転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
146 / 174
第七章

7-10 二体の鵺

しおりを挟む
 金色のぬえは鋭い眼差しで黒い鵺を睨んでいる。その迫力に、その場の誰もが動けなくなった。
 
「……」
 
「──」
 
 黒い鵺──あおいはその気迫に当てられて少し怯み、また一歩後ずさる。
 
「なんて美しい……」
 
 すぐ側で蕾生らいおが鵺化したのを目の当たりにした康乃やすのは呆然としていた。今、現実で起こったことが信じられないという訳ではなく、その金色の姿の神々しさに目を奪われていた。
 
「す、凄い!本当に金色!黒と金、二体の鵺!やった、やったよ灰砥かいと伯父さん!」
 
「珪、やはりお前はまだあいつの事を……」
 
 金色の鵺の顕現にますます興奮したけいは有頂天になって亡き伯父の名を呼ぶ。
 その姿を父親の墨砥ぼくとは後悔とともに眺めることしかできなかった。
 
「ウギャアアア!」
 
 蕾生の気迫に一度は怖気づいた葵だったが、何もせずに屈服する訳にはいかないとばかりに、半ばやけを起こして蕾生に襲いかかる。
 
「ウオオオア!」
 
 それを受けてたった蕾生は雄叫びをあげて葵の突進を受け止めた。体格を比べても蕾生の方が頭一つ大きい。突進した葵は逆に吹っ飛ばされることになる。
 
「ワアアァアア!」
 
 後ろに跳躍した葵は大きく叫んだ。空気が震えて衝撃波が蕾生を襲う。
 
「オアアァァア!」
 
 それが到達する前に、蕾生も大きく叫び衝撃波を相殺した。
 
「ギィアアッ!」
 
 体や衝撃波の大きさで敵わないなら、葵は小さな体を活かした機動性で勝負するしかない。縦横に飛んだ後、蕾生めがけて鋭い爪で襲いかかる。機敏に動き回り手足で打撃を繰り返した。
 
 小煩い打撃を受けながら、蕾生も腕を伸ばして葵を組み敷こうとする。それをスルリと躱した葵はついに蕾生の喉元に噛みついた。
 
「ギャァアッ!」
 
「ライくん!」
 
 苦悶の表情を浮かべる蕾生を見て、はるかは思わず一歩踏み出したがすでに人智を超えた神獣同士の戦いだ。人の身の永にはなす術がない。
 
「ライオンくん……おされてへんか?金色の鵺は、その先の存在なんやろ?」
 
 梢賢しょうけんが防戦一方の蕾生を見て言うと、鈴心すずねも悔しさに歯噛みする。
 
「金色の姿の鵺にはライの自我があります。ライはできるだけ葵くんを傷つけないように戦っている。けど、黒い姿の鵺である葵くんは──」
 
「自我がないから、容赦がないってことか……」
 
「このままではジリ貧です」
 
 葵の爪や打撃を受けながら、その身体を取り押さえようと奮戦する蕾生の姿を永は苦悩しながら見ていた。
 
「……」
 
「ハル坊!なんかないんか!?このままじゃ葵くんもライオンくんも無事じゃ済まん!」
 
 梢賢の叫びを受けて、永は苦し紛れに珪を挑発した。
 
「おい、珪!これがお前の目的なのか?これじゃあ鵺化した二人を消耗させるだけだ!」
 
「おっといけない。つい見惚れてしまっていました。鵺化した葵は大切な器。そろそろ鎮っていただきましょうか、瑠深るみ!」
 
 珪はさらに下卑た笑みを浮かべた後、大声で瑠深を呼んだ。二体の鵺の戦いに怯えてしまっていた瑠深は大きく肩を震わせる。
 
「──!」
 
 そんな妹の様子など構わずに珪は再度犀髪の結さいはつのむすびを目の前に差し出した。
 
「さあ、この犀髪の結に祈れ。お前の呪力なら可能だ。これをもってあの黒い鵺を従えるんだ」
 
「え……あ……」
 
 珪は怯えて動かない瑠深の前まで歩き、その手に無理矢理犀髪の結を握らせる。
 
「怖がることはない。それで晴れてお前は鵺の主人になる。僕ら兄妹は新たな世界の扉を開くんだ!」
 
 新たな世界の扉──またも聞いたその言葉に永は驚愕した。あの時、銀騎しらき詮充郎せんじゅうろうも同じことを言っていた。
 偶然だろうか?いや、何か共通することがあると直感した。







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...