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第七章
7-12 血
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「この白藍牙、僕でも使えそうだな……」
永がぎゅっと握ると、白藍牙は仄かに白く光った。
「ハル様、何をなさるおつもりで?」
鈴心が問うと、永は腹を決めて言う。
「僕の分の因子をライくんに届けたら、葵くんを圧倒できる力が出るかも」
「ですが、今、ライが本気になれないのは葵くんの身を案じているからでは?
さらに力を強めれば勝てるでしょうけど、葵くんも無事には済みませんよ」
「そこは、ライくんの器用さに賭ける!」
「ライが器用だったことがありますか!?」
鈴心が声を張り上げると、落ち着いているのに誰よりもよく通る声がした。康乃だった。
「──おやめなさい」
「!」
「貴方の力は、蕾生君を元に戻すためにとっておきなさい」
「でも、じゃあ!」
焦る永に、康乃は普段通りの微笑みを向けた。
「私にお任せくださる?」
「え──」
「御前!無茶です!」
何かを察した墨砥が声を張り上げる。しかし康乃は首を振った。
「いいえ。私がやらなければ。墨砥は珪をなんとかなさい、いいわね」
「御前……」
「お祖母様!?」
異変を感じた剛太にも、康乃は強い意志を込めた眼差しで言う。
「剛太、よく見ているのです。これが、藤生の取る責というもの!」
次の瞬間、康乃の周りに白い光が輝き出した。この場のどれでもない異質な、けれど清廉な風が舞い始める。
そのオーラの様なものを感じた永は驚愕した。ここまでの力が藤生の当主にあったとは。
そしてその力は金色の鵺である蕾生にも感じられたようで、その手に自らの胴を擦り付けた。
「まあ、乗せてくださるの?嬉しいわ」
康乃は蕾生の背に腰掛ける。蕾生が睨むと、葵は明らかに恐怖の色を滲ませた瞳で空を駆けた。次いで蕾生もそれを追う。背の上の康乃はその間に力を集中させた。
「祖の地より流れし我が血に依て……」
康乃が言葉を紡ぐと、その両の掌から夥しい絹糸が伸びた。まるで生きているかのような糸の群れがあっという間に葵の体を絡めとる。
「──ッ!」
「戒めを!」
「ギャアアア!」
康乃が叫んだと同時に絹糸が輝いて葵を縛り上げる。葵は苦しみながら悲鳴を上げた。
「あなた……葵くんと言ったわね。お母さんを亡くして悲しかったわね……何もできなくてごめんなさいね……」
「ガッ……アァァ……」
康乃が絹糸を操りながら優しく語りかけると、葵は呼吸を制限されて固まった。
「葵くんの動きが止まった!キクレー因子に干渉したのか?何故、康乃さんがそんなことできるんだ?」
「わ、わかりません。あの絹糸の、資実姫の力でしょうか?」
永も鈴心も目の前の光景に驚いた。銀騎や雨都を含む関係者以外で鵺に対抗した人間を初めて見たからだ。
「いや、違う。多分……」
梢賢にはその力の検討がついているようだったが、それを言うのを躊躇っている。
「なるほど。鵺人の遺伝子はここにも。だが、させる訳にはいかない──ッ!?」
事態を重く見た珪が康乃と蕾生に攻撃しようとしたが、墨砥と瑠深が立ちはだかった。
「行かせないよ、兄さん!」
「御前の邪魔はさせぬ!後でお前は私とともに腹を切るんだ!」
「父さん!そんな時代錯誤の冗談は後!」
「冗談では……」
自分の実力ではこの二人を相手取ることはできない。珪は自尊心を砕かれて悔しそうに歯噛みした。
「クソが……!」
そうしているうちに、康乃は葵を締め上げる力を強めていく。
「さあ……子どもはお昼寝の時間よ」
「ガァアアァ……」
葵は苦しみながら次第に大人しくなっていた。虚に曇っていた瞳が白くなっていく。
「眠りなさい!」
絹糸を伝って康乃の神気が葵に注がれた。
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永がぎゅっと握ると、白藍牙は仄かに白く光った。
「ハル様、何をなさるおつもりで?」
鈴心が問うと、永は腹を決めて言う。
「僕の分の因子をライくんに届けたら、葵くんを圧倒できる力が出るかも」
「ですが、今、ライが本気になれないのは葵くんの身を案じているからでは?
さらに力を強めれば勝てるでしょうけど、葵くんも無事には済みませんよ」
「そこは、ライくんの器用さに賭ける!」
「ライが器用だったことがありますか!?」
鈴心が声を張り上げると、落ち着いているのに誰よりもよく通る声がした。康乃だった。
「──おやめなさい」
「!」
「貴方の力は、蕾生君を元に戻すためにとっておきなさい」
「でも、じゃあ!」
焦る永に、康乃は普段通りの微笑みを向けた。
「私にお任せくださる?」
「え──」
「御前!無茶です!」
何かを察した墨砥が声を張り上げる。しかし康乃は首を振った。
「いいえ。私がやらなければ。墨砥は珪をなんとかなさい、いいわね」
「御前……」
「お祖母様!?」
異変を感じた剛太にも、康乃は強い意志を込めた眼差しで言う。
「剛太、よく見ているのです。これが、藤生の取る責というもの!」
次の瞬間、康乃の周りに白い光が輝き出した。この場のどれでもない異質な、けれど清廉な風が舞い始める。
そのオーラの様なものを感じた永は驚愕した。ここまでの力が藤生の当主にあったとは。
そしてその力は金色の鵺である蕾生にも感じられたようで、その手に自らの胴を擦り付けた。
「まあ、乗せてくださるの?嬉しいわ」
康乃は蕾生の背に腰掛ける。蕾生が睨むと、葵は明らかに恐怖の色を滲ませた瞳で空を駆けた。次いで蕾生もそれを追う。背の上の康乃はその間に力を集中させた。
「祖の地より流れし我が血に依て……」
康乃が言葉を紡ぐと、その両の掌から夥しい絹糸が伸びた。まるで生きているかのような糸の群れがあっという間に葵の体を絡めとる。
「──ッ!」
「戒めを!」
「ギャアアア!」
康乃が叫んだと同時に絹糸が輝いて葵を縛り上げる。葵は苦しみながら悲鳴を上げた。
「あなた……葵くんと言ったわね。お母さんを亡くして悲しかったわね……何もできなくてごめんなさいね……」
「ガッ……アァァ……」
康乃が絹糸を操りながら優しく語りかけると、葵は呼吸を制限されて固まった。
「葵くんの動きが止まった!キクレー因子に干渉したのか?何故、康乃さんがそんなことできるんだ?」
「わ、わかりません。あの絹糸の、資実姫の力でしょうか?」
永も鈴心も目の前の光景に驚いた。銀騎や雨都を含む関係者以外で鵺に対抗した人間を初めて見たからだ。
「いや、違う。多分……」
梢賢にはその力の検討がついているようだったが、それを言うのを躊躇っている。
「なるほど。鵺人の遺伝子はここにも。だが、させる訳にはいかない──ッ!?」
事態を重く見た珪が康乃と蕾生に攻撃しようとしたが、墨砥と瑠深が立ちはだかった。
「行かせないよ、兄さん!」
「御前の邪魔はさせぬ!後でお前は私とともに腹を切るんだ!」
「父さん!そんな時代錯誤の冗談は後!」
「冗談では……」
自分の実力ではこの二人を相手取ることはできない。珪は自尊心を砕かれて悔しそうに歯噛みした。
「クソが……!」
そうしているうちに、康乃は葵を締め上げる力を強めていく。
「さあ……子どもはお昼寝の時間よ」
「ガァアアァ……」
葵は苦しみながら次第に大人しくなっていた。虚に曇っていた瞳が白くなっていく。
「眠りなさい!」
絹糸を伝って康乃の神気が葵に注がれた。
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