飛びかかる。
「!」
来る!と思った瞬間、蕾生は白藍牙を盾に葵の爪を弾いた。それまではただの木刀だと思っていた白藍牙は、まるで鋼のような硬さで葵を弾いた。
「ガッ!……ウゥ」
白藍牙に弾かれた葵は身を翻して着地し、蕾生を注視しながら一歩後ずさった。
葵の攻撃を受けたからか、白藍牙は鈍くも白く光っており、とてもその素材が木であるとは思えなかった。
皓矢から碌にレクチャーも受けずに使ったものの、ちゃんと対抗できていることに蕾生は素直に驚いた。
「なんと素晴らしい呪具だ!そして素晴らしいお力!さすが鵺人、いや、黄金の鵺!」
蕾生と葵の攻防を見た珪は興奮しきりの表情で讃える。
しかし永は珪が「黄金」という言葉を使ったことに驚いていた。そんな事まで知っているだなんて、情報収集に自信があると言っていたのは伊達ではなかったのだと。
「ああ、私の鵺もその高みに昇らなければ……」
そうして珪は興奮したまま手に持っている犀髪の結という呪具を高く掲げた。おそらく「正しい」使い方をするつもりだ。
「やめろぉ!」
永は叫んだ。鵺化した葵に更なる力の活性化を図られたら蕾生はただでは済まない。
「神女の髢よ!」
珪の短い呪文とともに、犀髪の結の先端が一瞬だけ光った。
「!?」
だが、何も起こらない。蕾生と鵺化した葵は距離をとって睨み合いを続けている。珪の動作など気にしてはいないようだった。
「珪!言ったはずだ、お前では扱えない。ストッパーが掛かるように調整した」
舞台の脇にいた八雲が歩みを進めて言った。
それを聞いた珪は顔を歪めて歯を軋ませる。
「余計な事を……瑠深ィ!!」
「は、はい……」
憤りに任せた珪の呼ぶ声に、瑠深は気圧されながらも返事をした。妹を見る兄の目は、既に常軌を逸している。
「お前が使いなさい」
「ええ?」
犀髪の結を瑠深に差し出してニヤリと笑う珪。その姿に邪なものを感じ取った八雲は大声で制する。
「珪、よすんだ!」
「八雲!あれは何なのだ?」
蕾生とともに葵と対峙していた墨砥だったが、堪らず八雲に聞いた。八雲は後悔に顔を歪ませて俯きがちに答える。
「……術者の呪力を引き金に鵺の妖気を増幅して対象に放出するものだ。墨砥兄さん、すまない。珪に頼まれて鵺の妖気を元に、俺が作った」
「何故そんな危険なものを作った!?」
「申し訳ない。職人として、鵺の妖気を扱う誘惑に勝てなかった……」
墨砥は叱責するより先に、呪術師として当然浮かんだ疑問を投げる。
「鵺の妖気?そんなものがどこにあったのだ?」
「犀芯の輪だ。あれを使った」
「だがあれは雨辺がはめていただろう?」
菫は犀芯の輪を指に嵌めて現れた。見せた常人ならざる力もあの環が成したことだろうと墨砥は思っていた。
そして菫が石になった今、犀芯の輪はまだ鵺化した葵の足元に転がっている。
するとその会話に珪が笑いながら入って来た。
「いやだなあ、お父さん。あんな重要な呪具雨辺には勿体無いですよ。とっくに回収済みです」
「じゃ、じゃあ、菫さんが持ってたのは……?」
梢賢が恐る恐る聞くと、珪はまたそちらを向いて可笑しそうに言う。
「八雲おじ様渾身のレプリカだよ。まあ、僕がその後呪毒を仕込んだけどね。おかげで菫の石化が上手くいった」
「珪兄ちゃん……いつからそんな風に」
「そんなことはどうでもいい。瑠深、この犀髪の結に呪力を込めなさい。お前なら、鵺のその先を導くことができる」
梢賢の言葉を鼻で笑って、珪はもう一度瑠深に犀髪の結を差し出して命令する。
「瑠深、だめだ、聞くんじゃない!」
「父さん……」
瑠深は墨砥と珪に挟まれて困惑していた。
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