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第七章
7-10 二体の鵺
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金色の鵺は鋭い眼差しで黒い鵺を睨んでいる。その迫力に、その場の誰もが動けなくなった。
「……」
「──」
黒い鵺──葵はその気迫に当てられて少し怯み、また一歩後ずさる。
「なんて美しい……」
すぐ側で蕾生が鵺化したのを目の当たりにした康乃は呆然としていた。今、現実で起こったことが信じられないという訳ではなく、その金色の姿の神々しさに目を奪われていた。
「す、凄い!本当に金色!黒と金、二体の鵺!やった、やったよ灰砥伯父さん!」
「珪、やはりお前はまだあいつの事を……」
金色の鵺の顕現にますます興奮した珪は有頂天になって亡き伯父の名を呼ぶ。
その姿を父親の墨砥は後悔とともに眺めることしかできなかった。
「ウギャアアア!」
蕾生の気迫に一度は怖気づいた葵だったが、何もせずに屈服する訳にはいかないとばかりに、半ばやけを起こして蕾生に襲いかかる。
「ウオオオア!」
それを受けてたった蕾生は雄叫びをあげて葵の突進を受け止めた。体格を比べても蕾生の方が頭一つ大きい。突進した葵は逆に吹っ飛ばされることになる。
「ワアアァアア!」
後ろに跳躍した葵は大きく叫んだ。空気が震えて衝撃波が蕾生を襲う。
「オアアァァア!」
それが到達する前に、蕾生も大きく叫び衝撃波を相殺した。
「ギィアアッ!」
体や衝撃波の大きさで敵わないなら、葵は小さな体を活かした機動性で勝負するしかない。縦横に飛んだ後、蕾生めがけて鋭い爪で襲いかかる。機敏に動き回り手足で打撃を繰り返した。
小煩い打撃を受けながら、蕾生も腕を伸ばして葵を組み敷こうとする。それをスルリと躱した葵はついに蕾生の喉元に噛みついた。
「ギャァアッ!」
「ライくん!」
苦悶の表情を浮かべる蕾生を見て、永は思わず一歩踏み出したがすでに人智を超えた神獣同士の戦いだ。人の身の永にはなす術がない。
「ライオンくん……おされてへんか?金色の鵺は、その先の存在なんやろ?」
梢賢が防戦一方の蕾生を見て言うと、鈴心も悔しさに歯噛みする。
「金色の姿の鵺にはライの自我があります。ライはできるだけ葵くんを傷つけないように戦っている。けど、黒い姿の鵺である葵くんは──」
「自我がないから、容赦がないってことか……」
「このままではジリ貧です」
葵の爪や打撃を受けながら、その身体を取り押さえようと奮戦する蕾生の姿を永は苦悩しながら見ていた。
「……」
「ハル坊!なんかないんか!?このままじゃ葵くんもライオンくんも無事じゃ済まん!」
梢賢の叫びを受けて、永は苦し紛れに珪を挑発した。
「おい、珪!これがお前の目的なのか?これじゃあ鵺化した二人を消耗させるだけだ!」
「おっといけない。つい見惚れてしまっていました。鵺化した葵は大切な器。そろそろ鎮っていただきましょうか、瑠深!」
珪はさらに下卑た笑みを浮かべた後、大声で瑠深を呼んだ。二体の鵺の戦いに怯えてしまっていた瑠深は大きく肩を震わせる。
「──!」
そんな妹の様子など構わずに珪は再度犀髪の結を目の前に差し出した。
「さあ、この犀髪の結に祈れ。お前の呪力なら可能だ。これをもってあの黒い鵺を従えるんだ」
「え……あ……」
珪は怯えて動かない瑠深の前まで歩き、その手に無理矢理犀髪の結を握らせる。
「怖がることはない。それで晴れてお前は鵺の主人になる。僕ら兄妹は新たな世界の扉を開くんだ!」
新たな世界の扉──またも聞いたその言葉に永は驚愕した。あの時、銀騎詮充郎も同じことを言っていた。
偶然だろうか?いや、何か共通することがあると直感した。
===============================
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「……」
「──」
黒い鵺──葵はその気迫に当てられて少し怯み、また一歩後ずさる。
「なんて美しい……」
すぐ側で蕾生が鵺化したのを目の当たりにした康乃は呆然としていた。今、現実で起こったことが信じられないという訳ではなく、その金色の姿の神々しさに目を奪われていた。
「す、凄い!本当に金色!黒と金、二体の鵺!やった、やったよ灰砥伯父さん!」
「珪、やはりお前はまだあいつの事を……」
金色の鵺の顕現にますます興奮した珪は有頂天になって亡き伯父の名を呼ぶ。
その姿を父親の墨砥は後悔とともに眺めることしかできなかった。
「ウギャアアア!」
蕾生の気迫に一度は怖気づいた葵だったが、何もせずに屈服する訳にはいかないとばかりに、半ばやけを起こして蕾生に襲いかかる。
「ウオオオア!」
それを受けてたった蕾生は雄叫びをあげて葵の突進を受け止めた。体格を比べても蕾生の方が頭一つ大きい。突進した葵は逆に吹っ飛ばされることになる。
「ワアアァアア!」
後ろに跳躍した葵は大きく叫んだ。空気が震えて衝撃波が蕾生を襲う。
「オアアァァア!」
それが到達する前に、蕾生も大きく叫び衝撃波を相殺した。
「ギィアアッ!」
体や衝撃波の大きさで敵わないなら、葵は小さな体を活かした機動性で勝負するしかない。縦横に飛んだ後、蕾生めがけて鋭い爪で襲いかかる。機敏に動き回り手足で打撃を繰り返した。
小煩い打撃を受けながら、蕾生も腕を伸ばして葵を組み敷こうとする。それをスルリと躱した葵はついに蕾生の喉元に噛みついた。
「ギャァアッ!」
「ライくん!」
苦悶の表情を浮かべる蕾生を見て、永は思わず一歩踏み出したがすでに人智を超えた神獣同士の戦いだ。人の身の永にはなす術がない。
「ライオンくん……おされてへんか?金色の鵺は、その先の存在なんやろ?」
梢賢が防戦一方の蕾生を見て言うと、鈴心も悔しさに歯噛みする。
「金色の姿の鵺にはライの自我があります。ライはできるだけ葵くんを傷つけないように戦っている。けど、黒い姿の鵺である葵くんは──」
「自我がないから、容赦がないってことか……」
「このままではジリ貧です」
葵の爪や打撃を受けながら、その身体を取り押さえようと奮戦する蕾生の姿を永は苦悩しながら見ていた。
「……」
「ハル坊!なんかないんか!?このままじゃ葵くんもライオンくんも無事じゃ済まん!」
梢賢の叫びを受けて、永は苦し紛れに珪を挑発した。
「おい、珪!これがお前の目的なのか?これじゃあ鵺化した二人を消耗させるだけだ!」
「おっといけない。つい見惚れてしまっていました。鵺化した葵は大切な器。そろそろ鎮っていただきましょうか、瑠深!」
珪はさらに下卑た笑みを浮かべた後、大声で瑠深を呼んだ。二体の鵺の戦いに怯えてしまっていた瑠深は大きく肩を震わせる。
「──!」
そんな妹の様子など構わずに珪は再度犀髪の結を目の前に差し出した。
「さあ、この犀髪の結に祈れ。お前の呪力なら可能だ。これをもってあの黒い鵺を従えるんだ」
「え……あ……」
珪は怯えて動かない瑠深の前まで歩き、その手に無理矢理犀髪の結を握らせる。
「怖がることはない。それで晴れてお前は鵺の主人になる。僕ら兄妹は新たな世界の扉を開くんだ!」
新たな世界の扉──またも聞いたその言葉に永は驚愕した。あの時、銀騎詮充郎も同じことを言っていた。
偶然だろうか?いや、何か共通することがあると直感した。
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