転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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エピローグ

8-15 楓を継ぐ風

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「けど、わかんないな。どうして灰砥かいとさんもけいさんも鵺人ぬえびとを目の敵にするんです?口では持ち上げておきながら──」
 
 弛んだ空気感を戻すようなはるかの言葉に、墨砥ぼくとも体勢を立て直し元の威厳ある物言いで答えた。
 
「ここからは私の想像なのだが、兄や珪の考える世界では鵺も鵺人も信仰の対象であると同時に、従えるべき存在なのだと思うのだ」
 
「ああ、眞瀬木ませきが鵺を従えるとも言っていましたね」
 
「人間の上位の存在が鵺及び鵺人。珪達は鵺を上位の存在と認めつつ、それよりも更に上に自分達が上り詰めようとしているのでは……」
 
 そんな墨砥の考えを皓矢こうやも頷きながら聞いた。
 
「いつかは鵺の上に君臨することを目指す、ということか……」
 
「スーパー上昇志向って訳ね」
 
 永は呆れていた。やはり眞瀬木珪は碌でもない。だがそれを父親と妹の前ではさすがに言えなかった。
 
「それで、灰砥さんは康乃やすのさんを呪おうとしたから、その……」
 
「粛清した」
 
「……」
 
 鈴心すずねが遠慮がちに言った言葉に、八雲やくもは淡々と短く答える。それで鈴心は何も言えなくなった。更に八雲は続ける。
 
「八雲には二つの役目がある。一つは呪具職人。もう一つは眞瀬木を乱す者を粛清する暗殺者だ」
 
「ハハァ……」
 皓矢が感嘆を漏らすので、鈴心は不安になって嗜めた。
 
「お兄様、そこは学ばないでください」
 
「もちろん」
 
 そんな茶々入れを意に介さず、八雲は懺悔するように言う。
 
「灰砥兄さんを粛清した後、珪への配慮が足りなかった。もう少し気をつけていれば鵺に魅入られることも無かったかもしれない」
 
「どうかな、それは」
 
「……」
 梢賢しょうけんの言葉の続きを八雲は神妙な顔で待った。
 
「珪兄やんのアイデンティティはとっくに鵺で作られとった。オレは小さい頃から良く知っとる。だからそれを唯一知ってたオレが止めなくちゃいけなかったんや」
 
「梢賢、決してお前のせいではないぞ」
 
 自分を責める梢賢を墨砥も瑠深るみも首を振って気遣った。
 
「そうだよ。父さんやあたしも知ってて何もしなかった。兄さんを信じたかったから……」
 
「せやな……」
 
 梢賢は確かに最初から珪を疑っていた。だからこそすみれを正気に戻すことに躍起になった。そうすれば珪は菫やあおいを諦めるかもしれないと、信じたかった。
 実際は珪は既に梢賢にも墨砥達にも及ばない所まで行ってしまっていた。梢賢達が珪を信じたいばかりで目が曇ってしまっていたのを逆手にとって、珪は自分の望みを完遂した。
 
「あの馬鹿息子が──!」
 
 家族以外の梢賢がここまで信じてくれていたのに。そんな憤りを墨砥は素直に表す。
 
「おっちゃん、珪兄やんの件はオレに任せてくれへんか?」
 
「え?」
 
「オレが地の果てまでだって探し出して連れ帰る。そんで康乃様に土下座させんねん!そん時はおっちゃん達も付き合ってもらうで!」
 
 さすが、かえでが託した子だ。墨砥は改めて梢賢に陽だまりのような感情を抱く。
 
 雨都は、いつも村に新しく清々しい風を送ってくれる。
 
「──わかった。お前に任せよう」
 
「梢賢、ありがと」
 
「おう」
 
 この楓の後継に、村の──眞瀬木の未来を託してみよう。
 墨砥も瑠深も、ニカッと笑う梢賢の笑顔を信じた。







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