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第七章
7-13 藍
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康乃の力は鵺化した葵を圧倒していた。絹糸で縛り上げられた葵は康乃の戒めにより意識を手放そうとする。
「やめて!」
康乃が最後に力を込めようとした時、目の前に突然少女が現れた。人間の姿の時の葵にそっくりなその少女は、両手を広げて康乃と鵺化した葵との間に立ちはだかった。
「!」
「おばちゃん、もうやめて、許して!」
「あなたは……?」
その様子を地上から見ていた梢賢は度肝を抜かれて叫んだ。
「藍ちゃん!?」
「どこから!?飛んでる!?」
「まさか、彼女は──」
鈴心も上空を見上げながら驚き、永はこの瞬間藍の正体に納得がいった。
藍は康乃に向けて懸命に訴える。
「おばちゃん、ごめんなさい!葵は苦しかったの!お母さんの役に立ちたかっただけなの!
なのにお母さんがいなくなっちゃって、どうしたらいいかわかんなくなっちゃったの!」
藍の姿はよく見ると少し透き通っていた。おそらくその姿を維持するのに限界が来ているのだろう。そこまで想像した時、康乃も藍の正体を悟った。
「あなた……。ええ、そうね。葵くんの気持ちはわかってるわ。それにおばちゃんは怒っていませんよ」
「ほんと?」
「本当よ。この鵺のお兄ちゃんもね、怒っていませんよ。葵くんを心配しているの」
康乃がその背を撫でながら言うと、蕾生もそれを受けて大きく頷いた。
藍は少し戸惑うような顔で黙っている。
「……」
「あなた、お名前は?」
「藍……」
「いいお名前ね。そしていいお姉ちゃんなのね」
康乃はにっこり笑って目の前の藍を褒めた。藍の存在は確かに葵の心の拠り所だった。
「葵は……一人で、寂しくて……」
「それであなたが側にいてあげたのね」
「うん……」
しかし、藍の存在が消えかけている以上、葵はそれを乗り越えなければならない。寂しさのあまりに具現化されてしまった藍を、自身に戻す強さを手に入れなければならない。
その手伝いを、康乃は菫の代わりに請け負うことを誓う。
「もう大丈夫よ。葵くんは今日からこの里の子になるからね」
「本当?」
藍は不安気な顔で聞いた。ひたすらに葵が心配なのだろう、そして自分がもうすぐ消えることも藍はわかっている。
二人分の不安を抱える健気な子どもに康乃はにっこり笑って言った。
「お母さんの代わりにはなれないかもしれないけど、おばちゃん達がずっと一緒にいるから大丈夫よ」
「うん……」
「藍ちゃんともね、ずっと一緒よ」
「あたしも?」
存在してしまった以上は藍も別個の人間だ。藍自身も納得して消えなければ意味がない。
「うん。だからね、安心してお帰りなさい。これからは葵くんとおばちゃん達とずっと一緒」
「葵!聞いた?」
康乃の真心を受け取った藍はパッと顔を輝かせて葵の方を振り向いた。絹糸に包まれた葵は虚に曇る瞳で藍を見ている。
「……」
「葵!もう大丈夫だよ、もういいんだよ!お姉ちゃんがずっと一緒だからね」
藍は葵に向かっていく。小さな手を伸ばしてありったけの愛を手渡そうとしていた。
「おねえ……ちゃん……」
曇った瞳に少し光が宿る。葵の鵺としての体が朧になっていく。
「ずっと、一緒だよ──」
藍は笑顔のまま消えていく。最後に小さな光の粒になって葵の中に入っていった。
すると葵の体がまた青い光を放ち、一瞬だけ眩しく輝く。その光が収まると葵は人の姿に戻っていた。
「──戻った!」
「すごい……」
見届けた永と鈴心は目を見張る。
梢賢は目に涙をためて鼻をすすっていた。
「あかん、こんなん、奇跡やん……」
===============================
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「やめて!」
康乃が最後に力を込めようとした時、目の前に突然少女が現れた。人間の姿の時の葵にそっくりなその少女は、両手を広げて康乃と鵺化した葵との間に立ちはだかった。
「!」
「おばちゃん、もうやめて、許して!」
「あなたは……?」
その様子を地上から見ていた梢賢は度肝を抜かれて叫んだ。
「藍ちゃん!?」
「どこから!?飛んでる!?」
「まさか、彼女は──」
鈴心も上空を見上げながら驚き、永はこの瞬間藍の正体に納得がいった。
藍は康乃に向けて懸命に訴える。
「おばちゃん、ごめんなさい!葵は苦しかったの!お母さんの役に立ちたかっただけなの!
なのにお母さんがいなくなっちゃって、どうしたらいいかわかんなくなっちゃったの!」
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「あなた……。ええ、そうね。葵くんの気持ちはわかってるわ。それにおばちゃんは怒っていませんよ」
「ほんと?」
「本当よ。この鵺のお兄ちゃんもね、怒っていませんよ。葵くんを心配しているの」
康乃がその背を撫でながら言うと、蕾生もそれを受けて大きく頷いた。
藍は少し戸惑うような顔で黙っている。
「……」
「あなた、お名前は?」
「藍……」
「いいお名前ね。そしていいお姉ちゃんなのね」
康乃はにっこり笑って目の前の藍を褒めた。藍の存在は確かに葵の心の拠り所だった。
「葵は……一人で、寂しくて……」
「それであなたが側にいてあげたのね」
「うん……」
しかし、藍の存在が消えかけている以上、葵はそれを乗り越えなければならない。寂しさのあまりに具現化されてしまった藍を、自身に戻す強さを手に入れなければならない。
その手伝いを、康乃は菫の代わりに請け負うことを誓う。
「もう大丈夫よ。葵くんは今日からこの里の子になるからね」
「本当?」
藍は不安気な顔で聞いた。ひたすらに葵が心配なのだろう、そして自分がもうすぐ消えることも藍はわかっている。
二人分の不安を抱える健気な子どもに康乃はにっこり笑って言った。
「お母さんの代わりにはなれないかもしれないけど、おばちゃん達がずっと一緒にいるから大丈夫よ」
「うん……」
「藍ちゃんともね、ずっと一緒よ」
「あたしも?」
存在してしまった以上は藍も別個の人間だ。藍自身も納得して消えなければ意味がない。
「うん。だからね、安心してお帰りなさい。これからは葵くんとおばちゃん達とずっと一緒」
「葵!聞いた?」
康乃の真心を受け取った藍はパッと顔を輝かせて葵の方を振り向いた。絹糸に包まれた葵は虚に曇る瞳で藍を見ている。
「……」
「葵!もう大丈夫だよ、もういいんだよ!お姉ちゃんがずっと一緒だからね」
藍は葵に向かっていく。小さな手を伸ばしてありったけの愛を手渡そうとしていた。
「おねえ……ちゃん……」
曇った瞳に少し光が宿る。葵の鵺としての体が朧になっていく。
「ずっと、一緒だよ──」
藍は笑顔のまま消えていく。最後に小さな光の粒になって葵の中に入っていった。
すると葵の体がまた青い光を放ち、一瞬だけ眩しく輝く。その光が収まると葵は人の姿に戻っていた。
「──戻った!」
「すごい……」
見届けた永と鈴心は目を見張る。
梢賢は目に涙をためて鼻をすすっていた。
「あかん、こんなん、奇跡やん……」
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