転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第七章

7-15 贖罪

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「は……ははは、はははは!素晴らしい!実に素晴らしいものを見せてもらった!」
 
 場の雰囲気をぶち破ってけいの高らかな笑いが響いた。場違いな程にはしゃぐ珪にはるかは厳しい視線で言い放つ。
 
「お前の計画は失敗だ、観念するんだな」
 
「失敗?とんでもない、大成功だとも!今、康乃やすの様は言いましたよね!その葵を里に迎えると!」
 
「ええ」
 
 康乃が睨んでいることも意に介さず、珪は上機嫌で続けた。
 
「今こそ、里はぬえの元で一つになるべきなんです!あおいを鵺として祀り、鵺の下では里の者は皆平等!そして眞瀬木ませきは鵺の主人として里に君臨するんです!」
 
「珪!お前はまだそんなことを……!」
 
「兄さん!正気に戻ってよ!」
 
「僕は正気さ!大真面目だとも!」
 
 墨砥ぼくと瑠深るみが大声で嗜めても、珪は常軌を逸した高笑いを続けていた。
 
「鵺に、魅入られてしまったか……」
 
 無念を感じて項垂れる墨砥の肩を叩いて、それまで事の成り行きを見守っていた八雲やくもが一歩前に進む。
 
「珪」
 
「なんです、おじ様?」
 
 その寡黙な瞳に後悔の色を滲ませて八雲は静かに告げた。
 
灰砥かいと兄さんを殺したのは俺だ」
 
「──!!」
 
 その言葉に、珪は途端に顔を曇らせた。
 八雲の告白は続く。
 
「灰砥兄さんも、ちょうど今のお前の様に鵺に魅入られていた。粛清は避けられなかった。だが、お前が灰砥兄さんを慕っていたのは充分知っている」
 
「──」
 
「心のよりどころを突然失ったお前は、こうでもしなくては自我が保てなかったんだろう。許せとは言わん、腹いせに俺を殺せ」
 
「八雲おじさん!?」
 
「お前は、その負い目で珪に加担したのか……」
 
 そのとんでもない申し出に、瑠深は大きく動揺し、墨砥は諦めの入った表情で項垂れた。
 
 そして珪は八雲に対し、とても冷たい目で言い捨てる。
 
「──知ってますよ、そんなことは」
 
「!?」
 
「八雲おじ様が贖罪で僕の言いなりになっていることもね、もちろん知ってましたよ。都合が良かったので利用させてもらいました」
 
「そうか……」
 
 八雲は全てを諦めた。珪の心に巣食ったものは、己の命に変えても取り除くことができないことを悟った。
 
「でも、そうですね。せっかくの申し出ですからお受けしますよ。犀髪の結さいはつのむすびではいらぬ調整をされて僕は少々むかついているのでね」
 
「……」
 それでも、差し出せるものはこれしか思いつかない。
 
「兄さん!やめて!」
 
「珪!」
 
 瑠深も墨砥もこの事態に絶望した。眞瀬木という家の業をこれほど後悔したことはない。
 
「サヨナラ、八雲おじ様──」
 
 無抵抗の八雲に向けて、珪は愉快そうに右手を振り上げる。
 
 だが、次の瞬間、その手は白く光る糸で縛り上げられた。
 
「!」
 
「やめろ……」
 
梢賢しょうけんッ!?」







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