転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第七章

7-9 愛してる

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瑠深るみぃ、兄さんの頼みだ、聞いてくれるだろう?僕ら兄妹で眞瀬木ませきを盛り立てていくって約束したじゃないか」
 
「に、兄さん……」
 
 父と兄。どちらが正しいのだろう。どちらの言うことを聞けばいいのだろう。瑠深はその狭間に立って混乱していく。
 
「瑠深!」
 
「瑠深ィ!!」
 
「あ、ああああっ……!」
 
 困惑、そして恐怖。大切な家族の間で板挟みとなり苦しむ瑠深の姿が、蕾生らいおの中であの日祖父に苦しめられた星弥せいやの姿と重なった。

 
 
「てめえら、いいかげんにしろ!!」

 叫んだ蕾生の怒号は、その場の空気をビリビリと震わせた。
 
「!!」
 
 その気迫に押され、眞瀬木の三人は身体を強張らせる。蕾生から漂う強者の匂いを感じたからだ。
 
「ライくん、落ち着──黄金の、雲?」
 
 ここで蕾生まで怒りに呑まれてぬえ化してしまっては危険だ。永は宥めようとしかけて、蕾生の周りに漂う黄金色のもやに気付く。


 
「そいつをお前らの欲望で振り回すんじゃねえ……!」
 
 墨砥と珪を睨む蕾生の迫力は、その場の全員から言葉を奪った。そしてそれはあおいにも同様で、更に慎重さを見せてもう一歩後ずさった。
 
「うあっ……!」
 
「ライくん!」
 
 蕾生は膝を震わせて苦悶に顔を歪めた。
 
「は、るか……、ちょっと、俺、やばい──」
 
「ライ!落ち着きなさい!」
 
 鈴心すずねも懸命に叫んだ。だが、蕾生は片手で頭を抱えて苦しむ。
 
「あ、あぁ……」
 
 永は蕾生の周りに増えていく黄金色の靄を注意深く観察していた。これまでの鵺化ならもっと禍々しい黒い雲が出て来たはずだ。
 
 だが、今見えている黄金の雲は、とても清々しい。
 それなら──

 
 
「ライ!構わない!その怒りを解放しろ!」
 
「ハル様!?」
 
 驚く鈴心に頷いた後、永は蕾生に向けて言う。
 
「ただし、前みたいに怒りに任せるんじゃない!その怒りをコントロールするんだ!お前の中の鵺を従えるんだ!」
 
「鵺を……従える……」
 
 頭を重そうに抱える蕾生に、永は真っ直ぐな瞳で大きく頷いた。
 
「ライくんなら出来る」
 
「でも、もし──」
 
 不安気な蕾生に向けて、永はにっこり笑ってもう一度頷いた。

 
  
「大丈夫だライくん。僕らは君を愛してる」
 
「──」
 
「君がどんな姿になったって愛してる。──君を、信じてる」
 
 君はこんな呪いなんかに負けやしない。
 一度勝ったんだ、きっとまた勝てる。
 僕らはそう、信じてる。

 
 
 永の思いは鈴心にも、もちろん蕾生にも伝わっている。
 
「ライ、思いっきりやりなさい」
 
 鈴心も信頼の瞳を向けて頷いた。
 そこで蕾生の気持ちも決まる。
 
「これ、頼む」
 
「!」
 
 蕾生が投げてよこした白藍牙はくらんがを受け取った永は驚いた。手に持った途端にビリビリととてつもないエネルギーが伝わる。木材であることは間違いないのに、未知なるものを触っているような感覚だった。
 
「おい、ガキ!駄々こねてないでしっかりしやがれ!」
 
 蕾生は葵を見据えて叫んだ。
 
「ガァ!」
 
 その気迫に鼓舞されたのか、鵺化した葵は地面を踏み締め短く吠え、臨戦体勢をとった。
 
「仕方ねえから付き合ってやるよ……!!」
 
 蕾生は自分の中に渦巻いている強い力を解放した。すると強い風とともに黄金色の雲が舞い上がる。雲はどんどん増えて蕾生を包み光り輝いた。
 
「眩しっ!」
 
「なんちゅーこっちゃ……」
 
 瑠深は眩しさに目を眩ませ、梢賢は呆然とその成り行きを見届ける。

 
 
「これは……凄い、凄いぞ……ッ!」
 
 珪は歓喜の声を上げ震えていた。



 
 雲が晴れる。
 金色に光る毛をなびかせて、気高い狒々ひひの眼差しを持った鵺が雄々しく立っていた。







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