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第七章
7-14 不細工
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上空では康乃が絹糸を引き寄せて気を失った葵を抱きかかえた。二人を背に乗せた蕾生がゆっくりと地面に降り立つ。
「──くっ!」
蕾生の背から降りようとした康乃は葵を抱えたまま膝から崩れ落ちた。
「御前!」
「康乃様!」
直ぐに墨砥と瑠深が駆け寄った。葵を瑠深に預け、康乃は墨砥に支えられる。
「はあ、はあ……だい、じょうぶです。でもさすがに疲れたわ……」
「お見事でございました」
「やあね、これくらいは軽くできないといけないのだけど、年をとったわねえ」
荒い息を整えている康乃の後ろで、金色の鵺である蕾生もガクリと体勢を崩す。
「ライくん!」
「ライ!」
永と鈴心が駆け寄る。蕾生はすでに自分では立てなくなっており、ぜえはあと苦しそうに呼吸していた。
「消耗が激しいわ。すぐに戻しなさい」
「え、でも、どうやって?」
康乃が厳しい口調で言うけれども、永にも鈴心にもその方法がわからなかった。
「前にお兄様は呪文を唱えましたが……」
「あんな変な呪文なんて覚えてないよ!」
息も絶え絶えの蕾生の姿に焦りながら永が狼狽える。
皓矢が以前使った術が出来るわけがない。白藍牙の使い方も碌に教えてくれなかった皓矢には怒りを覚える。
あのどグサれ陰陽師が!今すぐ来てライを元に戻せ!
永が心の中で毒づいた時、聞き覚えのある涼しげな声がした。
「呪文はいらないよ」
「げ!」
「お兄様!?」
村人が逃げた方向から、パリッとしたスーツに身を包んだ銀騎皓矢が現れた。
「どど、どうしてお前がここに!?」
なんというタイミング。鮮やか過ぎて永の頭は一瞬パニックになった。しかしそういう自分の行動に対する自覚がない皓矢は、まず目の前の事案に指示を出した。
「まずは蕾生くんを戻しなさい。白藍牙に永くんが祈ればいい」
「ええ?」
永が半信半疑でいると、皓矢は少し挑発するような口調で言った。
「これくらいは僕なしでもできるようにならないと」
目論見通りカチンときた永は白藍牙を握った。
「おお、上等だ、やってやんよ!」
蕾生は相変わらず荒い呼吸で苦しんでいる。祈れと言われても勝手がわからない。けれど蕾生の無事を願う気持ち、蕾生に戻ってきて欲しいという気持ちを永は白藍牙に込めた。
「ライくん、お疲れ様──」
呪文は覚えていないがあの時皓矢がしていた動作を思い出しながら永はやってみた。
白藍牙に祈りをこめてその切先を優しく蕾生の額に当てる。すると金色の鵺の体が輝き始め、黄金色の雲が包んでいく。
雲は靄となりゆっくり晴れて、そこには人の姿に戻った蕾生が立っていた。しかし蕾生はそのまま倒れそうになる。
「──!」
永は手を伸ばして蕾生を支えて抱き締めた。
「お帰り、ライくん」
「おう……キツかったけどな……」
疲れ果てた声ではあったが、蕾生は穏やかに笑っていた。
「ライ!良かった……」
鈴心も駆け寄って蕾生の体をさする。
「葵は?」
「大丈夫や、康乃様が守ってくれとる」
梢賢が指差す方、瑠深と康乃に抱かれて眠る葵を見て蕾生は安堵の溜息を吐いた。
「良かった……」
「良かったのはライオンくんもやで」
「?」
涙声の梢賢の言葉がすぐ近くで聞こえた。
「ありがとう。ありがとうな」
ぐずぐずの顔を向けて言う梢賢に、蕾生は思わず苦笑する。
「不細工な顔だな」
でも、その顔は結構好きだ。
===============================
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「──くっ!」
蕾生の背から降りようとした康乃は葵を抱えたまま膝から崩れ落ちた。
「御前!」
「康乃様!」
直ぐに墨砥と瑠深が駆け寄った。葵を瑠深に預け、康乃は墨砥に支えられる。
「はあ、はあ……だい、じょうぶです。でもさすがに疲れたわ……」
「お見事でございました」
「やあね、これくらいは軽くできないといけないのだけど、年をとったわねえ」
荒い息を整えている康乃の後ろで、金色の鵺である蕾生もガクリと体勢を崩す。
「ライくん!」
「ライ!」
永と鈴心が駆け寄る。蕾生はすでに自分では立てなくなっており、ぜえはあと苦しそうに呼吸していた。
「消耗が激しいわ。すぐに戻しなさい」
「え、でも、どうやって?」
康乃が厳しい口調で言うけれども、永にも鈴心にもその方法がわからなかった。
「前にお兄様は呪文を唱えましたが……」
「あんな変な呪文なんて覚えてないよ!」
息も絶え絶えの蕾生の姿に焦りながら永が狼狽える。
皓矢が以前使った術が出来るわけがない。白藍牙の使い方も碌に教えてくれなかった皓矢には怒りを覚える。
あのどグサれ陰陽師が!今すぐ来てライを元に戻せ!
永が心の中で毒づいた時、聞き覚えのある涼しげな声がした。
「呪文はいらないよ」
「げ!」
「お兄様!?」
村人が逃げた方向から、パリッとしたスーツに身を包んだ銀騎皓矢が現れた。
「どど、どうしてお前がここに!?」
なんというタイミング。鮮やか過ぎて永の頭は一瞬パニックになった。しかしそういう自分の行動に対する自覚がない皓矢は、まず目の前の事案に指示を出した。
「まずは蕾生くんを戻しなさい。白藍牙に永くんが祈ればいい」
「ええ?」
永が半信半疑でいると、皓矢は少し挑発するような口調で言った。
「これくらいは僕なしでもできるようにならないと」
目論見通りカチンときた永は白藍牙を握った。
「おお、上等だ、やってやんよ!」
蕾生は相変わらず荒い呼吸で苦しんでいる。祈れと言われても勝手がわからない。けれど蕾生の無事を願う気持ち、蕾生に戻ってきて欲しいという気持ちを永は白藍牙に込めた。
「ライくん、お疲れ様──」
呪文は覚えていないがあの時皓矢がしていた動作を思い出しながら永はやってみた。
白藍牙に祈りをこめてその切先を優しく蕾生の額に当てる。すると金色の鵺の体が輝き始め、黄金色の雲が包んでいく。
雲は靄となりゆっくり晴れて、そこには人の姿に戻った蕾生が立っていた。しかし蕾生はそのまま倒れそうになる。
「──!」
永は手を伸ばして蕾生を支えて抱き締めた。
「お帰り、ライくん」
「おう……キツかったけどな……」
疲れ果てた声ではあったが、蕾生は穏やかに笑っていた。
「ライ!良かった……」
鈴心も駆け寄って蕾生の体をさする。
「葵は?」
「大丈夫や、康乃様が守ってくれとる」
梢賢が指差す方、瑠深と康乃に抱かれて眠る葵を見て蕾生は安堵の溜息を吐いた。
「良かった……」
「良かったのはライオンくんもやで」
「?」
涙声の梢賢の言葉がすぐ近くで聞こえた。
「ありがとう。ありがとうな」
ぐずぐずの顔を向けて言う梢賢に、蕾生は思わず苦笑する。
「不細工な顔だな」
でも、その顔は結構好きだ。
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